エルジビェーター・エティンガー「アーレントとハイデガー」がめちゃくちゃおもしろい。著者はポーランド人で、ワルシャワ・ゲットーを生きのび、現在アメリカの大学教授。ふたりの哲学者の長く続いた恋に焦点をしぼって描いている。
ハンナ・アーレントがマールブルク大学哲学教授だった35歳のマルティン・ハイデガーに出会ったのは、18歳のとき。たちまち恋に陥り、不倫の関係へ。
やがてヒトラーが政権を握り、ユダヤ人だったアーレントはアメリカへ亡命。一方ハイデガーは親ナチだったから学長へとのぼりつめ、自分の師フッサールやヤスパースを追放する。戦後、アメリカで華々しく活躍するアーレントによって、ハイデガーの立場はいわば「救われる」。
ふたりの恋は大きく3期に分けられる。第1期は、官能的な恋の2,3年。戦争をはさんで、その後の中年期(これがドロドロ)、最後はふたりが死ぬまでの1,2年だ。アーレントが亡くなるのは1975年、その5ヵ月後にハイデガーは他界する。
不思議な関係だ。真実なのだろうか。つまりこれほどの卑劣漢を、これほど長く愛し続けたアーレントの思いの深さとは何なのか。しかも彼女はどうしようもなくハイデガーに惹かれながら、夫のブリュッヒャーなしでは生きられないほど支えられてもいる。
ハイデガーは悪の魅力をふりまいていたのだろうか。砂糖壷みたいに女性たちを周りに集めたし、男性に対してもカリスマ的磁力があった。ヤスパースなど、ひどい目に合わされながら、なおも彼との和解を望んでいたほど。
戦後の禊をすませたハイデガーは、再び権力を手にする。そのとたん、またも男尊女卑が頭をもたげ、アーレントの活躍を認めたがらなくなる。こうして恋人どうしは哲学者としての闘いを始めるのだが、これはアーレントの勝ちかもしれない。「ナチに近づいたのは共産主義からドイツを守るためだった」と自己弁明していたハイデガーに対し、アーレントは代表作「全体主義の起源」の中で、ナチも共産主義も同一線上に置いて批判したのだ。
傑出した頭脳の持ち主たちの恋のありようは、複雑きわまりない。40すぎたアーレントがハイデガーに書き送った詩の一節、「あなたにわたしは誠実でありつづけ/そして不実でもありました/どちらも愛のゆえに」
互いに愛憎半ばする思いを、生涯持ち続けたのであろう、フォークナーの言うように、「過去は決して死なない。それは過ぎ去ってすらいない」。
ハンナ・アーレントがマールブルク大学哲学教授だった35歳のマルティン・ハイデガーに出会ったのは、18歳のとき。たちまち恋に陥り、不倫の関係へ。
やがてヒトラーが政権を握り、ユダヤ人だったアーレントはアメリカへ亡命。一方ハイデガーは親ナチだったから学長へとのぼりつめ、自分の師フッサールやヤスパースを追放する。戦後、アメリカで華々しく活躍するアーレントによって、ハイデガーの立場はいわば「救われる」。
ふたりの恋は大きく3期に分けられる。第1期は、官能的な恋の2,3年。戦争をはさんで、その後の中年期(これがドロドロ)、最後はふたりが死ぬまでの1,2年だ。アーレントが亡くなるのは1975年、その5ヵ月後にハイデガーは他界する。
不思議な関係だ。真実なのだろうか。つまりこれほどの卑劣漢を、これほど長く愛し続けたアーレントの思いの深さとは何なのか。しかも彼女はどうしようもなくハイデガーに惹かれながら、夫のブリュッヒャーなしでは生きられないほど支えられてもいる。
ハイデガーは悪の魅力をふりまいていたのだろうか。砂糖壷みたいに女性たちを周りに集めたし、男性に対してもカリスマ的磁力があった。ヤスパースなど、ひどい目に合わされながら、なおも彼との和解を望んでいたほど。
戦後の禊をすませたハイデガーは、再び権力を手にする。そのとたん、またも男尊女卑が頭をもたげ、アーレントの活躍を認めたがらなくなる。こうして恋人どうしは哲学者としての闘いを始めるのだが、これはアーレントの勝ちかもしれない。「ナチに近づいたのは共産主義からドイツを守るためだった」と自己弁明していたハイデガーに対し、アーレントは代表作「全体主義の起源」の中で、ナチも共産主義も同一線上に置いて批判したのだ。
傑出した頭脳の持ち主たちの恋のありようは、複雑きわまりない。40すぎたアーレントがハイデガーに書き送った詩の一節、「あなたにわたしは誠実でありつづけ/そして不実でもありました/どちらも愛のゆえに」
互いに愛憎半ばする思いを、生涯持ち続けたのであろう、フォークナーの言うように、「過去は決して死なない。それは過ぎ去ってすらいない」。
ハイデッカーを調べたことがあり、二人の恋は
知っていました。アーレントは、ユダヤ人ながら
もっと、幅が広いですよね。ハイデッカーは、カリ
スマですね。ワーグナーに似ています。「存在と
時間」は、やはり、画期的です。
この本にはリリアン・ヘルマンやオキーフも扱われているのですね。いつか機会があれば読んでみたいと思います。