hiyamizu's blog

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小山登美夫『“お金”から見る現代アート』を読む

2023年08月13日 | 読書2

 

小山登美夫著『“お金”から見る現代アート』(講談社+α文庫、2015年1月20日講談社発行)を読んだ。

 

村上隆、奈良美智など数多くの日本人アーティストを世界に紹介してきたギャラリスト・小山登美夫が、現代アートビジネスの仕組み、アートマーケットの実状、オークションの裏側を、初心者に解説する。

ギャラリスト:最初に作家の作品が展示・販売されるギャラリーの運営者

 

「なぜこの絵がこんなに高額なの?」という素朴な疑問に答え、現代アートとお金の関係をわかりやすく解説する。お金がわかると現代アートがおもしろくなる。ギャラリストの本音(?)が聞けるので、面白い。

 

はじめに

2008年、3月、ニューヨークのオークションで、運慶作と伝えられる「木造大日如来像」が約12億円で落札された。5月、ニューヨークのサザビーズのオークションで、村上隆のフィギュア「マイ・ロンサム・カウボーイ」が約16億円で落札された。素材はグラスファイバーなど、高さ254㎝、顔はアニメの主人公風の少年、全裸でペニスは勃起、精液が身体を包むように高く宙に渦巻いている。

村上隆が運慶を上回る16億円! 現代アートがわかりづらいのは、このお金の問題だろう。

 

第1章 なぜ村上フィギュアが16億円になったか

1998年頃、著者のギャラリーでこの「マイ・ロンサム・カウボーイ」(エディション(複製した限定数)が5つある)を展示していて、約500万円で売った。10年で300倍になった。
著者によれば、この作品は質の高いコンセプチュアル・アートで、アニメ風の少年フィギュアにすることで、エロティックな生々しさはなく、気軽さや親しみやすさが生まれている。また、制作するための技術もさまざまな専門分野の優秀な職人と技術者が多数関わっている。

それにしても高すぎるが、現代アートを買うことは富と名声のシンボルになっている面がある。

 

1996年当時、現代アートは抽象的だったり、逆にメッセージ性が強すぎたりして、美術のための美術だった。見る人を楽しませる要素が少なかった。
そこで登場したのが、「イラスト」とか「マンガ」と言われていた村上さんや奈良さんだ。村上作品は、技術的に優れていて、主題が重層的で社会性を持っているし、奈良さんの絵(目つきの悪いおかっぱの女の子の絵)は、絵画の歴史の正統な流れの中にありながら、彼が少年期に感じていただろう感情が、あどけない子供や犬の表情の奥に込められている。

 

村上さんは「売れないと自分の作品は完結しない」「歴史に残らなければ芸術作品ではない」と言う。美術は、欲しいという人が増えていくほど希少価値としての作品が高くなっていき、歴史の中で残っていく。

 

著者が最初に奈良さんに会った頃、「奈良さんの作品って、イラストとどう違うの?」と聞いた。彼の答えは「僕は描きたいものしか描かない」と答えた。

 

 

本作品は2008年8月、講談社より刊行された『その絵、いくら? 現代アートの相場がわかる』を改題、加筆・訂正し文庫収録したもの。

 

小山登美夫(こやま・とみお)

小山登美夫ギャラリー株式会社代表取締役。1963年、東京生まれ。東京藝術大学芸術学科卒業。西村画廊、白石コンテンポラリーアート勤務を経て、1996年に小山登美夫ギャラリーを開廊。2005年11月に江東区清澄白河にギャラリーを移転。2012年、シンガポールに支店をオープン。2008年より明治大学国際日本学部特任准教授

著書、『現代アートビジネス』(アスキー新書)、『見た、訊いた、買った古美術』(新潮社)、『小山登美夫の何もしないプロデュース術』(東洋経済新報社)。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

アート市場で価格がどのような仕組みで決定するかが良く分かった。しかし、仕組みはわかっても、アートの価値(価格)については、例えば村上さんのフィギャーや、奈良さんの漫画っぽい絵が何億もすると言われても、納得できない。

 

 

 

以下、アート産業の仕組みの説明

 

アートの価格

プライマリー・プライスと、セカンダリー・プライスがある。

プライマリー・プライス:ギャラリーで新作を展示し販売するときにつける値段で、アーティストとギャラリストの間で決定される。アーティストのアトリエから直接ギャラリーに持ち込まれるので贋作は99%ない。
作品のサイズが大きいと高く、素材がドローイング(水彩画や線画)よりペインティング(油彩画、アクリル画)の方が高くなる。
作品が売れた場合の画料は、洋画や日本画では20%位といわれるが、現代アートではギャラリストとアーティストの取り分は50:50。

セカンダリー・プライス:2回目以降のつけられる値段。オークションに出た場合の価格や、コレクターが手放すときの価格など。オークション価格こそが作品の本当の流通価格といえる。
日本最大手のオークションハウスはシンワアートオークションだが、手数料は落札価格200万円以下は16.2%、200万円~5000万円は12.96%、5000万円以上で10.8%。購入者に加え、出品者からも出品料をとるケースが多い。
高額で落札されても、そのアーティストの作品価格が底上げされる可能性は高いが、直接は一銭も入らない。

 

デコラティブ・アート(装飾美術):インテリアや家具などの調度類を飾るための美術。

クリスチャン・ラッセン、ヒロ・ヤマガタ、トーマス・マックナイト、笹倉鉄平の作品。オークションには出てこない。プライマリーで完結していて、セコンだりーはほとんど成立しない。

 

アートの価値

「技術」「感情」「コンセプト」で、作品の価値を判断する。
セザンヌの絵は、感情表現は見られないが、アカデミックに突き詰めた「技術」と「コンセプト」は革新的。エゴン・シーレは感情表現が優れている。

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