先週、田坂広志先生の「目に見えない資本主義」刊行記念講演会を聞いてきました。よくある普通の経済論・資本主義論とは一線を画した広い視点から、大変興味深い、腑に落ちる話を聞くことができましたが、そのキーメッセージが先日書いた「奇跡のリンゴ」と共通していることにちょっと驚きました。
現代の経済は、情報革命、規制緩和、グローバル化によって複雑系と化している。工学的に制御できる機械的システムに対して、複雑系は意図的に操作できない生命的システムであるが、人類は経済を機械的システムとして工学的に操作しようとしてしまった。しかしながら、経済は複雑化を増した生命的システムであり、これに適合しない操作的手法が今の経済危機を巻き起こしてしまった。今求められていることは、この‘操作主義’の呪縛から逃れることだ、ということだそうです。「奇跡のリンゴ」は、生命体であるリンゴの木を‘操作主義’で扱おうとしたことが誤りであり、複雑な生態系を生かしていくことが答えだった、というのが主題なので、ほとんど同じ話です。
考えてみれば、知財を巡る環境もどんどん複雑化しています。制度は複雑化し、特許権の数は増加して‘特許の藪’と化し、特許戦略は標準化戦略と絡み合い、オープンソースの支持者が反特許を主張し、流通・消費者のパワーが増して正当な権利行使が予期せぬ反発を招き、決定要因としてブランドの比重が増し、知的資産という概念が登場し、・・・複雑化の誘因は事欠きません。特許をとって事業を独占、という単純な構図であれば、それは機械的システムとして工学的手法(クレームの質を上げるとか、複数の特許で守るとか)で対応できるけど、多様な要因が絡み合って複雑系と化した事業は生命的システムであり、そもそも‘操作主義’では扱えない。そこのところが、いろいろ頑張っているのに成果が見えんのよー、という知財人の深い悩みの原因なのかもしれません。
では、どうしたらいいのか。田坂先生によると、全体を意図的に管理できない一方で、「個々の要素の挙動が全体を支配する」ことが複雑系の重要な特徴の1つだそうです。要するに、全体の動きを制御できない場合であっても、個々の行動規範がしっかりしていれば、結果として全体もよい方向に向かう。。複雑系を少しでもよい方向に持っていくには、そうした自己規律を高めていくしかない、ということだそうです。だから、経済で言えば、市場原理を超えた企業倫理が重要になるということ。リンゴに置き換えると、生態系を形成する虫や雑草も元気であることが、結局はリンゴを強くすることにも結び付くと言えそうです。
そうすると知財はどうか。個々の要素の行動規範と自己規律、知財活動での個々の要素といえば、知財に関わる個々人と、保有する個々の知財(権利)。これらの行動規範と自己規律を高めるってことは、何だかまだよくまとまっていないのですが、
①知財活動の目的や価値判断を知財に関わる個々人がしっかりと持つ
とか、
②個々の知財+知財権をそれぞれしっかりした意図をもって作っていく
とか。そんな感じでしょうか。‘操作主義’的な格好いい知財戦略に比べると、なんだか泥臭い現場の知財業務に戻ってくる感じですが、個々人の意識や個々の権利への意図という部分では進化しているのかもしれない。これも田坂先生によると、物事は螺旋階段を登るように進化し、進化の過程では懐かしいものが復活してくる、これは弁証法の重要な法則の一つだそうです。
注①)例えば、知財戦略コンサルティングシンポジウムや「ここがポイント!知財戦略コンサルティング」のはじめになどで提示させていただた、「知財のための知財活動」ではなく「経営課題に対する成果」を意識する、といった原則の共有を徹底する、といったイメージです。
注②)ある友人が「私の書く明細書に無駄な部分は1つもない」と語っていましたが、そういった姿勢が意図のある知財権を作っていくと思います。
現代の経済は、情報革命、規制緩和、グローバル化によって複雑系と化している。工学的に制御できる機械的システムに対して、複雑系は意図的に操作できない生命的システムであるが、人類は経済を機械的システムとして工学的に操作しようとしてしまった。しかしながら、経済は複雑化を増した生命的システムであり、これに適合しない操作的手法が今の経済危機を巻き起こしてしまった。今求められていることは、この‘操作主義’の呪縛から逃れることだ、ということだそうです。「奇跡のリンゴ」は、生命体であるリンゴの木を‘操作主義’で扱おうとしたことが誤りであり、複雑な生態系を生かしていくことが答えだった、というのが主題なので、ほとんど同じ話です。
考えてみれば、知財を巡る環境もどんどん複雑化しています。制度は複雑化し、特許権の数は増加して‘特許の藪’と化し、特許戦略は標準化戦略と絡み合い、オープンソースの支持者が反特許を主張し、流通・消費者のパワーが増して正当な権利行使が予期せぬ反発を招き、決定要因としてブランドの比重が増し、知的資産という概念が登場し、・・・複雑化の誘因は事欠きません。特許をとって事業を独占、という単純な構図であれば、それは機械的システムとして工学的手法(クレームの質を上げるとか、複数の特許で守るとか)で対応できるけど、多様な要因が絡み合って複雑系と化した事業は生命的システムであり、そもそも‘操作主義’では扱えない。そこのところが、いろいろ頑張っているのに成果が見えんのよー、という知財人の深い悩みの原因なのかもしれません。
では、どうしたらいいのか。田坂先生によると、全体を意図的に管理できない一方で、「個々の要素の挙動が全体を支配する」ことが複雑系の重要な特徴の1つだそうです。要するに、全体の動きを制御できない場合であっても、個々の行動規範がしっかりしていれば、結果として全体もよい方向に向かう。。複雑系を少しでもよい方向に持っていくには、そうした自己規律を高めていくしかない、ということだそうです。だから、経済で言えば、市場原理を超えた企業倫理が重要になるということ。リンゴに置き換えると、生態系を形成する虫や雑草も元気であることが、結局はリンゴを強くすることにも結び付くと言えそうです。
そうすると知財はどうか。個々の要素の行動規範と自己規律、知財活動での個々の要素といえば、知財に関わる個々人と、保有する個々の知財(権利)。これらの行動規範と自己規律を高めるってことは、何だかまだよくまとまっていないのですが、
①知財活動の目的や価値判断を知財に関わる個々人がしっかりと持つ
とか、
②個々の知財+知財権をそれぞれしっかりした意図をもって作っていく
とか。そんな感じでしょうか。‘操作主義’的な格好いい知財戦略に比べると、なんだか泥臭い現場の知財業務に戻ってくる感じですが、個々人の意識や個々の権利への意図という部分では進化しているのかもしれない。これも田坂先生によると、物事は螺旋階段を登るように進化し、進化の過程では懐かしいものが復活してくる、これは弁証法の重要な法則の一つだそうです。
注①)例えば、知財戦略コンサルティングシンポジウムや「ここがポイント!知財戦略コンサルティング」のはじめになどで提示させていただた、「知財のための知財活動」ではなく「経営課題に対する成果」を意識する、といった原則の共有を徹底する、といったイメージです。
注②)ある友人が「私の書く明細書に無駄な部分は1つもない」と語っていましたが、そういった姿勢が意図のある知財権を作っていくと思います。
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日常の知財業務にフォーカスして眺めると、次のサイトに記述したような事となると思います。
http://www.patentisland.com/memo225.html
産業全体における知財権と知的財産にフォーカスをして眺めると次のサイトに記述したようになると思います。
http://www.patentisland.com/memo169.html
さらに、生物進化の観点で知財を眺めると、特に請求項の特異で重要な位置づけがわかります。
http://www.patentisland.com/memo155.html
請求項のデータベースは、人類社会全体という生命体の遺伝子の役割を果たしえるものになってきています。