中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

ゾフィア・ドロテアの悲劇(世界史レッスン第57回)

2007年04月03日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」で連載中の「世界史レッスン」第57回目の今日は、「妻を32年も幽閉したジョージ1世」。⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/04/post_a415.html#more
イギリスの4人のジョージ王のうち、嫌われ度最高のジョージ1世について書きました。

 ゾフィア・ドロテアとジョージ1世は、6歳違いのいとこだった。とうぜん小さなころから互いを知っていたが、ドロテアはジョージ(当時はゲオルク)が粗野で無神経なのを嫌っていた。彼の方は、ドロテアの母が名門出身でなかったのを馬鹿にしていたという。

 ふたりの結婚はお定まりの政略結婚である。ドロテアの父は名誉が、ジョージの親は金が欲しかった。両家にとってはこれ以上望ましい縁談はなかったわけだが、16歳のドロテアは泣いて嫌がった。酷い運命を予感したのだろうか?

 宮廷に入ってすぐ、ドロテアの試練は始まった。姑と小姑が実験をにぎり、陰に日に彼女を苛めたし、夫は子どもふたりできた段階で完全に床を別にした。離婚も拒否した。

 ドロテアはスウェーデン貴族との駆け落ち失敗後、28歳から60歳まで幽閉され、子どもとの面会すら許されなかったのだ。国民が彼女に同情するのも無理はない。

 ジョージ1世のような粘着質の人間は、現代でもけっこういるものだ。愛情はとっくになくなっているのだから、いっそ離縁して相手にも再婚を許してやればいいのに、愛とは別の執着がそれを妨げる。

 日本でも、某著名人の正妻が別居ウン十年になっても戸籍上の妻の座を明け渡さず、彼の死後、愛人とお骨の取り合いをしていたっけ。寂しい心だなあ・・・

☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪

怖い絵
怖い絵
posted with amazlet on 07.07.14
中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」

☆拙訳「マリー・アントワネット」(画像をクリックするとアマゾンへ飛べます)
☆☆スウェーデン貴族は、このドロテアといいアントワネットといい、他国の王妃になぜか受けがいいみたいですね♪
マリー・アントワネット 上 (1) マリー・アントワネット 下 (3)

◆マリー・アントワネット(上)(下)
 シュテファン・ツヴァイク
 中野京子=訳
 定価 上下各590円(税込620円)
 角川文庫より1月17日発売
 ISBN(上)978-4-04-208207-1 (下)978-4-04-208708-8






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10 コメント

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Unknown (unknownさんへ(kyoko))
2007-04-12 10:03:47
 ご訪問ありがとうございます♪(お名前があると嬉しいです)
 ジョージ1世とゾフィアはいちおう離婚はしたんですよね。ただし条件として彼の方は再婚してもいいが、彼女はだめだという契約書に、ゾフィアはサインしてしまった。まだまだ隠された真実がありそうです。
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Unknown (Unknown)
2007-04-12 01:16:36
 愛憎の綾より何より、ジョージがドロテアと離婚しなかったのは、ドロテアが持参金として持ってきたの財産を手放し炊く無かったからじゃないかしら?
 最初から金目当ての結婚なんだから。
 
 それに、病気で醜貌になったのを理由に婚約破棄され、名門でもない美人に奪われたことを恨んだジョージの母にすれば、そのライバル譲りのドロテアの美貌を闇に葬り、ジョージがブスの愛人を連れまわすのを見せ付けることで、復讐を果たしたつもりなのでしょうね。
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Unknown (レーヌスさんへ(kyoko))
2007-04-05 19:29:14
 「ザマミロ」という国民感情は間違いなくあったでしょうね。ジェーン・シーモアが産褥熱で死んだときも、アン・ブーリンの呪いだとみんな信じたといいますし(呪いならヘンリー8世の方へかければいいのに・・・)
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物好きなヤツ (レーヌス)
2007-04-05 19:13:57
 私の読んだ本には、愛人たちがブスなことも王の不人気に拍車をかけた、と書いてありました。ミーハー心理としてはありそうなことですね。そりゃ、不美人の正妻に美人の愛人では正妻が気の毒ではありますが。
 死んだ后に呪い殺されたというのは場面として面白くはあります。少なくとも、そういう話が出るのは人々がザマミロと思っていたからでしょうね。
 
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Unknown (minさんへ(kyoko))
2007-04-05 08:58:05
人間のこのどうにもならない強烈な愛憎あればこそ、文学作品ができるのでしょうけれど、巻き込まれる方は大変ですよね。
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不幸な愛し方 (min)
2007-04-04 20:52:14
ジョージ1世は、きっと愛し方が上手ではなかったんではないでしょうか。子どもが、好きな子にわざと意地悪するような・・・屈折していたのでしょう・・。
自分をの気持ちを引いて、相手の幸せを願うようなことは、大人でないとできないこと。。
それにも増して、仕返しをしようとか。それは醜いですね。そんな愛し方しか出来なかったんでしょうね。
不幸な愛し方ですね。お気の毒です。
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Unknown (masakoさま(kyoko))
2007-04-04 14:10:28
そうでした、ローランサンです!彼女、男女両方を愛することのできた人なので、恋心がよくわかっていますよね~♪
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画家のマリー・ローランサン (masako)
2007-04-04 12:23:30
の詩じゃなかったでしたっけ、「・・・一番哀れなのは忘れられた女」は。池田満寿夫の最初の奥さんも、彼が富岡多恵子、リラン、佐藤陽子と結婚を重ねたけれど、最後まで籍を抜かなかったですね。上記の人々は「結婚」と言っているから、それだどマスオ君重婚罪になるんじゃ。。。。
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Unknown (haruuraraさんへ(kyoko))
2007-04-03 20:09:58
憎まれても忘れられたくない、という強烈な思いなのでしょうか。フランスの詩で(作者名失念)、嫌われた女よりもっと哀れなのは寂しい女です、寂しい女よりもっと哀れなのは・・・とずっと続いていって、最後に一番哀れなのは「忘れられた女です」と締めくくられるのがありました。ほんとだなあ、と感じ入ったものです。
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独占欲とは? (haruurara)
2007-04-03 18:37:11

 日本の例とは、吉行淳之介でしょうか?もてることもあって、彼は、随分女に手を出し、愛人に恵まれましたが、離婚をしてもらえない、「しっぺ返し」を受けましたが、苦にしたとは思えません(他の作家なら話は別)。
 独占欲の裏には、プライド、ルサンチマン、などいろいろ在るようです。権力のない市民の抵抗は、既得権だけか?いずれにしろ、みっともない光景です。「許せないほど愛してる」というのは、自分を愛しているだけの、エゴイズムです。
 愛されない人にしがみつくのは美学ゼロの愚人。
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