絵のタイトルは、「鳴門海峡夕景」です。
四国道にガソリンスタンドがない。
あと少し。
やっと、明石海峡前にスタンドがありました。
製粉機械のロールの上を転がる粉玉をとるために挑戦した。
回転するロール機に指を持って行かれました。
作業も終わりの夕方に起きた事故です。
同僚の彼は、欠損した指に包帯をしていました。
私は、「その包帯を取れ」と勧めました。
誰からも包帯の理由を聞かれなくなり、同僚は堂々と笑顔になりました。
今日のタイトルは、「一人じゃない」です。
故郷の島には、街灯がありませんでした。
上り下りの激しい道には、暗い森がありました。
ひときわ高い松には天狗が住んでいると教えられていました。
子供の頃は、昼間でも走って通り過ぎていました。
怖い。寂しい。
母が、「お前は一人じゃない。背中に神さんがついているから、安心だ」と諭してくれました。
それでも、怖かった。大人が夜遅くまで帰らぬ子に伝えた一言が生涯付き纏いました。
退学を覚悟で大学を飛び出し、山谷で酒を売り、銀座で酒を配達していました。
孤独で不安な毎日でした。
テープレコーダーに自分の声を録音し、流しながら酒を飲みました。
できた彼女に、別れを告げました。
一年後には大学に復学すると伝えました。
勝手な言い分です。
彼女は笑顔を作って、故郷に帰りました。
阿蘇の外輪山で、住み込みで働く牧場で子牛が一頭いなくなりました。
夕方の搾乳後の頭数チェックの時でした。
暗闇で、雪が頬にささる。
荒野の柵の中に、光る母牛の目に遭いました。
子牛は、売るために麓に連れていかれたと翌日聞きました。
夜は私一人だけの牧場には電話がありました。
いつもより支払い料金が高かったと思います。
泊るところ(一泊500円)がなく、富士の裾野の国道をさまよいました。
小学校もお寺も駄目でした。
家々の灯が温かそうに見えました。
早春のころ、山伝いに旅をしていました。
国道を歩く私に一台の車が近寄り、事情を聞いてくれました。
その人は、公民館に連れて行ってくれました。
一夜の宿の公民館に剥製の鹿がいました。
皆で追いかけ、アスファルトを逃げるうちに泡を拭いて鹿は倒れてしまいました。
沢伝いに逃げる鹿の事情を知ることになりました。
開けぬ夜はない。
博打うちが、一文無しの懐手で歩いていました。
眼の不自由な娘が石に躓き倒れました。
博打うちは、やさしくおこしてやり、気を付けるんだよと声をかけました。
藤沢周平の小説の一節です。
博打うちは、孤独じゃないと温かい気持ちになった。
私達は、孤独死に会うこともあるでしょう。
運が良ければ骨になり、悪ければ虫が始末をしてくれる。
死臭を放ち、死んだぞと知らせながら生涯を終える。
まとめに入りたいが、妻がとめどなく話しかけてくる。
孤独じゃないと言うことです。
よかった。
2021年9月22日