『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  319

2010-10-15 07:44:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、オロンテス、いいことを言ってくれた。その件、心得た。数はどれくらいにする』
 『300本ぐらいあれば、充分だと思いますが』
 『よしっ!判った。いいだろう。ところでオロンテス、雑木をつかって、二、三本、見本を作れ』
 『判りました』
 四人は、話終えて歩き始めた。程なく目的地に着いた一行は、整備されつつある群生地を見渡した。
 トリタスは、思わずうなり声をあげた。
 『いいですね、この整地具合。そして、アーモンドの稔り具合も、収穫の適期にあと三、四日というところです。全てが、行け行けのゴーサインです』
 オロンテスは、適当な雑木を準備してきて、たずさえてきた鉈をふるって、木の枝またを生かして幹を切り、枝をゆする道具を作り上げた。
 『イリオネスさん、このようなものでよろしいのですが』
 イリオネスは、オロンテスの差し出した一本を手にとって、
 『よしっ!判った。300本ぐらいだな、心得た』 と念を押した。

第2章  トラキアへ  318

2010-10-14 07:02:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 嵐の一夜があったものの晴天続きで、アーモンドの稔りは順調に進んでいる。群生地の整備作業が完了する頃には、最適の熟し具合となるであろうと予想された。
 今日も各作業隊を送り出したあと、イリオネスたち四人は話し合っていた。
 『パリヌルス、どんな具合だ。いい具合に進行しているか』
 『いい具合だ、安心していて差し支えない』
 『トリタス、オロンテス、お前たちも一緒に来るか。整地具合を見に行く』
 『え~え、行きます、行きます。いつも感じるのです。収穫、これはとてもいいもんです。私、収穫とても好きなんです』
 『いやあ~、このたびの収穫は格別です。これだけ多くの人がかかわって、やっているのです。胸が躍ります』
 トリタスもオロンテスも口調を合わせて言った。ついで、オロンテスは誰に声をかけようかと逡巡しながら口を開いた。
 『イリオネスさん、お願いがあるのですが』
 『おう、なんだ』
 『高いところの枝をゆする道具を切り倒した雑木で作っていただけないでしょうか。』

第2章  トラキアへ  317

2010-10-13 07:50:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 作業区の区割りは、群生地の東西を7つに区切って各隊に割り当てた。
 『諸君、担当区については、皆、判ったな。収穫については、君らが知っているように、樹をゆすり、樹から落ちたアーモンドを拾う、この作業をしなければならない。いいな。この作業をとどこおりなく完了するためには、地面の地づらをチリひとつない位に美しくするのだ。これを徹底する、いいな。頼むぞ、諸君。雑木は全て切り倒し群生地の外へ運び出しこれを捨てる。下草も刈り取って同じく群生地の外へ捨てる。収穫作業をうまくやるか、やれないかは、この作業にかかっている、いいな。念を押しておく。これで打ち合わせは終わる。さあ~、これで休んでくれたまへ』
 イリオネスは、各隊長に作業の要点を言い渡し、打ち合わせを締めくくった。
 この頃、砦のアエネアスは、ユールスと親子二人のときを過ごしていた。彼は幼いユールスに海と船の話しをしたり、いま、やっているアーモンドの収穫のことを話したり、砦の事なども話したりして過ごした。また、二人で一日中を魚釣りで過ごす日もあった。
 ユールスは、父と過ごす日々を楽しんだ。父の語ることにユールスなりに耳を傾けはしたが、その内容については、理解し得なかった。だが、父の思いと意志は心と身にしみ込んだ。ユールスにとって、『父といる』 それは楽しい日々であった。

第2章  トラキアへ  316

2010-10-12 06:56:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 光を落としている雲の切れ間の月は、秋がそこまで来ている気配を感じさせていた。
 一夜の風雨が去って、作業隊の一日が始まった。あい変らずの日照りである、日中の暑熱は全く衰えてはいなかった。雨後の暑さは、草いきれとともにむれて身体にまとわりついた。
 各現場から、整備担当区間の完了報告があがってくる。パリヌルスは報告に基づいて検分した。整備作業は予定通り進んでいた。彼はイリオネスと打ち合わせの上、明日は皆を休ませることにした。
 彼らは、休養の一日をとても喜んだ。身体を休ませる者、狩猟に出かける者、日がな一日を思い思いに過ごした。
 狩猟に出かけた者たちがしとめてきた野ウサギは、100羽をうわまわった。彼らは獲物を持ち寄ってさばき夕食の肴とした。酒も振舞われ、宴の態をなした賑わいであった。
 各隊長は、イリオネスの指示で打ち合わせに時間を割いた。明日からの作業は、いよいよ群生地の整備に取り掛かることが告げられた。これについては、トリタスとオロンテスが念入りに指示をした。作業区の割り振り、作業の仕上げについて説明した。

第2章  トラキアへ  315

2010-10-11 07:29:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは風雨にさらされて、ずたずたにされていた。林の闇の中で身を硬くして黙り込んでいたが、風雨が止んで誰からともなく話し出した。
 『それにしても、ひどい雨と風だったな』
 『雷に打たれて、こげ死んだのは誰だ』
 『そりゃ、朝になってみないと判らんな』
 『夜明けには、まだ間がある。お前無事だったか、それは重畳、よかった』
 『みたところ、お前も無事だったようだな、よかった、よかった』
 『お互い、ぐっしょり、ずぶぬれだ』
 『ずぶぬれは、がまん、がまん。お互いの無事を喜ぼうぜ』
 林の中のあちこちで会話が交わされている。
 『おいっ!何となく明るいと思わないか。林の外に出てみよう』
 『おうっ!月だ。月の光が明るい!』
 『おっ!月か。明るい月だな』
 彼らの一群は、空を見上げた。
 雲の切れ間から、丘陵一帯に秋色の月が光を落としていた。

第2章  トラキアへ  314

2010-10-08 07:47:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 自然が振るう気ままな猛威におののく者たちの中にゼウスに願い祈る者がいた。その者は、胸の前に手の指をしっかり組み合わせ、つばを飛ばしながら願いの言葉をつぶやいていた。懸命に許しと願いと祈りを大声でつぶやく、嵐はそのわめきに似たつぶやきを吹き飛ばした。
 ゼウスは、神と呼ばれるている存在であり、目には見えない存在であるが、神とあがめて人間世界に存在させていた。手を伸ばしても触れることの出来ない領域にいる者として、人間の思考領域に存在させていた。
 『お静まりください、ゼウス様。お願いです、お願いです。お静まりください、お静まりください』 
 この言葉をただひたすらに繰り返していた。
 自然の力のなすがままに任せて、時は経って行った。
 嵐の所業はすさまじかった。荒れに荒れ狂った。地上にあって、自然が演じる恐怖の演劇であった。闇の中で思うがままに、その猛威を振るい、爪あとを残し、夜半にはいずこともなく通り過ぎ去っていた。

第2章  トラキアへ  313

2010-10-07 08:44:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 雨はまだ来ない。トリタスたちも嵐に備えて、対抗処置に大わらわで取り組んだ。万全とはいえないまでも何かをしておかねばならない。ささいなことにも注意をおこたらずに処置した。
 日没のときが過ぎて、夜の帳が下りようとしている。大粒の水滴が彼らの頬を打った。風と雨は間髪をいれず、彼らに襲い掛かった。風雨はあらん限りの力で彼らに襲い掛かった。彼らは、これと闘うことを強いられた。
 稲妻が走る、雷鳴が吼える、背高い樹木が雷を招く、閃光が闇を裂いて走った。高木が悲鳴をあげる、耳をつんざく音響とともに幹が割れて砕け倒れる、たちのぼる火柱、風に舞い飛ぶ火の粉、そのような情景が林のあちこちに現出する。彼らは自然の驚異を目のあたりにして、林の中に身をおきながら、木々からは身を離して、地に伏せた。
 近くの大木も雷に打たれて砕けた。絶叫が耳に届くとともに鼻を突く、人体の焼ける匂い、周りの者たちが恐怖におののいた。

第2章  トラキアへ  312

2010-10-06 06:47:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 昼めしを終えた作業隊が引き揚げ始めた。最も遠い現場にいる者たちが飯場に帰り着いたのは昼めし時より、約2時間後であった。夕食はいつもより2時間も早くした。
 イリオネスとパリヌルスの二人は、隊長たちを集めて打ち合わせた。
 『おう、皆ご苦労である。これから天候は荒れて、嵐になる。今日は、林の中で休む、ただし、落雷の危険が付きまとう、いいか。背の高い樹の根方は避けるのだ。出来るだけ草をを敷いて厚くして休め。俺たちもいろいろと考えたが、雨をしのぐものの持ち合わせがない。これについては、皆が知恵を出して対処してほしい。嵐は夜半には止むと思っている。以上だ。嵐が通り過ぎるまで何とか皆の知恵でしのいでくれ。いいな』
 苦しまぎれの伝達であった。
 彼らは、いつもより早く夕食を済ませ、林の中の高所と思われるところに、草を刈り集めて落ち着き場所を作った。
 夕食時には、凪いでいた風がそよぎ始めた。そして、小一時間が過ぎた頃から風が強さを増してきた。

第2章  トラキアへ  311

2010-10-05 07:26:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは続けた。
 『どうだ!夕方には嵐がやってくる。トリタスも聞いてくれ。俺はこのように考えた。夕食時間を早める。作業は早くきりあげる。そして、嵐に備える。いいな。トリタス、オロンテス、そのように手配してほしい』
 『了解しました』
 『パリヌルス、俺の思いでは、嵐は、夜半にはおさまると思っている。お前はどう思う。各隊長に連絡をとって、昼過ぎには引き揚げさせようと思っているのだが、お前はどのように考える?』
 『イリオネス、それが良かろうと思う。風をしのぐのはいい、問題は雨だ。雨については全く無防備だ。どのような指示を出すかだ』
 『それは、これから考える。どうしようもない、お前も考えてくれ』
 『判った。とにかく、作業の終了を各隊長に指示する』
 『イリオネス、とにかく考えてくれ』
 二人は、各隊長に伝令を走らせた。
 まだ、時は昼前である。時間的には余裕があるが、雨に対する方策がなかった。

第2章  トラキアへ  310

2010-10-04 07:17:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ルート整備作業は、明日いっぱいで完了するであろうというところまでにこぎつけていた。作業を開始して6日目である。
 トリタスは、作業隊全員を送り出して小一時間後、雲の流れる空を不安げなまなざしで見上げていた。肌に感ずる風の具合を読んだ。
 彼の六感は、嵐を予想した。直ちにイリオネスとパリヌルスのところに歩を運び相談した。三人は、空を見上げる、西から東に流れる雲あしは早く、吹きすぎる風は、この時節にない冷気を帯びていた。
 『イリオネスさん、どうしますか』
 『そうだな、今、考えている。この調子なれば、嵐になるのは夕どきすぎだな。パリヌルス、どう思う?そして、どう対処するかだ』
 『オロンテスは、、、』
 『オロンテスを呼びますか』
 『おう、呼んでくれ』
 イリオネスは、このときすでに、襲いくる嵐に身構えていた。
 『オロンテス、来たか、空を見ろ。雲行きが怪しい!お前どう思う。』
 オロンテスは、早く流れる雲を見て、表情を硬くした。