ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~父の形見と、義妹と~

2012-12-11 | 散華の如く~天下出世の蝶~
帰蝶「来春には、このややが、妹か弟か、分かりましょう」
首から下がる、香車のお守りに、
袿から、そっと手を置き祈った。
“私を、母にして下さいませ”
市姫「絶対、妹」
帰蝶「はいはい」
九つの姫が可愛らしく、ふと娘も良いな…と思った。
殿と結婚して十年余り。流産という悲劇が無ければ、
私も姫と同じ年の子を持つ母と成っていたであろう。
母になった気持ちで、ぎゅっと握った小さなお手々。
しかし五年後に、この子を手放してしまうとは、
この時微塵も考えていなかった。思えなかった。
まさか、自分と同じ運命と辿るなんて、
ましてや、私がそう仕向けようとは…。
市姫「ねぇ、あの赤いの、何?」
私の手を握った反対の手で、赤い実の付いた枝を指差した。
帰蝶「あれは…南天」
冬の強風で、ぽっきり折れてしまったのであろう。
可哀そうに、痛々しく、南天が首を垂らしていた。
市姫「なんてん?」
帰蝶「難を転じる木にございます」
厄災難を幸に転ずるがその名の由来で縁起の良い庭木。
災い封じに丑寅、申未の方角に植えると良いとされる。
殿は、こういう験担ぎがお好きで、まだまだ若い枝を、
「ここで朽ちるに早く、何かの役に立ちましょう」
私は、父の形見、濃紺あやめ柄の懐剣の鞘を抜いて、
その痛々しく垂れる首を落とした。それを見て姫は、
市姫「わぁ、頂戴ッ」
ゆらゆら赤い実揺れる南天を欲しがったかと思えば、
帰蝶「これ?」父の形見、濃紺の懐剣を欲しがった。


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