経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

シェアの高さと特許の関係をどのように考えればよいのか

2013-06-10 | 企業経営と知的財産
 ある製品で高い市場シェアを有している中小企業があり、その企業は積極的に特許を出願し、多くの特許権を保有している。
 さて、こういう中小企業に出会った場合、どのような見方をすればよいのでしょうか。経営者に、
 「特許権が競合に対する参入障壁となって、高いシェアを実現できている。やはり、特許は重要ですね」
と問いかけてみると、これを正面から否定されてしまうことは、まずないといってよいでしょう。
 しかし、これは知財屋にとって「こうあって欲しい」という願望が混じった‘トンカチにとって全ての問題は釘に見える’的な話で、そこが本質ではないことが多いのではないか。最近特に、その思いを強くするようになっています。

 高い市場シェアを実現している中小企業の経営者が、特許云々の前に異口同音に声を大にして仰ることは、
 「開発で先行することが大事
ということです。あたりまえのことですが、おそらくここに本質があり、特許による保護云々以前の問題として、常に開発で先行し、製品が優位であるからこそ、高い市場シェアを実現・維持することができているのです。そこを抜きにして考えることはできません。
 拙著(元気な中小企業はここが違う!)に紹介した例であれば、作業用・家庭用手袋で国内シェアトップのショーワグローブでは(11p.)、現場のニーズにあった新製品を次々と開発して差異化を図ることが競争力の本質。近年、知財権の取得に力を入れるようになったのは、外国メーカーのキャッチアップのスピードが上がってきており、製品の優位性を維持する時間が必要になっているため、とのお話を伺いました。プラスチック消しゴム、修正テープで‘消す’市場をリードしてきているシードでは、どんなヒット商品が生まれても、その商品を必要とする時代は変化していく。だから、常に時代の先を読み、新製品の開発に取り組み続けないと、企業は生き残っていけない、とのお話を伺いました(85-86p.)。
 最近訪問させいただいた企業では、水質の簡易分析製品で高い市場シェアを有するとともに、特許の取得にも継続的に取り組んできておられる共立理化学研究所・会長の岡内様にインタビューさせていただいた際にも、「とにかく開発。よい製品を作り続けることが大切」、と強調され、そもそも「特許だけに頼っているようではだめだ」とのお話がありました。

 だからといって、このように立派な実績を上げている企業が、意味もなく特許を取得しているはずもありません。では、特許はどういう役割を果たしていると考えればよいのでしょうか。
 拙著(元気な中小企業はここが違う!)にも、特許の取得を含めた知財マネジメントの多様なはたらきについて説明しましたが、おそらく競争力の本質となる「開発で先行すること」との関係でいえば、特許への取組みが開発力の強化にプラスになっている、と理解すればよいのでしょう。同じ開発活動を進めるのにも、特許への取組みを加えれば、先行技術の調査が必要になり、自社技術にしかない特徴=自社の強みを客観的に把握することができる。さらに、先行技術を調査するから、他社権利の侵害で開発が中断されるリスクが事前に低減され、開発活動が効率化される。また、先行技術そのものや先行技術との対比作業が、新しいアイデアを生むきっかけにもなる。さらに、特許を出願し、取得することが一つの目標、ベンチマークとなり、開発者のやる気を引き出す。特許が取れれば、新しさ・他社に先行したことの客観的な証明となり、会社は盛り上がるし、自信にもつながる。
 なにやらいいことばかりを書きましたが、そうしたメリットがデメリット(作業工数を取られる・お金がかかる)を上回っているから、特許への取組みが継続されているのでしょう。
 そうやって考えてみると、個々の特許の側に視点を置いて、価値がいくらだ、活用法はどうだ、といったアプローチではなく、どうやって開発力を高め、よい製品を生み続けていくか、そのために特許への取組みで何ができるか、と考えていくことが、特許への取組みを通じて強い中小企業になるための王道である、と言えるはずです。


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