経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

結局は売上

2012-03-21 | 企業経営と知的財産
 今年度も中小企業関連の事業にいろいろ携わらせていただたのですが、改めて感じたことは、特に規模が小さい企業であればあるほど、結局のところ、全ての課題は売上をいかにして作るかにつながっている、ということです。直接の売上につながる営業活動は勿論のこと、人の問題も、資金調達も、それをどうやって売上に結びつけることができるかが肝心なところです。(一部のバイオベンチャーを除きますが)どんな事業も売上がないことには始まらず、知財活動についても、どんなに洗練された特許ポートフォリオを作り上げたところで、売上が上がらなければ‘ネコに小判’となってしまいます。

 たとえば、こういう事例をどう考えるでしょうか。
 ある農家が、特殊な野菜の加工方法を発明した。そこですぐに「先行技術を調査して、特許を出願しましょう」と進めるのではなく、特許出願とノウハウ管理のメリットとデメリットをよく検討したところ、方法に関する発明なので秘匿しておけば模倣される可能性が低く、特許を取得しても侵害を検知するのが難しい。そこで敢えて特許を出願することは封印し、ノウハウ管理の手法をアドバイスした。
 単に特許の対象になるから出願しましょう、というのではなく、2つの選択肢をよく検討してアドバイスしている。だから、一歩進んだアドバイスという評価になるのでしょう。しかし、本当にそれで良かったのでしょうか。農家が新しい方法で加工した野菜で新事業を起こそうとする際に、その方法をブラックボックスにして、従来との違いがよくわからない方法で加工された野菜の販売をスムーズに進めることができるのでしょうか。単に当事者が「新しい」と言っているだけで、その「新しさ」に客観性がない商品に、どうやって注目を集めさせればよいのでしょうか。むしろこの状況ならば、特許取得により新しさを客観的に明らかにすることを優先し、消費者やパートナーに注目を浴びる可能性を追求していくべき、ということはないのでしょうか。特許を取得し、同業者に積極的にライセンスを進めることで市場の拡大を図っていかないと、一農家が抱え込んでもなかなか事業化は進まないのではないでしょうか。
 勿論、どちらがよいかはもっと多くの要素を検討すべきであり、結論はケースバイケース、一律に特許を出願すべきと結論付けることはできませんが、ここで大事なのは「技術をどうやって保護するか」という視点だけではなく、「売上を作るのにどちらが有効か」ということも考慮すべき、いやむしろ組織力が十分でない場合は後者を優先して考えるべきではないか、ということです。

 ある事業で行った中小企業向けのアンケートに、「知的財産権を取得してどのような効果があったか」という質問がありました。約1,000社から回答があったのですが、「模倣の抑止」「対競合の優位性」に効果があったと答えた企業の比率が企業の規模(従業員数)が多くなるほど高くなるのに対し、「取引先との交渉力」「販路開拓」「業務提携」「独自性のPR」に効果があったと答えた企業の比率は企業規模が小さくなるほど高くなる、という傾向が明らかになりました。つまり、規模が小さい企業にとっては、知財権によって他社を排除するということより、知財権によって信用を得たり、注目を浴びたりする効果のほうが、より重要であることが多い、ということです。どんなに知財をしっかりと保護したとしても、その知財が知られずに、世に出ることなく終わってしまっては元も子もありません。中小企業の中でも、特に規模の小さい企業をサポートする場合には、「売るための知財戦略」、業務提携の促進や顧客の注目を惹くことにターゲットを置いた戦略がより重要になるということです。今でも時々「活用(≒権利行使)できないような権利では意味がない」という言い方を耳にすることがありますが、それは「法律家にとって意味がない」のであって、会社にとっても意味がないとは限りません。今年度訪問したあるヒアリング先の企業では、特許でも、実用新案でも、それがあることによって相手が話を聞いてくれる、購入を検討してくれやすくなる、という話をしてくださいました。世の中の多くの購買担当者は、知財や法務を担当しているわけではないから、「審査請求は…」とか「実用新案は無審査登録主義だから…」とかいうことよりも、「テキトーな思い付きを売り込みにきたわけではなく、お金をかけて本気で作ってきた商品なんだな」という印象をもつことのほうが、おそらく多いわけです。くどいようですが、法律で物が売れるわけではなく、人の心が動くから物が売れるのです。初期の段階では、おそらくここが大事なポイントなんだと思います。
 そういう考えから、今年度ある事業で支援リーダーとして担当した案件では、「知財情報を活用して企業と製品の特徴を説明するプレゼン資料」と実際のプレゼンテーションをゴールとして取組み、本日委員会に最終報告をしてきました。売上に繋げるためにさらに必要な部分(プレゼンで出会った企業への提案書の作成etc.)など、いろいろ課題も明らかになりましたが、特に規模の小さい企業、スタートアップの企業には、知財情報を活かして企業と製品の特徴をPR、知財を核にした事業提携の提案、さらにはクロージング(共同事業・共同開発やライセンス契約etc.)といった、攻めの知財支援が有効なのではないか、次年度もその部分には力を入れていきたいと思っています。


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