hiyamizu's blog

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リュドミラ・ウリッカヤ『女が嘘をつくとき』を読む

2012年09月05日 | 読書2

リュドミラ・ウリッカヤ著、沼野恭子訳『女が嘘をつくとき』新潮クレスト・ブックス、2012年5月新潮社発行、を読んだ。

情が熱く信じやすい、それでいて頭の良いジェーニャ。離婚、再婚を経験し息子を育てながら働く彼女が出会った女たちが語るわけもなく他愛もない「嘘の話」6篇からなる連作短篇集。
原題は「貫く糸」といったような意味で、全編、さまざまな女性の嘘が続く中で、けして嘘をつかないジェーニャが常にいる。

1. ディアナ
赤毛で大柄な美人のアイリーンは、毎晩ポートワインを飲みながら波瀾万丈の人生を詳細に語る。ところが、彼女の昔の知りあいが話しの多くが嘘であることを明かす。ジェーニャは息子と貸別荘を出て新世界にたどり着く。

2. ユーラ兄さん
別荘のオーナーの娘ナージャは10歳。兄さんは木の上に家を作ったと話しだす。ジェーニャは考える。
「たしかに男の子だって嘘はつくけれど、いつも必要に迫られてのこと。罰を受けたくないときとか、しちゃいけないってわかりきったことをして隠そうとするときとか・・・」


3. 筋書きの終わり
13歳のリャーリャは40代の親戚の画家との恋愛について語る。ジェーニャはなんとか止めようとするのだが・・・。

4. 自然現象
傷つきやすい心を持つマーシャは、老女性教授アンナの語る自作の詩に感動する。

5. 幸せなケース
シンデレラ物語を語るロシア人娼婦たち。なぜかその話はほとんど同じだ。

6. 生きる術
30年以上後、リーリャは人の良い薬剤師になっていたが脳卒中を患う。ジェーニャは二人の息子は成人し、夫と二人だが、仕事でも成功して多忙なので、チェチェン人のお手伝いさんを雇う。そして事故が・・・。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

女性たちがいつまでも夢のような話を続ける。男性が聞き続けるには我慢が必要だ。

「女の嘘」は「何の意味も企みもないどころか、何の得にさえならない」「ひょいと、心ならずも、なにげなく、熱烈に、不意に、少しずつ、脈絡もなく、むやみに、まったくわけもなく嘘をつく」と著者は言う。自己顕示欲に満ちた、理由のはっきりした男の嘘とは違う。「女の嘘」は、女性たちの夢であり、希望であり、自身を救う物語なのだろう。

最初の5編すべてに登場するジェーニャは語り手に過ぎず、実質的に脇役だ。しかし5編全てにおいて彼女は真っ正直で一本の筋が通っている。その彼女が最後の6編では中心になる。面白い構成で、舞台は、1970年代から20年間、大変革が続く時代のモスクワだ。



リュドミラ・ウリツカヤ
1943年生れ。モスクワ大学(遺伝学専攻)卒業。現在ロシアで最も活躍する人気作家
1996年『ソーネチカ』でフランスのメディシス賞とイタリアのジュゼッペ・アツェルビ賞を受賞
2001年『クコツキ一家の人びと』でロシア・ブッカー賞を受賞
2004年『敬具シューリク拝』でロシア最優秀小説賞とイタリアのグリンザーネ・カヴール賞(2008年)受賞
2007年『通訳ダニエル・シュタイン』でボリシャヤ・クニーガ賞とドイツのアレクサンドル・メーニ賞(2008年)を受賞
2011年シモーヌ・ド・ボーヴォワール賞を受賞

沼野恭子(ぬまの・きょうこ)
1957年東京生れ。東京外国語大学教授。
著書に『夢のありか―「未来の後」のロシア文学―』、『ロシア文学の食卓』等
訳書にウリツカヤ『ソーネチカ』、クルコフ『ペンギンの憂鬱』、アクーニン『リヴァイアサン号殺人事件』等。















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