『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  843  

2016-08-10 05:21:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスと父アンキセスとの話し合いは最終ラウンドにさしかかっている。父アンキセスの話は、アヱネアスの考えたように運ばれている。
 アンキセスの目は輝きを増してきている、アヱネアスを鋭く見つめてくる。アヱネアスも父の勢いに気おされることなく、頭脳は冴えを見せていた。アヱネアスは、話の最終ラウンドは、父の出方にもよるが、身に備わっている知力で充分に対応できると自信を持っていた。
 アヱネアスの施政とアンキセスの具申が絡み合う、アンキセスが口を開いた。
 『アヱネアスよ、考えてみてくれ。果たしてクレタが建国の地なのかだ。俺が未来を見つめる目で見て、大いに疑義を持っている。気候はまずまずだ。土地の住民の情味はというとこれは申し分がない。クレタは島である、そこに住んでいる人間の数が建国の条件と見合わせると少ない。島の土を見たが、到底、農作物の収穫に関して、豊穣の大地とは言えない、農は国を建てていくうえでの大事である。そのようなわけで1000年2000年と栄える国を興すところではないと判断している。そこで俺は聞きたい。アヱネアス、お前が聴いた、ゼウス神殿の神託をだ。よろしかったら聞かせてほしい。これから話すことは、お前が建国を為すための大事な話し合いだ。そのように心得てほしい。聞かせてくれ』
 『解った、ゼウスの神殿でのことを話す。ゼウス神殿での神託はない。有るのは神殿の神官のメッセージのみである。神官は、メッセージを俺に伝えた。神官は言う、『汝、見極めよ!良知は、すでに汝自身の身体にある。良知を為すのだ!』これだけです』
 『ほう、そうか。なるほどな、言い得ている。その通りだ。アヱネアスよ、ここで俺の考えを伝えておきたい、いいかな、為すのはお前である。言わせてほしい』
 彼は唇を酒で湿らせた。口を開く。
 『アヱネアスよ、建国の地は、この地より西にあると考えている。もし、その日が来れば、西方に建国の地を探し求めよ。それが父として、息子アヱネアスに言い渡す。建国の地は、我らが住んだトロイではない、トロイから東方の地でもない。ポリュドーロスが命はてたトラキアでもなければギリシアの地でもない、マルマラの海の沿岸でもなければ、黒海に沿った地でもない。今述べた地は、お前が建国する土地ではない。お前が建国するにふさわしい地は、ここよりはるか西にあるへスペリアの地にあると考える。俺はその地に行ったことはない。大河の川筋が広がり、豊かな豊穣を運び来る、まだ文明が開ききってていない丘陵の地に定めればいい。去る遠い昔、ダルダノスが出生の地がふさわしいと考えている。これが俺の息子アヱネアスに申し送る言葉である』
 アンキセスは、そのように言って口を堅く結んだ。
 


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