中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

占わずにはいられない?

2006年04月01日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ

 ナンシー・レーガン大統領夫人が星占いに入れ込んでいたのは有名な話し。どこぞの国の都知事夫人も方位を見て、あれこれ占っているということを、当の都知事が雑誌に書いていたので、妙に感心した。政治家をつれあいに持つと、心配が絶えないのかも。

 驚いたのはサッチャー元イギリス首相の自伝を読んだときで、彼女みたいに一見、合理のかたまりみたいなタイプでも、占ってもらったことがあるという。まだ若いころで、何かのパーティの席上、宝石占い師から、「あなたはチャーチルと並ぶ大政治家になるでしょう」と託宣をうけた由。わざわざ自伝に書くほどだから、よほど強烈な印象を受けたのだろう。もちろん政治家らしい自己アピールなのはまちがいないとしても。

 童話の王様アンデルセンも、少年時代コーヒー滓占いをしてもらったことがある。

 よく知られているようにアンデルセンは、デンマークの小さな町オーデンセで、極貧の家に生まれた。現在、生家が保存されているのでわたしも行ったことがあるが、それこそ玄関をあければもう裏庭に続くドアが見える、というくらい狭い家だ。父親は靴職人とはいえ、ほとんど仕事もなく、ナポレオン軍に参加しようとしてけっきょく心を病んで若死にした。母親の生まれはもっと貧しく、「マッチ売りの少女」のモデルは彼女だったらしい。夫亡きあとは洗濯女になり、厳しい寒さ(なにしろ川で洗うのだ)をしのぐため安酒を飲み続けて、アルコール中毒になってしまった。

 アンデルセン自身はといえば、後年「デンマークのオランウータン」とあだ名されたほど外見に恵まれず、学校へもろくに行かなかった。夢みがちな少年で、「貧しい主人公が運に恵まれて幸福になる」というメルヘンをたくさん読み、自分のことだと信じ込んでいた。そしてそのためにはこんな田舎にいてはだめだから、ひとりでコペンハーゲンへ行きたいと、母に頼んだ。

 母親としては、どうにか息子をひき止めたいと念じたのだろう。占い師のもとへ連れていって未来をみてもらった。占い師の見立ては--

 「この子はえらい人になる。いつかオーデンセの町全体が、この子のためにイルミネーションで飾られる」

 ビンゴ!運命とはなんて不思議なものでしょう。

 

⇒拙著「メンデルスゾーンとアンデルセン」 hhttp://www.saela.co.jp/

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