『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY 第７章 築砦 548

『おうっ！なかなかよう出来ている、満点だ！皆を集めてくれ！』
　『判りました』
　この作業に携わっていた者たち３０余人、一同が集まった。
　『おう、集まったか。諸君ご苦労であった。杭打ち、縄張り、よくできている。出来あがりに満足している。明日の着荷、荷受け、部材の整理定置作業も諸君らにやってもらう。いいなよろしく頼む。要領は、明朝この場で説明する。以上だ。ご苦労であった。明朝、朝めしを終えたら、直ちにこの場に集まってくれ』
　『おうっ！』
　一同が声をあげる。
　『解散！』
　彼らは場から引きあげた。
　ドックスは、明日から新艇建造の場と化す浜を一巡した。
　建造の場は、杭が打ち込まれ、縄張りされて整っていた。
　彼は場に立って、ここまでに至った経絡を振り返った。
　ドックスは、予定としている新艇建造に着手するのは四日後からと段取りしている。明日からの三日間は建造の場づくりである。図面は出来ている作業工程は万全を期していた。一般的な技術講習は終えている。作業工程を進める班長講習も終えている。
　始計第一、適確進行、そして、多人数を動員して造りあげていく新艇の各部材製作の精確性を重んじた。彼は『これくらい』という感覚を徹底的に排除した。『それは許されない』この認識を班長格の者たちに植え付けた。また、その認識の堅固なる者をこのポジションに選んでいた。
　製作する技術の確かさが完成品の優劣を決定する。この信念と思考を堅持して、この新艇建造を完遂することを念頭に持して作業にあたった。
　この新艇建造が『順調にうまくいく』を如何なるものにも頼まず、頼らずを自分自身の五体に祈った。彼の心と体は、この祈りに答えた。『事は成る！』と心体は答えていた。
　明日から遂行していく諸事、細部に至るまでの事案に対する自信が沸々と体内に煮えたぎってきていた。
　彼は沈みゆく夕陽を目にしながら、すがすがしい明日の明けることを祈った。