荷役の者が折れた剣の握り手を拾ってきてギアスに手渡した。ギアスは、それを手にとって見つめた。彼は熊との対峙を振り返った。全身が感ずるままに熊を制した、不思議の勝ちに満足した。また、命というものは、こんなものかとの感に打たれた。
彼は、改めてトリタス以下の面々に礼を言った。
『皆、ありがとう!』
その言葉に皆も、『ありがとう』を返し、大事に至らなかった、その奇跡的な結果を喜び合った。
アエネアス隊の面々が到着した。アエネアスは、ギアスが軽傷でおさまった無事に喜んだ。そして、目にした熊の巨体をまじまじと見つめながら、瞬時に終えた熊との命のやり取りに『ご苦労』とは言わなかった。アエネアスは、ギアスの負った傷に触れないように彼の肩を抱き、不思議の勝ちの奇跡を互いに喜び合った。アエネアスは言う、
『ギアス、お前が生きていた。俺は、こんなにうれしいことはない。我々の明日の危難を除いてくれたのだ。ありがとう。一同に変わって厚く礼を言うぞ。まあ、一杯飲め!』
トリタスは、酒をなみなみと満たした杯をギアスに渡した。
『統領、ありがとうございます。いただきます』
彼は、受け取った酒を一気に飲み干した。