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次の一手 問13 答えあわせ

2014年11月09日 | 次の一手
                              「次の一手 問13」 ≪問題図≫



≪解答図≫

 問題の出題時に、18通りもの候補手を挙げたのですが、正解は一つ。7五金でした。

 
 ≪問題図≫では、やはりだれもが思いつく手は、7五に“銀”か“金”を打つ手ではないでしょうか。けれども、“銀”を打つか、“金”を打つか、それが運命の分かれ道、なのでした。
 「激指13」との実戦では僕は“銀”を打って、「7七桂成、9八玉、7一角」と応じられたときに、そこで手がなくて困ったのです。時間無制限でやっていたので、「7五銀」と打つ前にもっと考えるべきでした。
 しかしどうしても、“勘”で、“金”を残しておきたくなりますよね。だから深く考えず「7五銀」を選んだ。
 そしてその将棋を後で検討すると他にもいろいろな手があって、驚き、そして面白かったので、そのエッセンスを「次の一手問題」としてみました。


 18通りの候補手のすべての解説を書くのは大変なので、次の手について解説することにします。

 (P)7五金(正解手)
 (Q)7五銀
 (R)7五角
 (S)6四銀
 (T)6四角
 (U)6一竜
 (V)8二角
 (W)7六金
 (X)6八金
 (Y)9八玉



(P)7五金(正解手)

7五金図1
 「7五金」(銀の時も同じですが)には、後手は7一角または8二角で受けるしかありません。
 その前に、後手は「7七桂成、9八玉」としておき、それから「7一角」とする。(この7七桂成、9八玉は、先手の6八銀打などの受けの選択肢をなくす意味がある。)
 で、次の図。

7五金図2
 ここが問題で、ここで先手に決め手があるか。
 ―――あるのです!

7五金図3
 「6二角」。 これで先手の勝ち。
 この時に“銀”を手元に持っていることが重要なのです。だから「問題図」で7五には“金”を使った。
 これを6二同角と取られた時、そこで“銀”を持っていれば、“8二銀”と打てる。 持駒が“金”だと、そこで困る――というわけ。“銀”があるので、6二同角、8二銀、9二玉、6一竜、同銀、9三金で先手の勝ち。

 この図(6二角)から、後手が7八歩と来た場合をさらに検討します。
 「7八歩、7一角成、同金、8二角」 

7五金図4
 ここで「8二角」として、先手が勝てます。
 この手で7一同竜とうっかり取ると、8九角から先手玉がとん死で逆転負け。
 また、8二角を8二銀とした場合も、やはり逆転負けとなる。8二銀には、9二玉とされて詰まない。
 図の「8二角」の後は、「同金、9一竜」。 後手は金を持っていないので“詰み”です。


7五金図5
 さて、こんどは、「問題図」から正解手「7五金」まで戻って、後手が「8二角」と応じた場合を検討します。
 後手が今度は7七桂成、9八玉を入れなかったのは、8二角、同桂成、同玉の後の7四歩という先手の攻めの選択肢をなくすためです。しかしそれでも先手の明解な勝ちとなります。
 「8二角」には、「同桂成」でよい。
 角を受けに使った後手は、そこでやはり7七桂成~7八歩くらいしか攻めがありません。結局「7七桂成、9八玉」と進みます。

7五金図6
 ここで後手7八歩なら、先手は6一竜と切って、同銀に8三成桂、同玉、7四角以下の“詰み”。
 ですので、後手「8二玉」としてみます。

7五金図7
 それには、「6二角」が決め手。次に7一角打からの“詰み”があります。
 「7一歩」と受けても、「6一竜、同銀、7三角成、同玉、6四角、7二玉、6三銀」

7五金図8
 “詰み”です。



(Q)7五銀

7五銀図1
 ≪問題図≫から「7五銀」では本当にダメなのかどうか。それを考えてみましょう。
 「7五銀、7七桂成、9八玉、7一角」

7五銀図2
 ここで(a)6二角は、同角と取られて、そこで同桂成くらいしかなく、それだと後手の7八歩が“詰めろ”(角をもっている)になるため、はっきり先手の負け。
 (b)6二歩は、やはり7八歩で、以下6一歩成、7九歩成で速度負け。 後手勝ちです。

 ほかに手段はないのでしょうか。
 (c)6二金、(d)7八歩、(e)6四銀をそれぞれ検討します。

7五銀図3
 (c)6二金は、後手が(b)6二歩の場合と同じように7八歩なら、7一金で先手が勝ちになります。7一金の時には8二角からの“詰めろ”ですし、7一同金、同竜と後手が金を手にしても、先手玉は詰みません。
 では、(c)6二金は先手勝ちなのか?  いえいえ。7八歩が間違いなのです。

7五銀図4
 (c)6二金には、8五桂が正着。
 今度7一金は、同金、同竜の時に、9七桂成があります。同玉以下、9六金打~8七金として先手玉が詰みます。
 先手が(c)6二金と打ってきた時、後手は金の入手が確実となるため、7八歩ではなく8五桂を選べばよいということです。(しかし将棋の終盤は繊細ですなあ。)

7五銀図5
 次は(d)7八歩です。これはどうなるか。
 「7八歩、同成桂、同銀、同金、8八金、同金、同玉、8五金、5二銀不成、7五金」

7五銀図6
 こう進むと、この図は先手玉が次に7七銀、同玉、6五桂からの“詰めろ”になっています。それを受けて7八歩などとしても6八銀で、先手勝てません。“一手一手で勝てない”という状況です。


7五銀図7
 (e)6四銀はどうでしょう。 この手のねらいは、次に6一竜、同銀、7三銀成と、もう一つは駒を蓄えてからの7五角、8四歩、同角、同玉、7五金の攻めです。
 「7八歩、6一竜、同銀、7三銀成」

7五銀図8
 先手が6一竜切りからのねらいを実行したところ。
 ここで8一飛の受けは、8二金で無効です。先手玉は一枚なら金を渡しても詰まないのでこの攻めが成立する。
 またこの図で8三飛も後手負けです。8三同成銀、同玉、8一飛以下、“詰み”があります。
 では、どう受けるか? 「7二銀」という受けがあります。同成銀なら、後手の“詰めろ”が解除され、7九歩成で後手勝ちに。 

7五銀図9
 しかしそこで図のように「8二桂成」という手がある。これを後手同角なら、8四角、同玉、7四金以下の“詰み”。 7三銀は8三金の一手詰め。
 だが、後手にもさらに“秘術”がある。
 「8七成桂、同玉、7七飛、9八玉、8二角」 

7五銀図10
 成桂を捨てて、飛車に置き換える。こうしておいて8二角と取れば、今度は後手玉の詰みが解除されている。
 ここで先手に有効手がありません。8二成銀にも、7二成銀に対しても、後手は7九歩成として「勝ち」となります。

 なお、(e)6四銀に対して7八歩を検討しましたが、そこは8五桂でも後手優勢のようです。


 以上のように、「問題図」で(Q)7五銀では、どうやら先手に勝ちがありません。


(R)7五角

7五角図1
 ≪問題図≫からの「7五角」を検討します。
 7五角には、「8四歩」しかありません。そこで先手の手番ですが、どうするか。8二銀、8三玉、6四金は、7七桂成、9八玉、7六角で後手勝ち。

 「7五角、8四歩、6八銀打」としてみましょう。以下、「7七桂成、同銀、同金、同玉、4四角、6六歩、8五金」で次の図。 

7五角図2
 ここまでの手順で、後手が「4四角、6六歩」を入れずに単に8五金と指すのは、そこで“8二金”で形勢不明の展開となります。あとからの4四角では、6八玉とされます。(ここがむつかしいところ)
 本筋の4四角には、7八玉は9九角成(次に7六香がある)、6八玉なら5六成桂で後手優勢です。
 この図で、「8二金」と打つのが先手の勝負手です。後手は「7五金」と角を取りますが――

7五角図3
 ねらいの「6一竜」。 同銀とは取れませんね。
 すると先手の勝ち? いえいえ。
 6一竜に、「6六金」で、後手の勝ちとなります。この6六金は、玉を逃げると詰むので、「6六同竜」しかありません。

7五角図4
 そこで「4九角」。 以下、「5八桂」に、「6六角」が“詰めろ”になっており、同玉と取っても6五飛以下“詰み”なので、後手勝ちが確定です。

 (追記: 「7五角、8四歩、6八銀打」にはそこですぐ4四角とするか、または5六成桂と指すほうが、後手としては、解説した順よりもより手堅くて優るようです。解説の順は4四角に5五桂合が少し気になる変化です。)

 というわけで、(R)7五角も先手勝てません。 


(S)6四銀

6四銀図1
 「6四銀」を調べます。
 これには5七角も有力ですが、これは相当きわどい変化になり、自分の調べでは後手が勝ちと出ましたが確信はありません。
 やはりここでも「6四銀」に、「7七桂成、9八玉、7一角」が有力です。

6四銀図2
 この局面から、次の2通りの手段を見ていきます。
(f)7五角、8四歩、5二銀
(g)7八歩

6四銀図3
 「(f)7五角、8四歩、5二銀」と進んだところ。後手は「7八歩」。
 6一銀不成からの攻めでは明らかに間に合いません。しかし先手のねらいは6一銀ではないのでした。
 「6一竜、同銀、6三銀成、8三飛」
 6一竜、同銀、6三銀成と、こう銀を使っていくのがねらいでした。6一竜は、8四角、同玉、7五金、9三玉、8四金からの“詰めろ”なので後手はこれを手抜きできません。6三銀成も“詰めろ”。
 そして後手は飛車しか持っていないので、8三飛と受けます。

6四銀図4
 さらに、ここから「8二桂成、同角、7四金」と迫ります。これも“詰めろ”。
 
6四銀図5
 しかし後手にも受けがあった。「6二銀」。
 銀を渡すと先手の玉は8九銀で詰んでしまうし、6二同成銀なら、7九歩成で後手の勝ちになる。先手の攻めは迫力があったが届かなかった。

6四銀図6
 「6四銀図2」まで戻り、「(g)7八歩」を調べよう。
 これも後手に分のある闘いとなるが、ここでの応手を誤ると形勢がひっくり返る。
 「7八歩」に対しては、“同金”が正解で、“同成桂”だと逆転してしまうのです。

6四銀図7
 前の図から、「7八同成桂、7五角、8四歩、6一竜、同銀、7三銀成、8一飛、8二金」と進んだのがこの図。これだと先手の勝ちになっています。
 この図の先手玉の形。金を一枚(または飛車)を後手に渡しても先手玉は詰まない形になっている。 そこがポイントととなるところで、これが“7八金”と取った形だったら、飛車を後手が持った瞬間に、8八飛で先手玉が詰んでしまっていたから、先手のこの攻めは成立しなかった。だから“あそこ”(6四銀図6)では、後手側は7八同金が正解だったというわけ。

 その「6四銀図6」に戻って、「7八同金」だと、その後は、以下「同銀、同成桂、8八金、同成桂、同玉、8五桂、8九桂、7七歩」と進みそう。
 それが次の図 

6四銀図8
 後手優勢。
 
 
 このように、(S)6四銀も後手が良くなるようです。


(T)6四角

6四角図1
 次は「6四角」。 
 これに対しては、作者の研究では、後手は「7七桂成、9八玉、6六角」とするのがよい。次に7八金が“詰めろ”になる。この「6六角」は、先手のねらいの攻め、6一竜、同銀、7三角成も封じている。飛車を渡したらその瞬間に8八飛から先手玉は詰まされてしまう。
 そこで先手は「7五銀」でどうか。

6四角図2
 この場面はしかし後手が優勢。 後手は、8七成桂(同玉に9九角成)でもよいし、7五同角でも勝てる。
 「7五同角」のほうを見ていきます。「7五同角、同角、8四歩、5三角成」。

6四角図3
 この5三角成は、次に7一角をねらっています。でもこれは詰めろにはなっていないので、後手は「7八歩」。
 7八歩では、7八銀でも後手が勝ちになりますが、先手に銀の“質駒”を与えない意味で7八歩のほうがより安全です。
 「7八歩」以下は、「7一角、同金、同馬、8三玉、7八銀、同金、7二馬、7四玉」
 7二馬を同玉だと、6一竜以下、詰んでしまうので注意が必要。

6四角図4
 後手玉は詰みません。6四金には、7五玉と逃げる。

 ということで、(T)6四角は後手勝ちとなります。



 ここから後の解説は簡単にいきます。


(U)6一竜

6一竜図

 ≪問題図≫ですぐに「6一竜」は、「同銀」と取られて先手負けになります。
 この時、後手は「飛角」を手にしているので、先手玉が7七桂成、9八玉、8七成桂、同玉、8六飛からの“詰み”が生じています。なので「6一竜、同銀」に、7五銀としたいのですが、それも8七桂成、同玉のあと、7六角、同玉、7七飛で“詰み”。


(V)8二角

8二角図1
 この図は≪問題図≫より、「8二角」と打って、以下「8四玉、6四銀(詰めろ)、6六角(詰めろ逃れ)」と進んだところ。
 この局面は後手の勝ち将棋になっています。
 「6一竜」としても、(これを同銀だと先手勝てるが)「7七桂成、9八玉、6一銀」で後手が良い。「8五」に空間をつくるのがポイントです。 以下「7三角成、8五玉」(次の図)と進めてみるが…

8二角図2
 先手玉は8八飛からの“詰み”がある。対して後手玉は、9五馬としても詰まない。

 なお、前の図(8二角図1)から9一角成なら、7七桂成、9八玉、7八金でやはり後手の勝ち。


(W)7六金

7六金図
 「7六金」には、「7七桂成、同金、同金、同玉、7六歩」で、後手優勢。
 7六同玉なら8五角、6八玉なら、5六成桂。


(X)6八金

6八金図
 「6八金」は、5六成桂で後手優勢。
 また、7七桂成、同金、同金、同玉、7六歩でも後手が良い。(これは上の「(W)7六金」と同じ変化になる。)


(Y)9八玉

9八玉図1
 「9八玉」には、7五角と打って、9七をねらって後手良しです。
 以下、「8八銀打」には、「9七桂成、同銀、同角成、同玉、8五桂、8八玉、7七桂成、9八玉、7六銀」。

9八玉図2
 これで後手勝ちとなります。8八金の受けには、9六金です。
 ただし、いまの手順で、最後7六銀のところ、9六金だと「形勢不明」になってしまいます。
 7六銀にかえての9六金には、7五角、8四歩、8五桂、8三玉、6五角という返しワザがあるのです。(次の図)

9八玉図3 (後手寄せを失敗の図)
 6五角は“詰めろ逃れの詰めろ”。(厳密にはここで9五歩としてまだ後手良しか)
 しかし、将棋の終盤は気が抜けないですね。

 


 以上、調べてきたように、正解手「7五金」以外の手では、先手勝てません。



 「次の一手」問題を作成するときは、なるべくシンプルにつくるように心がけているのですが、シンプルにつくったつもりでもこの問題図のように、調べてみるととてつもない変化のふくらみを持っています。
 一つの局面の変化を調べるのに、だいたい20時間を必要とします。(以前は30時間くらいかかった)
 この20時間というのは、つくった局面がうまくいってその局面を変更することがなかった場合の話で、局面をいじって変更する場合にはまたそこから“やり直し”になるので、2倍、3倍の時間がかかります。
 ソフトを利用しても一局面を調べるのにこれだけの時間がかかるのですから、プロ棋士が一局の将棋を5時間とか6時間の時間をかけて精一杯読んでも、読み切れないのは当然のことですね。
 そんなことを思います。


 江戸時代の対局は、家元の対局でも朝から始めて夕方までに終えるのが基本で、それで終わらないこともあったとは思いますが、基本は一日で指していたのだと思います。(はっきりとした根拠はないです。)
 1937年に実力制名人戦(リーグ戦)がスタートしますが、その時の持ち時間は各15時間で、2日制です。今で言うA級リーグに当たりますが、総当たりそれぞれ先後入れ換えての2局ずつの対局すべてがこの持ち時間です。 いま、名人戦は2日制で持ち時間各9時間です。それを考えるとこの2日制各15時間というのは超ハードな対局ですよね。それでも、将棋の手をとことん考え始めると、才能ある人でも、15時間あっても全然足らない、読み切れないということが、なんとなくですが「次の一手」を作りながら僕にもわかってきました。
 戦後すぐの1946年の名人戦「木村義雄vs塚田正夫」は、持ち時間各8時間で1日制。これもなかなかハードです。スポンサーの新聞社の経費削減のためにこうなったようです。
 順位戦の対局は、昭和の時代はもともと持ち時間は各7時間だったはずですが、今は6時間ですね。6時間に変わったのはいつでしょう? 1980年頃かな?
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