hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

奥田英朗『我が家のヒミツ』を読む

2016年12月05日 | 読書2

 

奥田英朗著『我が家のヒミツ』(2015年9月30日集英社発行)を読んだ。

 

平凡な家族のあの時を描いた『家日和』、『我が家の問題』に続くシリーズ第3弾は、6編の短編集。

 

「虫歯とピアニスト」

31歳の敦美はどうやら自分たち夫婦には子どもが出来そうにないことに気づいてしまった。事務員をしている歯科医院に、ファンだったピアニストの大西文雄と思われる男が通院しはじめた。大西のスケジュールを密かに調べていて、次回予約日を先回りして提案する、など秘かな楽しみが出来た。義母に夫婦で食事に来ないかと誘われているが、また病院で診てもらったらという話だろう。夫の孝明は一人で行き、結局、夫の思いを知ることになる。

 

「正雄の秋」

入社して30年、仕事で実績は残して来た正雄は、ゴマすりで世渡り上手な同期のライバル河島が次期局長になると聞いた。役員への道も閉ざされ、社内結婚の妻にも告げられずに一人悩み、これからの人生に戸惑う。

 

「アンナの十二月」

16歳の誕生日を機に、アンナは自分の実の父親に会いに行こうと母に告げる。今の父親はやさしく、不満はない。しかし、アンナは、実父に会うと、著名な演出家で、お金持ちですっかり舞い上がってしまう。セレブの娘とはやしていた親友たちは、やがて育ての父親に気遣うべきだと言い始める。

 

「手紙に乗せて」

53歳の母親が脳梗塞で急死した。悲しみを引きずりボロボロの父親のために、社会人2年目の亨は実家に戻る。同僚の若者は最初は気の毒がっても、翌週にはマージャンに誘ってきた。対して中高年のおじさんたちは、みな一様に同情の色が濃かった。とくに同じ経験をしている石田部長はいろいろ気遣い、父へ手紙までくれた。

 

「妊婦と隣人」

マンションで夫と暮らす産休中の葉子は引っ越してきた隣人の不可解な行動が気になる。無言の会釈しかせず、一日中部屋から出たそぶりがみえないし、人の出入りもない。葉子は、壁に聞き耳を立てたりするが、深夜に隣人が出かけるのを見て、ついに管理人さんに探りを入れてみる。夫に相談するが、とりあってくれない。ついに・・・。

 

「妻と選挙」

シリーズ前2作では、妻のロハス志向に辟易し、マラソン熱を見守った小説家の大塚康夫一家が登場。50歳になった康夫は、作家としてそろそろ終わりと実感させられる。代わりに専業主婦の妻・里美がボランティア仲間からの推薦で市議会議員選挙に出馬すると言い出す。われ関せずだった康夫も、圧倒的に不利な状況でいつになく元気のない妻の様子に・・・。

 

初出:「小説すばる」2013年5月号~2015年7月号

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

気楽に読めるし、どちらかと言えば合格点だなと思うほのぼのした話が続く。

 

「虫歯とピアニスト」が面白い。子供ができない話と、ピアニストとの関わりとが、絡み合わず巧みに並行し、敦美の中で関連しつつ進む。無口な夫の母への決め台詞が良い。

 

「正雄の秋」も、よくある話ではあるが、妻の思いやりにしみじみする。

 

「アンナの十二月」は、身勝手なアンナに不満。

「手紙に乗せて」は、いま一つ。直接の知人でもない部長がそこまでするか。

 

「妊婦と隣人」は、疑心暗鬼の妻の精神状態を心配する夫が正しいと思っていたが。

 

「妻と選挙」は、そんなにうまく行くのかと思ってしまう。

 

 

奥田英朗(おくだ・ひでお)
1959年岐阜市出身。雑誌編集者、プランナー、コピーライターを経て、
1997年「ウランバーナの森」で作家デビュー。第2作の「最悪」がベストセラーになる。
2002年「邪魔」で大藪春彦賞
2004年「空中ブランコ」で直木賞
2007年「家日和」で柴田錬三郎賞
2009年「「オリンピックの身代金」で吉川英治文学賞受賞
その他、「イン・ザ・プール」「町長選挙」「マドンナ」「ガール」「サウスバウンド」『沈黙の町で』『噂の女』『ナオミとカナコ』など。

 

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