折からの陸上からの凪ぎまえの風がメインの帆をふくらませ、艇を押した。漕ぎ手が艇に力を貸す、巧みな操舵が艇の行く手を決め手並みを割って航走し始めた。艇は、沖へ、沖へと波を割って進んだ。この風景を目にしている者たちは、無口ではあったが抑え切れない感動の目で眺めていた。
『なかなか、いいじゃないか』
『快走している、ウ~ン、いいね』
『波の割り方いい、上々の走りだ』
高い秋の空の下、きらめく陽光、波の照り返し、北エーゲ海の一隅に展開した風景であった。
艇上のパリヌルスは傍らにいるカイクスにささやいた。
『うっう~ん、波の割り方も俺の考えたとおりだ。これがいいと航跡がいい、心配せずに済む。舵の具合もいいようだ。帆のはらみも、この風の状態で、このはらみ申し分がない。船尾の三角帆のことだが、その働き具合については深く考えたことはないが、あれがあるとないとでは艇のかっこよさが違う。三角帆の役割は、これから、おいおいと考えられていくな。カイクス、お前どう思う』
『そうですね』 彼は、ここで一度言葉を切った。
『艇体の波の受け具合で、艇の航走方向にたいして、左右どちらのサイドでも追い風を受けれる利点があります。これからの課題は、このあたりから考えられていくのではないでしょうか。例えば、風向き、艇の傾き具合、舵取り、それらに対応した帆の操作、まさに進化を秘めています』