経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

売れるか、知財戦略ファンド。

2006-11-12 | 知的財産と金融
 日経の記事から、「光る知財」なるファンドが発売されたのを見つけました。「知的財産戦略の視点を銘柄選択や企業分析に組み込んだ株式投信は類例が少なく」とのことですが、確かに他に例を聞いたことがありません。投資対象となるような大企業の知的財産戦略をどうやって分析するのか、現状では有価証券報告書のような開示資料が無いに等しいので、ボトムアップで分析するとたいへんなコストがかかって信託報酬が高額になってしまいそうです。ところが、信託報酬は約1.6%/年とのことなので、まあ株式投信としては普通の水準です。では、どうやって評価に織り込むのだろうか?、という気がしないでもありませんが。さて、どんな銘柄が組み入れ上位になるのでしょうか。

 いわゆる「知財ファイナンス」が普及するための課題について、「価値評価が難しい」の一言で済まされてしまうことが少なくありませんが、私は最も本質的なポイントは「知財に投資したいと思う投資家がどれだけ現れるか」ということにあると考えています。これまでの知財ファイナンスの実績を見ると、アニメや映画などを対象にしたファンドが多くなっていますが、これは投資家に「この作品は好きだから投資してみようかな」というイメージが湧きやすく、投資家を集めやすいことが大きな理由の一つになっているのではないでしょうか。理論上いくら優れた価値評価方法が開発されても、そもそもの投資対象がよくわからないものであるならば、投資したいと思う投資家を集めることができず、結局のところその金融商品の普及は難しくなってしまうのではないでしょうか。考えて見れば、株式の価値だって未だに正確な価値評価手法なんて誰にもわかりはしないのに、株式(企業)に投資したいと思う投資家がたくさん存在しているからこそ、株式を用いたファイナンスが成り立つのだと思います。
 そう考えてみると、このファンドが売れるかどうかということは、投資家の知財に対する興味、つまり知財ファイナンス普及の可能性を図る試金石の一つになるのかもしれません。


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4 コメント

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特許権の権利範囲のわかりにくさ (久野)
2006-11-14 06:41:32
確かに、権利範囲が理解できない知的財産権には投資しようとは思えないでしょう。判りやすい請求項の特許権は、権利行使においても、売却においても有利です。

しかし、不良品とも言えるような内容の特許権の権利行使に関する膨大な判例が産んだ権利解釈の手法の集積が、請求項を読んだだけでは権利範囲が確定できないという現在の特許システムを発生させています。

包袋書類の参酌の理論、均等論、間接侵害論、用語解釈に用いる共通辞書の不在、請求項における修辞関係のあいまい性などがわかりにくさとコストアップの原因です。

判りにくさの根本原因は、特許については、請求項を記述するための統一的な文法が不在であるということと、請求項での用語定義を与える概念辞書が不在であること、請求項と明細書の間のリンクを明示する方式が不在であるということだと思います。
これを、請求項記述言語の制定で解決しようと仲間と一緒に研究しています。

特許に関する判例研究や、法律解釈論の多くは特許制度のバグの根本解決策ではなく、バグのまわりに発生したあだ花のようなものだと思います。
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Unknown (土生)
2006-11-14 21:10:26
久野様
コメント有難うございます。
昨日の知財デューデリの記事も同じことで、知財リスクを調べようと思ったところで、関連しそうな特許を漏れなくピックアップできるのか、抵触の可能性を均等論等まで含めて判断できるのかなどを考えると、コストに見合った効果はとても期待できません。
「バグ」という表現はなるほどという感じで、特許紛争を見守っている一般のビジネスパーソンは、会社のコンピュータに障害が起きて業者が復旧させている間に「どうでもいいから早く直して仕事させてよ」とまたされているビジネスパーソンを髣髴させるものがあります。
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法律は社会システム層のプログラム (久野)
2006-11-15 02:07:04
法制度を情報システムの一種であると認識して眺めて見ますと、法律家が意識しない様々な問題点の指摘や改善策の提案ができると思います。
例えば、コンピュータプログラムとの対比で考えますと、コンピュータプログラムではコンパイラーまたはインタプリタがそれを解釈するために必要な厳密な文法が規定されていますが、法律の記述が従うべき厳密な文法がありません。その結果、例えば、法律のある条文が強行規定なのか、任意規定なのかを争うような学説や判決が色々と発生すると言う馬鹿馬鹿しいことも頻発してます。また、法律を構成する用語に関する統一的な概念辞書も解釈の共通基盤として必要なはずなのですが、それもありません。それが、法律の条文の意味を解釈する上での様々な学説を発生させたり、判決が色々とぶれる原因となっています。法律の条文を現実世界の事象にあてはめる事に大きなあいまい性や困難性があるのですから、せめて条文の意味解釈がぶれることだけでも防ぐ必要があると思います。法律のバグが、知財分野だけでなく、さまざまな分野における社会的コストの過剰の一因になっているように思います。
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Unknown (土生)
2006-11-15 22:30:57
久野様
示唆に富んだご意見、有難うございます。
法律一般にまで広げて考えた場合には、デジタルデータを扱うコンピュータと異なって扱う対象が社会現象という定型化や予測が不可能なものなので、条文の画一的な適用が却って根本規範に反することになってしまっても困るので、立法趣旨に従って条文を解釈する余地を残すことはやむを得ないことではないかと思います。
しかしながら、特許法は産業目的の特別法なので、その立法趣旨に鑑みると、ご指摘のように予測可能性を極力高めるような制度設計を行うべきでしょう。
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