hiyamizu's blog

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奥田英朗『沈黙の町で』を読む

2013年10月29日 | 読書2

奥田英朗著『沈黙の町で』(2013年2月朝日新聞出版発行)を読んだ。

東京から電車で2時間ほど、人口8万人の地方都市、桑畑市。資産家で大きな呉服店の一人息子である名倉祐一(中2、B組、テニス部)が、校内の木の根元の側溝で、頭部から血を流して死んでいるのが発見された。そして、遺体の背中には一面に無数の内出血の跡があり、名倉がいじめられていたと推定され、事故か、自殺かが問題となった。
部室の屋根には5人の運動靴の足跡が残されていて、屋根から木へ飛び移ることを強要されたと思われた。
警察は傷害容疑で、名倉と同じテニス部の14歳の藤田一輝と坂井瑛介を逮捕し、同じクラスの市川健太と金子修斗を13歳であることから児童相談所へ補導した。

子ども達は友達をかばい、なかなか本当のことを言わない。母親たちは動揺するが、ただただうちの子だけはそんなことしないと信じ込む。学校側は生徒をどうにか守ろうとだけを考え、結局ウロウロと対応が後手に回る。そして、遺族は打ちひしがれる一方で強引な策にでる。
母親たちの「自分の子供しか見えない」ぶりが強く印象に残る。

初出:朝日新聞2011年5月7日~2012年7月12日



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

苛められた少年の死を、多面的に、分厚く語り、読ませる。
加害者の少年たち、親、警察、検事、新聞記者、被害者の親・親族と、語り手が次々と変わるが、読みづらくなく、逆に、それぞれの立場からの語りが、事件を多面的にとらえやすくしている。

死亡した名倉についても、単にかわいそうな被害者として描くのではなく、弱者にはいばり、強者にはへつらい、裏切者としての面を強く描く。確かにこういう男はいるのだが、あまりに悪く書いているので、苛められる方も悪いとのメッセージにとられてしまわないか心配だ。苛められる者をかばったら、かばった者が苛められるようになるという例も多いようなのだから。

それにしても、母親は強引で強く、父親は?
健一の母、恵子が、同じく加害者とされた瑛介の母、百合と電話で話し合い、腹をくくった百合に力をもらう。電話を終えると、浴室から「おーい、タオル」と夫の呑気な声が聞こえる。子供がいなければ、離婚も考えるところだと、恵子は聞こえないふりをする。


市川健太(テニス部)、母恵子、夫茂之/坂井瑛介(テニス部)、母坂井百合
金子修斗(2年B組)/藤田一輝(2年B組)
飯島浩志 国語教師/桑畑警察署刑事 豊川康平、古田刑事課長、橋本英樹検事/高村真央 中央新聞記者



奥田英朗(おくだ・ひでお)
1959年岐阜県生まれ。雑誌編集者、プランナー、コピーライターを経て、
1997年「ウランバーナの森」で作家デビュー。第2作の「最悪」がベストセラーになる。
2002年「邪魔」で大藪春彦賞
2004年「空中ブランコ」で直木賞
2007年「家日和で柴田錬三郎賞
2009年「「オリンピックの身代金」で吉川英治文学賞受賞
その他、「イン・ザ・プール」「町長選挙」「マドンナ」「ガール」「サウスバウンド」など。



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