今エリザベス1世についての短い原稿を書いている。それで10年ほど前の映画『エリザベス』(シェカール・カプール監督)をもう一度見直してみた。
コッポラの『マリー・アントワネット』に比べ、演技陣は充実しているしストーリーもはるかに劇的で面白いのだが、いかんせん史実どおりでないのが大きな欠点と思われる。『マリー~』の方は、主人公の未熟と気分にのみ焦点をあて周辺事情はほとんどどうでもいい扱いだったため、首飾り事件も革命も逃亡も処刑も、およそ大事なことは何ひとつ描かれないという凄いことになっていてびっくりしたけれど、少なくとも史実的に大きな嘘はなかった。
一方、若き日のエリザベスが恋を捨てヴァージン・クイーンとなるまでを描いた『エリザベス』は、主演のケイト・ブランシェットをはじめ、ジェフリー・ラッシュ,リチャード・アッテンボロー、ジョン・ギールグッド、ファニー・アルダンと実力派をそろえ、人物造型の掘り下げが深く説得力があるので、なおさらフィクション部分が気になってならない。
ひとつは国務大臣セシルについて。「賢明にして有徳の士」と呼ばれたセシルはこのとき38歳。エリザベスの優れた人事を証明するもので、実際セシルは親子2代にわたって彼女を支えることになる。ところが映画でのセシルはエリザベスに結婚を促すばかりの頭の固い老人にされ、あげくに短期間で隠居を求められていた!
またフェリペ2世がエリザベス暗殺を企てたのは事実だが、この映画のように報復としてスペイン大使を暗殺したことはない(国外追放のみ)。暗殺などしたら、即、戦争勃発となるわけで、これはかなり無茶な話である。
最悪は、エリザベスの恋人だった主馬頭ロバート・ダドリーが暗殺に加わったにもかかわらず許されるというエピソード。これはあまりにもやり過ぎ。事実は彼は50代半ばで病死するまで、エリザベスの忠実な臣下であり続けた。
まだまだ小さな作りごとはたくさんあり、せっかく出来の良い映画なだけに惜しいことであった。続編が制作されるようだが、今度はもう少し歴史映画らしくあってほしい。
あ、そうそう。書き忘れるところでしたが、『エリザベス』には新ボンド氏のダニエル・クレイグも出ていました。ローマ法王の命を受けて女王を暗殺しようとする役(女王陛下のスパイだった007と真逆ですね)。しかも失敗してひどい拷問を受ける。『カジノ・ロワイヤル』より痛そうな拷問でした・・・
☆今日の朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」の「世界史レッスン」は、「アメリカ独立戦争とリンチ」⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/03/post_8f23.html#more
リンチ(私刑)の語源について書きました。
☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪
①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」
☆☆ありがとうございます。おかげさまで『マリー・アントワネット』3刷りになりました。るんるん♪
☆☆☆ツヴァイクは、アントワネットとフェルゼンが身も心も一体となった「真の恋人どうし」であったと、微笑ましくなるほど力説しています。
![マリー・アントワネット 下 (3)](http://images-jp.amazon.com/images/P/4042082084.09.MZZZZZZZ.jpg)
◆マリー・アントワネット(上)(下)
シュテファン・ツヴァイク
中野京子=訳
定価 上下各590円(税込620円)
角川文庫より1月17日発売
ISBN(上)978-4-04-208207-1 (下)978-4-04-208708-8
コッポラの『マリー・アントワネット』に比べ、演技陣は充実しているしストーリーもはるかに劇的で面白いのだが、いかんせん史実どおりでないのが大きな欠点と思われる。『マリー~』の方は、主人公の未熟と気分にのみ焦点をあて周辺事情はほとんどどうでもいい扱いだったため、首飾り事件も革命も逃亡も処刑も、およそ大事なことは何ひとつ描かれないという凄いことになっていてびっくりしたけれど、少なくとも史実的に大きな嘘はなかった。
一方、若き日のエリザベスが恋を捨てヴァージン・クイーンとなるまでを描いた『エリザベス』は、主演のケイト・ブランシェットをはじめ、ジェフリー・ラッシュ,リチャード・アッテンボロー、ジョン・ギールグッド、ファニー・アルダンと実力派をそろえ、人物造型の掘り下げが深く説得力があるので、なおさらフィクション部分が気になってならない。
ひとつは国務大臣セシルについて。「賢明にして有徳の士」と呼ばれたセシルはこのとき38歳。エリザベスの優れた人事を証明するもので、実際セシルは親子2代にわたって彼女を支えることになる。ところが映画でのセシルはエリザベスに結婚を促すばかりの頭の固い老人にされ、あげくに短期間で隠居を求められていた!
またフェリペ2世がエリザベス暗殺を企てたのは事実だが、この映画のように報復としてスペイン大使を暗殺したことはない(国外追放のみ)。暗殺などしたら、即、戦争勃発となるわけで、これはかなり無茶な話である。
最悪は、エリザベスの恋人だった主馬頭ロバート・ダドリーが暗殺に加わったにもかかわらず許されるというエピソード。これはあまりにもやり過ぎ。事実は彼は50代半ばで病死するまで、エリザベスの忠実な臣下であり続けた。
まだまだ小さな作りごとはたくさんあり、せっかく出来の良い映画なだけに惜しいことであった。続編が制作されるようだが、今度はもう少し歴史映画らしくあってほしい。
あ、そうそう。書き忘れるところでしたが、『エリザベス』には新ボンド氏のダニエル・クレイグも出ていました。ローマ法王の命を受けて女王を暗殺しようとする役(女王陛下のスパイだった007と真逆ですね)。しかも失敗してひどい拷問を受ける。『カジノ・ロワイヤル』より痛そうな拷問でした・・・
☆今日の朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」の「世界史レッスン」は、「アメリカ独立戦争とリンチ」⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/03/post_8f23.html#more
リンチ(私刑)の語源について書きました。
☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪
①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」
☆☆ありがとうございます。おかげさまで『マリー・アントワネット』3刷りになりました。るんるん♪
☆☆☆ツヴァイクは、アントワネットとフェルゼンが身も心も一体となった「真の恋人どうし」であったと、微笑ましくなるほど力説しています。
![マリー・アントワネット 上 (1)](http://images-jp.amazon.com/images/P/4042082076.09.MZZZZZZZ.jpg)
![マリー・アントワネット 下 (3)](http://images-jp.amazon.com/images/P/4042082084.09.MZZZZZZZ.jpg)
◆マリー・アントワネット(上)(下)
シュテファン・ツヴァイク
中野京子=訳
定価 上下各590円(税込620円)
角川文庫より1月17日発売
ISBN(上)978-4-04-208207-1 (下)978-4-04-208708-8
「エリザベス」は、1世の方ですね。今度、公開される「クイーン」は、2世でしたね。ドラマ的には1世が波乱万丈です。たしか、観たんですが、ダニエル・クレイグにきずかなかった(当時は、無名?)。
時代劇は、史実を軽視して、ストーリーを面白く創ります。歴史劇はそれは許されませんが、心理、内面などは創造できるようです。鴎外に「歴史そのままと歴史離れ」なる評論があります。
歴史に詳しくない人は、あまり気にせず読んだり、見たりするんだはないでしょうか?義経がチンギス・カーンになったなどはバカバカしすぎますが、少々の脱線は面白い。水戸黄門なんて、史実から大脱落です。
「柳生一族の陰謀」でもラストに家光が殺されて「それはないでしょう!」と腹を立てたわたしです。
うらやましー!あやかりたいっす!!
薫子さんの本も増刷されますように!
《未完成交響楽》なんて、最初から最後まで、まるでデタラメ。一つ一つの曲の成立史から、伝記的史実まで。
こういうのを真に受ける人がいるのは恐ろしいが、それでも、イメージとしては、許容できないことも無い。
本当に許容できないのは、そうした映画や小説の感覚で、伝記が書かれ、出版されていることだ。19世紀に出た作曲家の伝記など、まさしくロマン(小説)だ。
だが、この恣意的伝記の段階を超えるには、厳密な資料検証が必要になる。
一つ一つの作品の成立史から伝記的史実まで、一次資料に基づいて検証するのは、大作業だ。20世紀半ば以降に進んだ音楽文献学の成果を以ってしても、そう簡単ではない。
となると、学術論文ならいざ知らず、映画や小説に、100%の検証を求めるのは、土台、不可能に近いということになる。
メンデルスゾーン研究などは、まだまだ、進んでいないのだが、中野さんのメンデルスゾーンに関する本は、どれだけの資料検証に基づいて書かれているのだろうか?
私はこのエリゼベスは観ませんでした(ジョセフファインズがあまり好きではない)が、2005年にドラマ化されたエリザベスI(ヘレンミレンとジェレミーアイアンズ)はとても楽しめました。史実にどれだけ忠実なのかはわかりません。なんだかそんなことどうでも良いくらい素敵なフィルムなんですが、歴史検証して頂けるとありがたいです。