経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

知財経営&知財コンサルティング

2007-02-10 | 知財発想法
 「知財の世界革命は起こっているのか?」の記事で、「特許戦略メモ」の久野様より「ビジュアル系」に関するご意見をいただきました。ちょっと論点がずれてしまうかもしれませんが、近年注目されている「知財経営」や「知財コンサルティング」について私見を述べてみたいと思います。
 
 「知財経営」というと、知財に関する定量化された数値を様々な経営指標と照らし合わせて、知財と経営の関係は斯く斯く然然だ、と論じられることが主流になっているのではないでしょうか。
 確かにこうした議論は「知財経営」というテーマに関する事項ではあるのですが、これは「経営の分析・研究」であって、実行を伴う「経営」そのものではありません。VC時代からベンチャー経営者のお手伝いをさせていただて感じることは、「経営」とは、もっと泥臭い工程を伴う実践性を要求される性質のものです。

 例えば、、、
 あるテレビ番組で楽天イーグルス・黒字化の秘密、みたいなことを取り上げていたときに、楽天の三木谷社長が「経営に魔法のような特効薬なんてないんですよ。どうしてこれまでは赤字だったのか。例えば、キャラクターのライセンスはどういう仕組みになっていて、その仕組みを変えることで収益を改善できないか。そういった改善し得るポイントを地道に潰していくことの積み重ねが、黒字という結果につながっていくんです。」というようなことを、仙台を走り回っている車の中で言っておられました。
 ある書物で京セラ創業者の稲盛氏は、「経費節減をするのに、ただ節約せよと言うだけでは効果は生じません。全ての工場・事業所の電気代、水道代などのリストを提出させて、問題のあるところには1件1件、私が『どうして高くなるのか』という理由を訊ねていきます。そうしないと、経費節減などできません。」というようなことを書いておられました。

 「ビジュアル系」的な知財の可視化・分析は、「知財経営」の入り口に過ぎません。問題は、描いた理想像に対して、現実のどの部分と差異があるのか、差異の原因は何なのか、理想に近付けようとする際にボトルネックになっているものは何なのか、そのボトルネックを解消する仕組みはあるのか、その仕組みに現場の人は共感してついてきてくれるのか、そういうことを現場の声を聞きながら詰めていかないと「知財経営」を実践することはできません。
 こういう言い方をすると、「だから知財ムラの人間は排他的だ」と攻められてしまうかもしれませんが、こうした「知財経営」を実践する工程を作っていく作業は、おそらく泥臭い現物を扱う作業(特許出願の工程や権利行使などの紛争etc.)の経験がないと、「ビジュアル系」専業では難しい部分が多いように思います。だから、現場で汗水垂らしている「知財のプロ」の中から、こういう工程も担っていくような人材が育っていくべきなのです。
 「知財コンサルティング」というと知財の可視化・分析工程をイメージされることが多いかもしれませんが、この工程はあくまで一部であって、たぶん「知財経営」の成否を決める「知財コンサルティング」とは、上記のような地道な改善作業をリードしていくことにあるのではないでしょうか。逆に、個々の出願案件の掘り起こし部分を「コンサルティング」と称していることもあるようですが、これは「コンサルティング」というよりは出願代理の前工程とでも言うべきものであって、「経営コンサルティング」としての「知財コンサルティング」とは分けて考えるべきものだと思います。