公表から少々(というかかなり)時間が経ってしまいましたが、昨年あれこれとコメントした中国電力の知的財産報告書の2009年版が発行されました。‘サービス業の知的財産戦略’は個人的には重要なテーマの1つということもあり(電力会社がサービス業かというのは微妙なところですが・・・)、2008年版からの変化を中心に、ちょっとばかりマニアックにみてみたいと思います。
昨年からの違いで特に目に付いたのは以下の点です。
① 3p.に、経営戦略と知財戦略の関係をビジュアルに示す絵(図)が入った。
② 5p.の基本理念(2)の記述が厚くなった。
③ 16p.に、特許の価値の定量評価の評価手法の具体的な説明が追加された。
④ 16~17p.に、「知財の事業への活用事例」の項目が加わった。
⑤ 19p.に、「オープンイノベーションについて」の項目が加わった。
⑥ 「CSRの取り組み」の章が新設された。
このうち⑤と⑥は、ちょっと自分にはコメントするだけのバックグラウンドがないので、追加された、という指摘だけに止めておきます。時代のトレンドを考慮して追加したのかなぁ、なんて印象もありますが。
さて、昨年も注目したように、同社の知財活動の最大の特徴を表しているのは、①と②に関する部分であると思います。電力会社は製造業と違い‘商品’を売るわけではないので、知財活動の位置付けも当然に異なるものとなるはずです。ではどのように位置付けるか、という問題に対して解を見出しておらず(というかそもそも解はないと判断し)、特許を出願するにしても散発的に行っているサービス系の企業が多いのではないかと思いますが、同社はそこのところを、「現場も含めた創意工夫の促進⇒人材基盤の強化」が「サービスレベルの向上」に結びつく、という考え方のもとに明確な方針をもって取り組んでいることが読み取れます。この部分が製造業と全く異なるところで、それゆえにできるだけ多くの社員を知財活動に巻き込むことに力を入れ、その点においては数字にも明確な成果が表れている(発明者人口の増加、社内ホームページへのアクセス数など)ように見受けられます。
2009年版では、①に示したように、そのイメージがシンプルな絵で表現されました。以前に「それは、こちら側の仕事。」のエントリで、‘三位一体’がわかっていても実践できない理由の一つとして、「現場でリマインドができていない」ということを挙げましたが、知財活動の位置付けを難しい理屈ではなく、わかりやすい絵で表現することは、有効な解決策の一つではないかと思います。この絵はそういう役割を果たす意味があるのでは(だからいろんな場面で使っていったほうがよいのでは)、なんて思った次第です。
②の基本理念(2)では、同業他社に比べて多くの出願を行い、多くの社員を巻き込んでいる理由が、2008年版より詳しく説明してあります。これは知財活動の意義の根幹をなす部分なので、冒頭に丁寧に説明しておくことは重要でしょう。
以上の①、②からは、ぶれずにこの方針を推進する、という同社の姿勢がよく表れていると思います。
次に③の部分ですが、どうしても周囲の関心が数字で示される価値評価に向かいやすいため(特にマスメディア)、「どうやって計算しているんだ」という疑問に答えるために追記したのではないかと思います。しかし、知財価値の定量評価はあくまでもある前提に基づいた試算結果ですから、それが正しいか正しくないかという議論を始めると泥沼に嵌ってしまいます。そもそも同社の知財活動の目的を前述のように強調しているのだから、この部分はあくまで試算ということで「どうやって計算しているんだ」っていう挑発にはのらなくてもいいのでは、というのが率直な感想です。事業にどう貢献しているかという問いに対しては、④のような定性情報で説明するほうが個人的にはしっくりくるのですが、とはいっても組織の中ではやっぱり数字という議論は避けられないのでしょうね。
定量的な数値という点では、知財活動の目的として「人材育成・創意工夫の促進」という無形資産の蓄積に重点をおいた場合、出来上がった知的財産権の価値より、むしろ気になったのはそうした無形の資産の蓄積にどの程度のコストを投下しているか、というところです(資産価値のほうはどう計算しても‘試算’に過ぎませんので)。これは数字が開示されていないので、年間の出願件数などから推測するしかありませんが、同社の売上高に対して0.1%前後、今期の経常利益に対して1~2%とか、おそらくそんな水準ではないでしょうか。「人材育成・創意工夫の促進」という主な目的に照らして、これを多いとみるか少ないとみるか。
以上、あれこれと勝手な意見を書きましたが、‘サービス業の知的財産戦略’を考える貴重な実例ですので、今後もウォッチしていきたいと思います。
昨年からの違いで特に目に付いたのは以下の点です。
① 3p.に、経営戦略と知財戦略の関係をビジュアルに示す絵(図)が入った。
② 5p.の基本理念(2)の記述が厚くなった。
③ 16p.に、特許の価値の定量評価の評価手法の具体的な説明が追加された。
④ 16~17p.に、「知財の事業への活用事例」の項目が加わった。
⑤ 19p.に、「オープンイノベーションについて」の項目が加わった。
⑥ 「CSRの取り組み」の章が新設された。
このうち⑤と⑥は、ちょっと自分にはコメントするだけのバックグラウンドがないので、追加された、という指摘だけに止めておきます。時代のトレンドを考慮して追加したのかなぁ、なんて印象もありますが。
さて、昨年も注目したように、同社の知財活動の最大の特徴を表しているのは、①と②に関する部分であると思います。電力会社は製造業と違い‘商品’を売るわけではないので、知財活動の位置付けも当然に異なるものとなるはずです。ではどのように位置付けるか、という問題に対して解を見出しておらず(というかそもそも解はないと判断し)、特許を出願するにしても散発的に行っているサービス系の企業が多いのではないかと思いますが、同社はそこのところを、「現場も含めた創意工夫の促進⇒人材基盤の強化」が「サービスレベルの向上」に結びつく、という考え方のもとに明確な方針をもって取り組んでいることが読み取れます。この部分が製造業と全く異なるところで、それゆえにできるだけ多くの社員を知財活動に巻き込むことに力を入れ、その点においては数字にも明確な成果が表れている(発明者人口の増加、社内ホームページへのアクセス数など)ように見受けられます。
2009年版では、①に示したように、そのイメージがシンプルな絵で表現されました。以前に「それは、こちら側の仕事。」のエントリで、‘三位一体’がわかっていても実践できない理由の一つとして、「現場でリマインドができていない」ということを挙げましたが、知財活動の位置付けを難しい理屈ではなく、わかりやすい絵で表現することは、有効な解決策の一つではないかと思います。この絵はそういう役割を果たす意味があるのでは(だからいろんな場面で使っていったほうがよいのでは)、なんて思った次第です。
②の基本理念(2)では、同業他社に比べて多くの出願を行い、多くの社員を巻き込んでいる理由が、2008年版より詳しく説明してあります。これは知財活動の意義の根幹をなす部分なので、冒頭に丁寧に説明しておくことは重要でしょう。
以上の①、②からは、ぶれずにこの方針を推進する、という同社の姿勢がよく表れていると思います。
次に③の部分ですが、どうしても周囲の関心が数字で示される価値評価に向かいやすいため(特にマスメディア)、「どうやって計算しているんだ」という疑問に答えるために追記したのではないかと思います。しかし、知財価値の定量評価はあくまでもある前提に基づいた試算結果ですから、それが正しいか正しくないかという議論を始めると泥沼に嵌ってしまいます。そもそも同社の知財活動の目的を前述のように強調しているのだから、この部分はあくまで試算ということで「どうやって計算しているんだ」っていう挑発にはのらなくてもいいのでは、というのが率直な感想です。事業にどう貢献しているかという問いに対しては、④のような定性情報で説明するほうが個人的にはしっくりくるのですが、とはいっても組織の中ではやっぱり数字という議論は避けられないのでしょうね。
定量的な数値という点では、知財活動の目的として「人材育成・創意工夫の促進」という無形資産の蓄積に重点をおいた場合、出来上がった知的財産権の価値より、むしろ気になったのはそうした無形の資産の蓄積にどの程度のコストを投下しているか、というところです(資産価値のほうはどう計算しても‘試算’に過ぎませんので)。これは数字が開示されていないので、年間の出願件数などから推測するしかありませんが、同社の売上高に対して0.1%前後、今期の経常利益に対して1~2%とか、おそらくそんな水準ではないでしょうか。「人材育成・創意工夫の促進」という主な目的に照らして、これを多いとみるか少ないとみるか。
以上、あれこれと勝手な意見を書きましたが、‘サービス業の知的財産戦略’を考える貴重な実例ですので、今後もウォッチしていきたいと思います。