中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

カミュ『誤解』~新国立劇場での舞台

2018年10月16日 | 雑記
 今年3本目になるストレート・プレイを見てきた。『シラノ・ド・ベルジュラック』『1984』に続いての『誤解』。

 カミュは昔「異邦人」と「シジフォスの神話」をさらっと読んだだけで、「ペスト」は未だツンドク。舞台は初めてだった。

 ヨーロッパ内陸の貧国の片田舎で細々と旅籠を経営する老母と娘。二人には裏の顔があり、遠くからの一人客が来ると殺して金品を奪っていた。そこへ見るからに富裕な客がやって来て……。

 という前知識以外はいっさい入れずに鑑賞。そして最初の母娘の会話から、もう夢中になってしまう。

 美術が抽象的で、ベッドと椅子がそれぞれ1つしかない。背後の大きな白い透けた布が生きもののように動き、ある時は壁になり、ある時はまだ見ぬ南国の薫風になり、さらには川の濁流と化す。これがよかった。言葉が迸り続ける台詞劇なので、そのニュアンスに集中できる。しかもその言葉たるや!

 カミュは上演に際してこう言っていたという、「悲劇的な性格を保つ高邁な書き言葉と、同時に耳に受け入れやすい自然なトーン」「はじめは自然に、幕を追うごとに高まり、神話の高みへ至るように」と。まさにそのとおりになっていた。

 ヒロイン役の小島聖もすばらしかった。長年の陰鬱な暮らしに押し潰され自由を渇望する一方で、母に自らが縛りつけられている。母の愛を得られないために出てゆけないのだ。客を殺して南国へ移住する資金を貯める、と言いながら、その底には、殺人という強烈な絆で母と繋がろうとしている部分もある。

 終幕近く、その母から、母親は娘より息子のほうが可愛いのだ、それはどうしようもない、と言われた時の、身がねじくれるような悲痛な叫びが傷ましかった。
 
 久々に腹にずんとくるお芝居が見られてよかった!! 未見の方はぜひ!


☆☆今後の講演会

・10月25日(木) 『絵画で旅する ~ルーベンス編~』(「ルーベンス展」主催TBS+JTBの共催) 2時~3時半 有楽町朝日ホール(有楽町マリオン11階)
http://www.asahiryoko.com/enjoy/news/2018bunkakouen/

・11月14日(水)11時~ ルーベンス展ランチ・イベント アートとグルメの極上の時間」 in 「Turandot 臥龍居」
http://www.tbs.co.jp/rubens2018/ticket/

・12月15日(土)2時~3時半 文藝春秋西館地下ホール
「17世紀オランダ美術とフェルメール」(文春トークライブ「私のフェルメール」3回連続講演の第3回目)
http://www.bunshun.co.jp/info/talklive/index05.html


☆☆月刊「文藝春秋」連載「中野京子の名画が語る西洋史」のオンライン化
http://bunshun.jp/articles/-/4976

☆最新刊「名画の謎 対決篇」(文春文庫)
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☆「美貌のひと」(PHP新書) 7刷になりました🎵
name="amazletlink" target="_blank"> alt="美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔 (PHP新書)" style="border: none;" />
 
 クリエイティブディレクター・佐藤可士和氏がご紹介くださいました。

https://iptops.com/news/173106

☆「名画の謎 陰謀の歴史篇」(文春文庫) 2刷になりました🎵
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☆アートギャラリー ヌード~かぐわしき夢」(集英社)
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☆「別冊NHK100分de名著 読書の学校 中野京子 特別授業 『シンデレラ』 (教養・文化シリーズ) 2刷になりました🎵  「ジュニアエラ」で紹介しました→https://dot.asahi.com/dot/2018011700013.html?page=1

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☆「名画で読み解く イギリス王家12の物語」(光文社新書)5刷になりました🎵
  name="amazletlink" target="_blank"> alt="名画で読み解く イギリス王家12の物語 (光文社新書)" style="border: none;" />

☆『怖い絵のひみつ』(KADOKAWA) 4刷になりました🎵
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☆『中野京子と読み解く運命の絵」(文藝春秋) 2刷になりました🎵
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☆「新 怖い絵」(角川書店) 10刷になりました🎵
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☆「名画と読むイエス・キリストの物語」(文春文庫)2刷になりました🎵

時代小説作家の千野隆司氏がHPで紹介してくださいました♪

http://blog.livedoor.jp/chino17jidai/archives/52067341.html#comments

☆「美術品でたどる マリー・アントワネットの生涯」(NHK新書)
美術品でたどる マリー・アントワネットの生涯 (NHK出版新書 497)

☆「名画の謎 旧約・新約聖書篇」(文春文庫)3刷になりました🎵

名画の謎 旧約・新約聖書篇 (文春文庫 な)
  『弐代目 青い日記帳』さんがさっそく紹介してくださいました♪ 3月6日のページです。
http://bluediary2.jugem.jp/


☆「残酷な王と悲しみの王妃 2」(集英社)

残酷な王と悲しみの王妃2
担当者さんが紹介してくれました♪


http://renzaburo.jp/shinkan_list/temaemiso/151023_book01.html


☆『「絶筆」で人間を読む - 画家は最後に何を描いたか』(NHK出版新書)
 3刷になりました♪

「絶筆」で人間を読む―画家は最後に何を描いたか (NHK出版新書 469)

☆「中野京子と読み解く 名画の謎 対決篇」(文藝春秋)3刷になりました🎵
<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163903089/hanatumuhiton-22/ref=nosim/" name="amazletlink" target="_blank">中野京子と読み解く 名画の謎 対決篇
「青い日記帳」さんが紹介してくださいました。素敵な紹介で嬉しいです♪
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=4050

☆文藝春秋WEBサイトでは、短いですけどわたしのインタビュー記事も載りました。お読みくださいね!→http://hon.bunshun.jp/articles/-/3935


☆「名画の謎 ギリシャ神話篇」(文春文庫) 3刷になりました🎵

名画の謎 ギリシャ神話篇 (文春文庫)


☆「愛と裏切りの作曲家たち 」(光文社知恵の森文庫)

愛と裏切りの作曲家たち


☆「マンガ西洋美術史03」(美術出版)

マンガ西洋美術史03 「市民社会」を描いた画家」 ブリューゲル、フェルメール、ホガース、ミレー、ゴッホ



☆「マンガ西洋美術史02」(美術出版社)
マンガ西洋美術史02「宗教・神話」を描いた画家  ボッティチェリ、ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロ、ティツィアーノ、エル・グレコ、ルーベンス


☆「危険な世界史 運命の女篇」(角川文庫) 7刷になりました。

危険な世界史 運命の女篇 (角川文庫)

☆「マンガ西洋美術史01」監修(美術出版社)
マンガ西洋美術史01 「宮廷」を描いた画家 ベラスケス、ヴァン・ダイク、ゴヤ、ダヴィッド、ヴィジェ=ルブラン


☆「ヴァレンヌ逃亡」(文春文庫)
ヴァレンヌ逃亡 マリー・アントワネット 運命の24時間 (文春文庫 な 58-2)


☆「名画で読み解く ロマノフ家12の物語」(光文社新書)6刷になりました♪

名画で読み解く ロマノフ家 12の物語 (光文社新書)   

☆「印象派のすべて」(宝島社別冊ムック)
印象派のすべて (別冊宝島 2200)

☆「名画に見る 男のファッション」(角川書店)
名画に見る男のファッション (単行本)

☆「橋をめぐる物語」(河出書房)
中野京子が語る 橋をめぐる物語

☆「中野京子と読み解く 名画の謎 陰謀の歴史篇」(文藝春秋) 3刷になりました♪
中野京子と読み解く 名画の謎 陰謀の歴史篇

☆「残酷な王と悲しみの王妃」(集英社文庫)4刷になりました♪
残酷な王と悲しみの王妃 (集英社文庫)

☆「怖い絵」(角川文庫) 単行本に新しく書き下ろし2作を加え、全22作品です。15刷になりました🎵 怖い絵  (角川文庫)

☆「はじめてのルーヴル」(集英社)2刷になりました🎵 はじめてのルーヴル (集英社文芸単行本)

☆「名画の謎 旧約・新約聖書篇」(文藝春秋) 5刷になりました🎵
中野京子と読み解く 名画の謎 旧約・新約聖書篇

☆「怖い絵 死と乙女篇」(角川文庫) 12刷になりました🎵 怖い絵  死と乙女篇 (角川文庫)

☆最新刊「名画と読む/イエス・キリストの物語」(大和書房) 3刷になりました🎵
名画と読むイエス・キリストの物語

☆「危険な世界史 運命の女篇」(角川書店) 2刷になりました🎵
危険な世界史 運命の女篇

☆「危険な世界史 血族結婚篇」(角川文庫)14刷になりました🎵
危険な世界史 血族結婚篇 (角川文庫)

☆「怖い絵 泣く女篇」(角川文庫)~「怖い絵2」の文庫化~ 17刷になりました🎵
怖い絵 泣く女篇 (角川文庫)

☆『中野京子と読み解く 名画の謎 ギリシャ神話篇』(文藝春秋) 7刷になりました🎵
中野京子と読み解く名画の謎 ギリシャ神話篇


☆「印象派で「近代」を読む ~光のモネからゴッホの闇へ~」(NHK新書)6刷になりました♪
印象派で「近代」を読む―光のモネから、ゴッホの闇へ (NHK出版新書 350)

☆「『怖い絵』で人間を読む 」(NHK出版生活人新書) 16刷になりました🎵
「怖い絵」で人間を読む 生活人新書


☆光文社新書「名画で読み解く ブルボン王朝12の物語」10刷になりました♪
名画で読み解く ブルボン王朝 12の物語 (光文社新書)

☆「名画で読み解く ハプスブルク家12の物語」(光文社新書) 24刷になりました🎵 名画で読み解く ロマノフ家 12の物語 (光文社新書)

☆「芸術家たちの秘めた恋 ―メンデルスゾーン、アンデルセンとその時代 (集英社文庫)
芸術家たちの秘めた恋 ―メンデルスゾーン、アンデルセンとその時代 (集英社文庫)

☆「おとなのためのオペラ入門」(講談社+α文庫) 3刷になりました🎵 おとなのための「オペラ」入門 (講談社+α文庫)

☆「恐怖と愛の映画102」(文春文庫)
恐怖と愛の映画102 (文春文庫)

☆「歴史が語る 恋の嵐」(角川文庫)。「恋に死す」の文庫化版。 4刷になりました。
歴史が語る 恋の嵐 (角川文庫)

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☆以下の単行本は絶版としました。文庫本をお求めくださいまし~

☆「怖い絵」16刷中。怖い絵

☆「怖い絵2」、9刷中。 怖い絵2

☆「怖い絵3」 6刷中。 怖い絵3




















 
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4 コメント

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戯曲は読みました (レーヌス)
2018-10-16 20:57:55
 舞台を見たことはないけど、新潮文庫で読みました、『カリギュラ』とセットの本です。
 ある意味ではお約束の展開で、じわじわとした怖さがありました。
 主人公がマルトと言う名前なのは、新約聖書のマルタとマリアのエピから、力を尽くしているのに報われない、それ相応の感謝を得られていない役どころでマルタと重ねているのだろうかと思いました。
 (ところで、暑中見舞いの季節にお手紙出したのですが届いてませんか?ルネサンスや絵画が題材のマンガ各種紹介の内容です)
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ハクスブルク家の12の物語 (ダ・ヴィンチ)
2018-10-18 16:01:11
いつも拙いコメントに目を通していただき恐縮しております。先生の御本を読むと、コメントを書きたい気持ちが高まり、こうして書いてしまいます。それにしてもハクスブルク家の650年には、開いた口がふさがりませんね。怒涛のように続けられた近親婚。血筋を絶やさないと言ったって、よく子供が作れたなと思ってしまいます。性の強さが、人類の絶滅を救って
きたことは確かです。でも、絶えざる性による被害、不倫、同性婚の是非、等々、性は魔性も持っています。近親婚は日本にもありましたが、ハクスブルク家ほどではなかったような。前にオーストリアに行った時に泊まったホテルにあのエリザベートのものすごく大きな絵が飾ってありました。もちろん複製画でしたが、びっくりでしたね。
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チューリップ・フィーバー (トクちゃん)
2018-10-19 21:01:31
見てきました。
オランダの絵画を思わせるような画面、高価な青い石を削りながら絵の具を作る若い画家の青い目、ヒロインの青いドレスにマントの青い裏地・・・印象的でした。修道院でチューリップが栽培されていたのもなんだか凄い。ジュディ・デンチって良い役者さんです。後味の良い(?こんな言葉ないですが)映画でした。
パンフレットの京子さんのページも立ち読み(失礼しました)しました。
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Unknown (みなさま(kyoko))
2018-10-21 10:38:38
レーヌスさん
 わたしは逆で、戯曲はできるだけ舞台を見た後に読むタイプです。その方が舞台を楽しめると思って。
 漫画の紹介ありがとうございました!仕事の本優先でなかなか漫画までは手が出ないのですが、いつかきっと。

ダ・ヴィンチさん
 ウィーンとブダペストはエリザベート満載ですよね、チョコを始めとして。
 でもホテルのお部屋にまでとは知りませんでした。徳島のホテルではゴッホひまわりルームというのに泊まりましたが。

トクちゃんさん
 あの男優はジェ-ムス・ディーンを演じたことがあるみたいですね。いつか見てみたいと思いました。
 居酒屋での球根競り市のシーンが面白かったです。主人がヤン・ステーンだったりしたらなお愉快だったけど。
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