中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

誰がモーツァルトを殺したか?

2010年04月27日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン<映画篇>」第37回の今日は、「神に愛されし子、モーツァルト」⇒ http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2010/04/post-ccdc.html#more
 数々の賞を独占した『アマデウス』について書きました。

 もともとは舞台劇。わたしも読みましたし見ましたが、緊迫した見事な戯曲です。史実の隙き間をフィクションで埋めてゆく、その兼ね合いも完璧!
 映画はモーツァルトの比重が少し大きくなり、華やかさが増して、これはこれで見応えがありました。
 
 モーツァルトはあまりに突然亡くなったため、当時からすでに毒殺説が流れました。サリエリの死後、ロシアのプーシキンが『モーツァルトとサリエリ』という小劇を書いており、サリエリ犯人説は何もシェーファーのオリジナルではないのです(彼のオリジナリティはそれとは別のところにあります。そこがすばらしい)

 多くの伝記作者たちが犯人探しをしています(もはや病死説をとる人はいないようです)。サリエリを筆頭に、悪妻コンスタンツェ犯人説、『魔笛』の脚本を書いたシカネーダー説、モーツァルトにお金を貸していた友人説、フリーメーソン陰謀説などというのもありました。

 モーツァルトの死の翌朝、かつて彼の教え子だった美人ピアニストが夫に顔を切られ半殺しの目にあい(命は助かります)、夫は自殺しました。そこでこの夫が、妻との仲を疑ってモーツァルトに毒を盛ったのではないかという説まで浮上しました。

 個人的に面白いな、と思ったのは、E.W.ハイネという伝記作家の推理です。彼によるとーー

 モーツァルトは梅毒に罹患していた。友人のスヴィーテン(彼の父親は有名な医者)から治療薬の水銀をもらっていたが、処方を間違えられて死んだ。

 つまり犯人はスヴィーテンだったというのです。しかも毒殺するつもりなど全くなく、いわば治療ミスで死なせたのだ、と。

 だから死後まっさきにスヴィーテンが駆けつけてきたのだし、大急ぎで葬儀をとりおこない、あとで遺体解剖ができないように、共同墓地へ葬ったのだというのです。もちろんそれには妻のコンスタンツェの同意があった、と。

 モーツァルトの死の謎は、ミステリ小説で犯人を書いてあるページだけが破られているみたいに、もどかしいというか歯がゆいというか・・・。


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9 コメント

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死神説?! (ayachin)
2010-04-28 13:21:18
遺作となった「レクイエム」の作曲を依頼しにやって来た、灰色の服を着た不気味な男=死神説というのもありましたね。

映画「アマデウス」の中で使われている第25番の交響曲も、劇的なドラマを予感させるような雰囲気を醸し出しているようです。

週末には、友人と「長谷川等伯展」を見にいく予定です。こちらも「ハプスブルク展」に引き続いて大ヒット!先週の日曜日には、来場者10万人を突破したそうです。
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Unknown (ayachinさんへ(kyoko))
2010-04-29 11:42:19
 後年、その不気味な黒づくめの男は、ある貴族の使いだったということが判明しました。その貴族は、モーツァルトに書かせて自分の名前で発表しようとしたのです。それで謎めいてしまったというオチが。。。いやはや。
 長谷川等伯、すごい人気ですね!
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初めまして (mika)
2010-04-30 00:13:22
「怖い絵」のシリーズから中野さんのファンになりました。
中野さんの文章はとにかく上手で読んでいるこちらをぐいぐい引き込んであっという間に読み終わってしまうし、何度読んでも面白くてストレスにならないのですごいと思います。
仰ってることは時折「本当かな?」と思うこともあるのですが(すいません!)、余り押し付けがましくなく、
「そういう考え方も面白いな」
と思えます。

「アマデウス」は好きな映画の一つです。
映像が綺麗なのと音楽がいいなあと思います。
サリエリの焼けるような嫉妬心とか、最後に
「私は凡庸なるものの守護者だ(ちょっと違う?)」
というセリフが残っています。
モーツァルトはその音楽だけじゃなく、死因まで人の心を惹き付けるのだから、神に愛された天才は違うなあ、と思いました。

長々と失礼しました。
中野さんの素晴しい本が生まれていくのを楽しみにしています。
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謎多き死……。 (YUMIKA)
2010-05-01 17:46:26
モーツァルトに関しては本当に謎が多いようで、あれやこれや考えてしまいたくなりますね。
彼が遺した作品(個人的な印象ですが無邪気さが感じられます)とはなんだか対照的なような……。

それから、「ミステリ小説で犯人を書いてあるページだけが破られているみたいに」という箇所ですが、
私は中野先生のこのような表現がとても好きです。

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Unknown (mikaさん&YUMIKAさんへ(kyoko))
2010-05-02 16:10:45
mikaさん
 ご訪問ありがとうございます♪
 「何度読んでも面白い」と言ってもらえるのは著者冥利に尽きます☆
 「アマデウス」以来、時たまサリエリの演奏会が開かれるようになりましたよね。

YUMIKAさん
 表現への言及、嬉しいです♪わたしもやはり、好みの作家はその文体や形容が好きだからということが多いです。そこへ共鳴するのでしょうね。
 
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ついにウィーンです! (うさ)
2010-05-02 22:58:57
4月は歌舞伎座最後の公演で大わらわだったので、ご無沙汰してしまいました。
連休が明けると、いよいよウィーンです!ウィーン・パリで約2週間、10数年ぶりの1人旅で、少々不安もありますが、噴火騒ぎもひとまず収まり、旅の実感がわいて来ました。ウィーンとパリで「1人怖い絵ツアー」をするつもりで、歩いて見て食べて感じて、美しい季節を満喫したいと思っています。
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追記 (うさこママ)
2010-05-02 23:04:20
ただ今の投稿、名前が途切れてしまいました。
昨年のハプスブルク展が契機になってウィーンへの興味が増し、今回の旅になりました。帰国したら、ご報告しますね。
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やったー!! (転勤族)
2010-05-04 00:23:14
知る楽再放送されるのですね。
6月・・忘れそうでスケジュール帳にメモしました。実は第1回を見逃してしまっていたので。
京子先生、わたくし実は「死の島」に心惹かれるのです。8年程前大塚美術館で初めて目にしたときから・・。「知る楽」でその魅力について語られるのかなあ。なんて思っていたら何か違ったので、びっくり。皆さんのコメント見ても
あまり好きな絵ではないようで・・。
私だけ「不穏な時代」に生きているのかな?それとも「ゲルマン的」なのかしら?「死の島」をみると、とても穏やかなきもちになります。日本人としては、おかしな人なんでしょうか?
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Unknown (うさこママさん&転勤族さんへ(kyoko))
2010-05-04 09:16:47
うさこママさんへ
 噴火騒ぎが一応おさまって良かった!
 ウィーンもパリも食べ物は美味しいし見所いっぱいなので、何度訪れてもすばらしいですよね。旅行譚、楽しみにしています♪

転勤族さんへ
 「知る楽」再放送、そうなんです。再編集してBShiで6月なので、近づいたら本ブログでも告知予定です♪
 「死の島」ですが、大塚美術館のは第5ヴァージョンなのでそう感じるのかもわかりません。第1と第2はずいぶん受ける印象が違うんですよ。それがこの作品群の持つ不思議な魅力かもしれませんね!
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