中野京子の「花つむひとの部屋」

本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。

マリー・アントワネットはあおむけでギロチンにかけられたのか?(世界史レッスン第50回)

2007年02月13日 | 朝日ベルばらkidsぷらざ
 朝日新聞ブログ「ベルばらkidsぷらざ」に連載中の「世界史レッスン」第50回目の今日は、「ギロチンは人道的?」⇒http://bbkids.cocolog-nifty.com/bbkids/2007/02/post_cfe3.html#more
 ギロチンがフランス革命で使われるようになったいきさつについて書きました。ただし刃を斜めにしたのはルイ16世の提案だったとの説は省略。なぜならこれを言っているのは処刑人サンソンだけで、わたしとしては真偽のほどはあやしいかな、と思っているので。

 白ばら運動のゾフィー・ショルがギロチンにかけられた1943年という年は、フランスでもひとりの女性がギロチンで処刑された。戦争中、望まぬ妊娠をした女性たちに堕胎手術をおこなっていた、というのがその理由だ。
 
 両事件とも優れた映画作品になっている。
 前者は「白バラの祈り」--ラストのギロチン・シーンは衝撃的だった。恥ずかしながらわたしは射殺だとばかり思い込んでいたので、なおのことショックが大きかったのだ。
 後者は「主婦マリーがしたこと」--ゾフィー・ショルとは正反対で、このマリーは全く信念も何もなく、ただ頼まれてずるずると堕胎に手を貸し、政治的判断で死刑にされてしまう。どちらも歴史に翻弄された女性たちだが、その差は大きい。

 ところで前から気になっていたのだが、去年ミュージカル『マリー・アントワネット』を見て、ラストに驚いた。ギロチン台にあおむけになって首をはねられるシーンだったからだ。

 舞台上での演出にしても、これはひどいと思ったが、なんと、「アントワネットは民衆にあまりに憎まれていたため、苦痛を増大させようとあおむけで処刑された」という説があると知った!

 それでいろいろ手元の文献を読み直してみると、画家の名前の記されていない当時のイラストに、こんなものがあった。処刑後の彼女の身体が棺に入れられようとしているのだが、それがあおむけなのだ(もっともこれは、ひっくり返した後かもしれない)。またサンソンの手記で、死の直前、アントワネットは空を見ていた、と書いてあり、うつぶせだとそれは不可能ではある。

 他には証拠らしいものもなく、十中八,九、あおむけなどありえないと思いつつ、しかし可能性ゼロとは言えないのかなあ、と悩む。どなたかご存知の方、教えてください!

☆新著「怖い絵」(朝日出版社)
☆☆アマゾンの読者評で、この本のグリューネヴァルトの章を読んで「泣いてしまいました」というのがありました。著者としては嬉しいことです♪

怖い絵
怖い絵
posted with amazlet on 07.07.14
中野京子 朝日出版社 (2007/07/18)


①ドガ「エトワール、または舞台の踊り子」
②ティントレット「受胎告知」
③ムンク「思春期」
④クノップフ「見捨てられた街」
⑤ブロンツィーノ「愛の寓意」
⑥ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」
⑦ルドン「キュクロプス」
⑧ボッティチェリ「ナスタジオ・デリ・オネスティの物語」
⑨ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」
⑩アルテミジア・ジェンティレスキ「ホロフェルネスの首を斬るユーディト」
⑪ホルバイン「ヘンリー8世像」
⑫ベーコン「ベラスケス<教皇インノケンティウス10世像>による習作」
⑬ホガース「グラハム家の子どもたち」
⑭ダヴィッド「マリー・アントワネット最後の肖像」
⑮グリューネヴァルト「イーゼンハイムの祭壇画」
⑯ジョルジョーネ「老婆の肖像」
⑰レーピン「イワン雷帝とその息子」
⑱コレッジョ「ガニュメデスの誘拐」
⑲ジェリコー「メデュース号の筏」
⑳ラ・トゥール「いかさま師」

☆ツヴァイク『マリー・アントワネット』、なかなか重版分が書店に入らずご迷惑をおかけしました。今週からは大丈夫のはずです。「ベルばら」アントワネットの帯がかわゆいですよ♪
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マリー・アントワネット 上 (1) マリー・アントワネット 下 (3)
「マリー・アントワネット」(上)(下)
 シュテファン・ツヴァイク
 中野京子=訳
 定価 上下各590円(税込620円)
 角川文庫より1月17日発売
 ISBN(上)978-4-04-208207-1 (下)978-4-04-208708-8

コメント (9)
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