ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~美しきモノ~

2012-12-15 | 散華の如く~天下出世の蝶~
市姫「母は、わらわを、思ってはくれぬ。守ってはくれぬ…わらわを捨てたのじゃ」
帰蝶「母上様の、母としての、女の運命をお考えなさい」
市姫「さだめ?」
帰蝶「いずれ、そなたも妻と成り、母と成り、子や夫の誇りを考える時が訪れましょう」
市姫「わらわ、信長の兄上の妻となる。誰の妻にも、どこにも行かぬ」
ずっと、ずっと恋敵だよね?そんな目で私を見た。
ふぅと、我が母、小見方の姿が脳裏に浮かんで、
私は、頭を、ゆっくり二度振って、掻き消した。
尾張嫁ぐ十四の時、父の決定に涙を呑む母の姿。
夫に従う妻の忍耐がそこにあった。
今なら、母の涙、その心が分かる。
私が嫁ぐ前、母から教わった全てを姫に伝えようと、
あやめ象った懐剣の柄を、姫の左小さき手に握らせ、
帰蝶「剣を懐に差すは、信念の貫き。守るべきは、女の、妻として、母としての誇り」
そっと、私は姫の細い首に手を当て、
一本、青く太い血の通り道を押した。
トクン、トクン、
姫の頸、経脈が規則正しく強く、激しく鼓動した。
「誇り汚された時、足開かぬ様縛り、死に顔、他に見せず…」
この生きる証を懐剣で一気に掻っ切り、前に伏す。
そう、美濃で教わった事をそのまま、姫に伝えた。
市姫「…痛いの、嫌」
帰蝶「折れて垂れる南天を見て、痛々しく思いませんでしたか?」
私がなぜ、南天の枝を斜めに切り落とされたか、その意味を教えた。
市姫「これは、痛そうに見えない」
姫は右手に握られた南天の枝の切り口を見つめていた。
折れた枝は挫かれた信念に等しく、見苦しい。しかし、
鋭く切られた枝はさらに美しく、生きる誇り損なわぬ。
帰蝶「美しきモノを持つ、その意味を常々想念なさいませ」
市姫「美しきモノ…」


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