hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

奥田英朗『噂の女』を読む

2014年01月26日 | 読書2

奥田英朗著『噂の女』(2012年11月新潮社発行)を読んだ。

中古車店に毎日クレームをつけに来る中途半端な3人組、
仕事後の麻雀と図書館でのさぼりで憂さ晴らしの営業マン、
料理教室の食材の品質の悪さに陰で不満を言う女たち、
老いた父が若い女と結婚し財産とられると画策する子供たち、
失業保険で暮らしながらパチンコで時間をつぶす女、
母から家に入れる金を増やせと言われる保育士、
改革を目指す青年副社長を抑え込む談合・癒着の弱小建設会社組合、
寺から突如高額の寄進依頼にあわてる檀家たち、
悪い女を立件できそうなのに上司に待ったを食らう刑事、
再来週のスカイツリー入場券入手という無理な要求を受ける県会議員秘書。

鬱屈した日々を送る彼らの前に現れた黒い噂が流れるちょっと艶っぽいイイ女・糸井美幸。
恵まれない家庭で、目立たない子だったが、短大で急に色っぽくなり、男あしらいに天性の巧みさを発揮。
中古車の販売店の事務員で社長の愛人、雀荘のバイトで金持ち老人をコロがして年の差婚、料理教室では姐御肌で交渉役。建築会社社長の愛人、ダンナの保険金で柳ケ瀬の高級バーのママ、そして由緒ある寺の檀家(だんか)総代へと、
次々に姿を変える美幸って、いったい何者?

「噂の女」糸井美幸で繋がる10篇の物語。
初出:「yom yom」13・16・18~23号、「小説新潮」2012年5月号・7月号



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

内容としては、すべてトントン拍子にうまく行き過ぎるので三つ星だが、著者が悪女ぶりを楽しんで書いているのに乗って調子良く読み進められる。

平凡な結婚をして、子供を二人産んで、小さな建売住宅を買って、家事と育児とローンに追われて、田舎の女はそういう人生の船にしか乗れんやん。でも糸井さんは、女の細腕で自分の船を漕ぎ出し、大海原を航行しとるんやもん。金持ちの愛人を一人殺すぐらい、女には正当防衛やと思う。

まわりの男女がしょぼいだけに、彼女の気持ち良いくらいの悪女ぶり。具体的描写ではなく、周辺の噂話が悪女ぶりを肥大化させる趣向だ。何人もの男をだまし、殺し、報道された悪女を思い出して、糸井美幸像を読者が作り上げてしまう。

地方都市のしがらみ、いやなところだけが満載されていて、どうなの?
人物もわざとえげつなく描写している。
北島雄一は・・・わざわざ三流の烙印を捺されに入ったような名もない私大の経済学部で/後藤は生来のかめつい男だった。私腹を肥やすことに余念がなく、偽の経費を計上しては千円単位の金を懐に入れていた。・・・何かを得たときは、狐のように目を細め、イヒヒと笑った。



奥田英朗(おくだ・ひでお)
1959年岐阜市出身。雑誌編集者、プランナー、コピーライターを経て、
1997年「ウランバーナの森」で作家デビュー。第2作の「最悪」がベストセラーになる。
2002年「邪魔」で大藪春彦賞
2004年「空中ブランコ」で直木賞
2007年「家日和で柴田錬三郎賞
2009年「「オリンピックの身代金」で吉川英治文学賞受賞
その他、「イン・ザ・プール」「町長選挙」「マドンナ」「ガール」「サウスバウンド」など。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする