hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

川上弘美『此処彼処』を読む

2012年09月13日 | 読書2

川上弘美著『此処彼処(ここかしこ)』2005年10月日本経済新聞社発行、を読んだ。

1月から12月まで、都内を中心に子供の頃過ごしたアメリカなどを加え、52箇所に関わる思い出を記したエッセイだ。いつもの身の回りのことなのに、ちょっととぼけた川上節が満載だ。

大学のとき、下級生とピーナッツ掘りに行った。13年後に、次男を生んだばかりで、この鶴巻温泉に移った。文学賞応募用に、ピーナッチ掘りが特技の女主人公の小説と、神様という短編を書きあげた。迷ったが「神様」の方を応募した。逆だったら、今と違った作風になっていたかもしれないと語る。このときの下級生その2は小説家になったと書いてあるので、多分、当時SF研究会の松尾由美だろう。

どうでもいいといえば、どうでもいい話がほとんどで、それがとぼけた、変わった捉え方で語られるのが川上節だが、ときどきマジになり、なるほどと思ったところがあった。長いが引用する。

憂鬱な時は、善意とか気配りとかおもんばかりといった類のものが表面ににじみ出ている人とは、ふれあいたくなくなるのだ。なぜか、自分にそういうものが足りないせいかもしれない。またはふだん自分がそういうものを指向してしまう――向いていないくせに――せいかもしれない。
辛辣な友だちの言葉を、受話器を握りしめながら、ふんふん聞く。時々わたしも辛辣なことを言ってみる。友だちがキレのいいことを言ったときには、なるたけ品悪く笑う。
そうしているうちに少しだけ憂鬱が晴れてくる。しょせん、とかいう言葉がうかんでくる。しょせんわたしは、でも、しょせん世界は、でも、どっちでもいい。



初出:日本経済新聞朝刊(日曜日付)2004年1月4日~12月26日



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

気楽に読めるが、なんという事ない話ばかりだ。川上ファン以外にはお勧めしない。主に東京の地名がそのまま出てくるので、私には「そうそう」と思ったりして親しみを感じるのだが。
銀座線の走行途中で一瞬電気が消え、金属製つり革が手前に引いて離すと元に戻る話が懐かしい。ついでに言えば、もっと昔には、地下水が豊富だったので、車外にはポタポタ水が垂れていて、車内内は夏でも涼しかった。

五才のときオークランド近郊のモーテルで、TVのアナウンサーが盛んに「サシネ(assassination)」と叫ぶ。お母さんに聞くとアンサツだという。ケネディが暗殺されたのだ。このとき私は山を縦走中だった。山を降りて初めてケネディが殺されたのは知った。あのときの衝撃、絶望感は今でも生々しい。



川上弘美の略歴と既読本リスト


コメント
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