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K・Nの悲劇 / 高野和明

2006-05-04 00:00:01 | 読書
いつも読んでるNatsumiさんとこの「小説ブログ☆さみしがりやのかげぼうし☆」で、高野和明の「K・Nの悲劇」が紹介されてました。
高野和明の「13階段」も「グレイヴ・ディッガー」も面白かったし、今度の「K・Nの悲劇」は主題が重そうだけどNatsumiさんの評価は良さ気なので、東京出張の往復の暇つぶし用に購入しました。
1冊では時間が持たないことは分かっているので、ついでにマイケル・クライトンのSF「プレイ -獲物-」上下巻と、戸塚啓のサッカー本「青の進化」、五十嵐貴久のミステリー「交渉人」も購入。
大好きなマイケル・クライトンの「プレイ」から読み始め、更に個人的にワールドカップ気分を盛り上げるために「青の進化」を読んだ後で「K・Nの悲劇」に入ります。


書名:K・Nの悲劇
著者:高野和明
発行:2006年2月 講談社(講談社文庫)
ISBN:4062753235
価格:681円


■ストーリー

ライターの夏樹修平は妻の果波と初々しい新婚生活を送っていた。
修平の著作がベストセラーになり、その印税を頭金に念願だったマンションを購入する。
2人で新居での生活を始めるが、まだ収入が不安定な修平にマンションのローンが重くのしかかり、果波は契約社員の仕事を続ける必要があった。
そんな折、果波が妊娠していることが発覚する。
妊娠を喜んだ果波だったが、経済的に不安定な状態で育児が難しいと考える修平。
マンションの売却も検討したが、中古扱いで買い叩かれるため得策でないと分かり、悩んだ末に修平は人工中絶を提案する。
落胆しつつも修平の提案を受け入れた果波だったが、その直後から果波の言動がおかしくなり、一時的に別人のように豹変しては意味不明なことを言うようになる。
精神科医の磯貝は、人工中絶を受け入れたくない果波が無意識で抵抗し、精神が錯乱していると診断する。
しかし果波と共に暮らす修平は、果波から自分の心を読まれたり、超常現象としか思えない体験をする。
修平は、妻の状態は精神錯乱ではなく、霊に憑依されているのではないかと考えるようになる。

■感想

読んでいて、修平が中絶を決めたあたりで「もうこいつ許さん」と感じてしまいます。
経済的に不安定なのにマンションを買う無計画さや、果波の妊娠に至る経緯についても、全部修平のテキトーさに起因してます。
果波に対しては真面目な夫として描かれてるし、ライターやってて頭悪いはずはないだろうに、何だろう修平のこのいい加減さ、責任感とモラリティの無さは?

この男に拒否反応を起こすのは、自分が父親になった後だからかなぁ?
現在は3歳の息子タイトが可愛くてしょうがないんだけど、元々自分も嫁さんも子供好きではなかったので、子供を持つ前なら考えが違ったんだろうか?
いやしかし人工中絶は絶対にありえねーな、そこは人間が勝手にやって良い領域じゃねーだろ。

という修平に対するものすごい反感を抱いたまま読んでいたので、悪魔憑き(?)果波が大暴れして修平がヤられてもザマーミロって感じでした。
とばっちりの磯貝は可哀想でしたが。

「精神錯乱なのかオカルトなのか区別できん」って話になってきた時点で、映画「コーリング」を思い出します。
超常(心霊)現象が起きているのか、それとも自分の精神が錯乱しているのか? 絶対に判断できないよなコレ。
心霊現象に違いないと考えた修平がビデオカメラを回して、そこに映っていた映像と磯貝の分析は、読んでいた自分にも衝撃的で面白かったです。
なるほど、そう解釈することもできるってか。

修平の行動の描写で「周囲に霊がいるような気がするが、本当に見てしまうと怖いので、意図的に目線を上にあげない」という部分、かなり共感してしまいました。
自分はホラー映画大好きで、おバカなB級スプラッタも楽しいですが、深夜に独りで見て心理的恐怖にゾクゾクとビビリあがるのも好きです。
マジで怖い映画の後は、洗面台に行ったときに「鏡をちゃんと見るとに何かが映ってることに気付いてしまうんじゃないか」とか、「今視界の端に何かがあるような気がするけど横を向いて本当に何かが居たらどうしよう」と考えて、意図的に怖いモノを見ないように見ないようにと避けています。
ああいう心理状態と同じだなー、ナイスな描写だなんて思いつつ読んでました。

妻の異常な言動が続き、もうやっていけないと絶望する修平に対し、磯貝がかけた言葉が印象的でした。
「今がその時ですよ」
良かったです、この台詞、作中で磯貝の最高の仕事がこの台詞だったかも。
(いや、クライマックスでも駅のホームで頑張ってたけど)
ココを読んでいて、自分の嫁さんがもし果波のようになってしまったとして、そのときに自分はどう対応できるか想像しようとトライしてみたんですが…ダメだ、想像できん。
想像がつかないというよりも、あまりにも怖いので想像することを心が拒否してるような気がするな。

この本、出張中に読み終えることができず、終盤を少し残した状態で帰社してました。
残りの部分を会社の昼休みに読んでたんですが、クライマックスシーンで不覚にも泣いてしまいます。
いかん、涙が出てきたーと思いつつ必死に堪えてたら、鼻水がボタっと垂れてしまった。
慌ててハンカチで拭きましたが、涙も鼻水も後輩に目撃されたっぽくて、悔しいのなんのって。

という訳で、ヘヴィなテーマを持った「K・Nの悲劇」ですが、オカルティック・サスペンスっつーか見事なエンターテイメントになっててサイコーに面白かったです。
良いなぁー高野和明、ますます惚れました。
高野和明へのインタビュー記事を見つけたので、これを読んで以前の作品を振り返りつつ、次作の「幽霊人命救助隊」を楽しみにしています。


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2 コメント

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どーもです。 (herniano)
2006-05-09 08:39:59
理性的なつもりでも、オカルトを完全には否定できない性質なので、あの深夜の神社は自分だったら絶対行かない(行けない)です。



果波はあのキャラだからあの展開になったという設定なんで、しょーがないかなとは思うんですが、確かに「もっと自分の正直な気持ちを修平に言ってやれよ」と読みながら何度もツッコんでましたね。
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ごぶさたしてます (Natsumi)
2006-05-08 22:14:58
私もホラー映画や小説が大好きですが、修平が深夜に神社に行ったシーンはマジ怖かったです。ぶるるっ。

修平にも腹が立ちましたけど、私は同じ女性としてうじうじとはっきりしない果波にも相当いらいらしながら読みました。そこも狙いなのでしょうけどね。

インタビューも面白かったです。読んでいて自然と映像が浮かんでくるのは、高野さんが映画監督になりたかったからなんですねえ。納得納得。

「幽霊人命救助隊」はまだ文庫になってないですよね。早く読みたいです!
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