hiyamizu's blog

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森浩美『こちらの事情』を読む

2024年09月17日 | 読書2

 

森浩美著『こちらの事情』(双葉文庫、も12-02、2009年9月13日双葉社発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

愛の消えた生活、ままならぬ人生……でも、人は努力する。そこに、ドラマが生まれる。「どの物語にも最後は“光”を残した。“救い”と言い換えてもいい」(著者あとがきより)。
『晴天の万国旗』は数々の試験問題に、そして『荷物の順番』『短い通知表』『福は内』はラジオドラマの原作に選ばれた、珠玉の短編集。
「人生捨てたもんじゃない」――平凡かつ楽ではない毎日の中に希望を見いだす、真正面からの家族小説です。

 

見返しには、

「こちらの事情を口にするとき

 それは身勝手な言い分になってしまうかもしれない

 でも察してほしいときがある」

 

 

初出:「小説推理」2006年7月号~2007年2月号。2007年4月、双葉社よりハードカバーで刊行。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

ひねくれているくせに、根が単純で、最近は何見てもほろりとしてしまうお爺さんは五つ星。

タモリと用水がラジオで、「年取ると涙もろくなるよね」と話していた。「地生えの松、あれは泣けるね!」「泣ける、泣ける。けなげだよね!」「自分の枝を持ち上げられなくなって、棒で支えてもらっても、それでも必死に枝を伸ばしているんだからね」。あのふざけたタモリと用水だからこそ、笑えた。

 

まあ、試しに読んでください、森浩美(男性、放送作家、作詞家)の家族物。

森浩美の略歴と既読本リスト (9月20日にUPします)

 

以下、私のためのメモ(ネタバレ注意

 

泣かせどころを心得た手練れの森浩美。あれこれ思い出してほろりとなるようになってしまったお爺さんは、概要を2行づつ書くつもりがつい長くなってしまったので、内容紹介はメモとして最後に回した。

 

「晴天の万国旗」

息子の光平はクラス対抗リレーの選手に選ばれていたのに「オレ、リレーに選手、降りようかな……」とこぼす。母の美代は「お母さん、昔さぁ……逃げちゃおうかなって思ったことがあるんだ」と、昔話を始めた。
美代のライバルは、意地悪な大家の娘・晶子だったが、練習で転んだのを美代のせいにし、親とともに美代の家に怒鳴り込んできた。借家を追い出されることを恐れた美代は、運動会の当日……。

 

「葡萄の木」

小3の遼太郎のお気に入りは種無しピオーネで、一家4人で勝沼に葡萄狩りに行くことになった。前日、仕事で何かあった夫がイライラして帰って来た。食事中に掛かってきたケータイに返信メールを打ち、夫に注意されても挑むように止めない娘・夕夏に怒って夫はケイタイを壊してしまった。

それでも葡萄狩りに行って、息子は1本の木の、隣り合った房ばかりにハサミを入れる。「この葡萄はさぁ、たぶん家族なんだよ。だから別々にしたら可哀想じゃん」。

 

「甘噛み」

メグという名の犬を飼う子供のいない夫婦。妻と、どうしても一緒に住まない妻の母がメグを連れて旅行に行く。最初の結婚で子ができないようにされた母は再婚し、姉の子を養女にして育てたのだった。妻はメグには子供を産ませたい。だから、母に一緒に住んで欲しいと頼む。

 

「短い通知表」

家族4人で互いに通知表を作って、大晦日に交換し合っていたが、妻・潤子が今年の春、突然亡くなってしまった。妻の部屋を整理していると、“明日やること帳”と書いたノートが出てきた。
中に“頼んだケーキ買い忘れ、しかも開き直る、ー10点”、“検診に行けと言われる。気遣いあり、+10点”などと書いてあった。

 

「福は内」

出張の帰りに正月にも帰らなかった実家に寄り道した。何も話さなかったのだが、父も母も弟も、お金に困っていると察していたのではないだろうか。帰宅後しばらくしてから母から荷物が届いた。

 

「靴ひもの結び方」

大型開発の実務責任者になって住民説明会が紛糾し、暗礁に乗り上げて赤木は苦しい立場になっていた。娘・紗香の弟が無事産まれることができず、そのことを抱え続けていた赤木は妻とも娘ともうまくいかなくなっていた。ふと見かけた一人ぼっちの足の悪い周くんに、妻や娘に隠れて、野球を熱心に教えることになる。

 

「妻のパジャマ」

私は子会社に出向で仕事はヒマになり、娘は結婚し、息子は京都で就職した。そして、もう自由になりたいと妻・紀代子から離婚届けを渡された。翌朝、紀代子はぎっくり腰になり、入院した。

 

「荷物の順番」

妻と5歳の娘を連れて、15年振りの生まれ故郷のローカル線の終着駅へ。旭川の実家への予定を変更したので妻のご機嫌は斜め。兄弟いずれも時間が取れなくて、おふくろを施設に入れるのに末っ子の私が駆り出されたのだ。
このまま母と一緒に東京へ帰るかと心が迷う私に母は言う。
「人は生きていれば色んなことがある。でも、人の手はふたつしかないからね」「…荷物を持つにも順番があるんだ。…欲張ればそれは“お荷物”になるだけ。お前がちゃんと抱えてあげなきゃならないのは家族と仕事。親に育ててもらったら、今度は子供を育てる。世の中は順番なんだから。それが一番の親孝行になるんだから。…」

「おふくろは、お荷物のはずがない。おふくろはおふくろだ……」

 

 

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