hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

奥田英朗『我が家の問題』を読む

2017年03月14日 | 読書2

 

 

奥田英朗著『我が家の問題』(集英社文庫お-57-4、2014年6月30日発行)を読んだ。

 

平凡な家庭人がちょっとしたことで徐々にずれていく『家日和』に続く、家族シリーズ第2弾で、6編の短編集。なお、第3弾は『我が家のヒミツ』。

 裏表紙にはこうある。

夫は仕事ができないらしい。それを察知してしまっためぐみは、おいしい弁当を持たせて夫を励まそうと決意し―「ハズバンド」。新婚なのに、家に帰りたくなくなった。甲斐甲斐しく世話をしてくれる妻に感動していたはずが―「甘い生活?」。それぞれの家族に起こる、ささやかだけれど悩ましい「我が家の問題」。人間ドラマの名手が贈る、くすりと笑えて、ホロリと泣ける平成の家族小説。

 

 

甘い生活?

新婚の妻・昌美はあまりにも甲斐甲斐しすぎる。一人暮らしが長かった32歳の夫・田中淳一は気楽な一人の時間を持てず、家での時間を窮屈に感じるようになり、麻雀や、喫茶店に立ち寄ってから家へ帰るようになる。一方、昌美は「思い出作り」にこだわり、子供は私立の小学校に入れるとこだわり、ついに新婚夫婦は喧嘩して・・・。

 

ハズバンド 

井上めぐみは、夫・秀一が実は仕事ができないらしいと気付く。

仕事ができない男にとって、会社とはなんときびしい場所なのか。その冷遇のされ方は女のブスをも凌ぐ。

めぐみは手作りの考え抜いたお弁当を持たせることにした。

 

絵里のエイプリル

高3の浜田絵里は、祖母が母と間違えて話し出した電話を受け、両親が離婚の危機にあるらしいことを知る。家族のことなど無関心だった絵里も、友人たちに相談し、親達の情報を集め、かなり離婚した夫婦が多いことを知る。食うことにしか興味ない高1の弟・修平は・・・。

 

夫とUFO 

夫の高木達夫がUFOと交信出来ると、ある日妻・美奈子にうち明けた。夫はいったいどうしてしまったのか?美奈子はかっての勤め先に電話して会社での夫の立場を知る。人の良い達夫は会社でどんどん仕事を押しつけられているようだった。美奈子は夫に言う。「健康第一。家族も第一。お金はずっと下」

 

里帰り

岸本幸一の故郷は北海道、妻・沙代は名古屋。結婚して最初の夏季休暇では、海外旅行をあきらめて、離れた二人の実家に里帰りせざるを得ないことになった。親戚づきあいが、割り勘、ご祝儀無しなど淡泊な北海道と、濃厚な名古屋。幸一は、どちらかというと男女平等を旨とする沙代が結構適応性が高いことが分かり安心する。結局二人とも・・・。

 

妻とマラソン

『家日和』の「妻と玄米ご飯」で、妻・里美のロハス志向に辟易した小説家の大塚康夫の続きの話。友達夫婦だったのに夫が作家となり、自分は取り残された気持ちになり、ここでは、里美はマラソンにハマる。そして、次回作『我が家のヒミツ』では、里美はボランティア仲間の推薦で市議会議員選挙に出馬すると言い出す。

 突然人気作家となった妻の問題行動シリーズで、かなり実話に近い話なのかと思っていたが、なんと著者は一人暮らしだという。

 

初出:「小説すばる」2010年2月号~2011年2月号、2011年7月集英社より刊行

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 どこにでもあるような、ちょっとした問題を持つ家族の物語を穏やかに語る。離婚を扱った「絵里のエイプリル」以外は、読者が期待する心温まる結末が待っている。

 奥田さんは、軽妙洒脱な空中ブランコ」、ミステリーと言える「オリンピックの身代金沈黙の町で』『噂の女』『ナオミとカナコ』など幅広いジャンルの小説を書いているが、もっとも気楽に楽しんで書いているのが、「家日和」、本書『我が家の問題』、『我が家のヒミツ』と続く我が家シリーズではないだろうか。

 

裏表紙に著者は「人間ドラマの名手」とあったが、本書の刊行記念インタビューで、奥田さんはこう語っている。

僕はひとり暮らしだから、家族のことはよくわからないんですよ。自分にはないものだからこそ、一生懸命想像するというか。

奥田さんは独り者らしい。それでよく夫婦の機敏が書けるものだ。

 

 

奥田英朗(おくだ・ひでお)
1959年岐阜市出身。雑誌編集者、プランナー、コピーライターを経て、
1997年「ウランバーナの森」で作家デビュー。第2作の「最悪」がベストセラーになる。
2002年「邪魔」で大藪春彦賞
2004年「空中ブランコ」で直木賞
2007年「家日和」で柴田錬三郎賞
2009年「「オリンピックの身代金で吉川英治文学賞受賞
その他、「イン・ザ・プール」「町長選挙」「マドンナ」「ガール」「サウスバウンド」『沈黙の町で』『噂の女』『ナオミとカナコ』『我が家のヒミツ』『向田理髪店』など。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする