経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

‘身をもって’理解する

2010-01-07 | 知財発想法
 年頭にあたり、みたいなことを書こうとすると筆が進まなくなってしまいますが、年の初めには毎年あれこれ書いてきたようですので(2009,2008,2007)、最近よく考えることを2つほど書き記しておきたいと思います。

 その1。
 商品にしろサービスにしろ、質的向上に勤め、差異化を図るだけでは、経済価値には結びつかない
 要するに、いい物を作れば、腕を磨けば、だけでは足りないということ。質的優位も、適切なビジネスモデルに当てはめることによって、初めてそれが経済価値に結びつく。「オープンビジネスモデル」(ヘンリー・チェスブロウ著)の54p.に「テクノロジー自身に固有の価値はなく、市場に投入するビジネスモデルがその価値を決定する」とあるように、特に最近よく言われている話なので何を今さらという感じではありますが、それを意識して実践できるかというとなかなか難しく、日々の雑務に追われていると、かなり頭を使ったつもりでも質的な差異化を図ることのレベルに止まっていることが多い。しっかりと実績を出している経営者やプロフェショナルにお話を伺うと、そこを本当に意識して実践できているという点が、たぶん普通の人と大きく違う部分なんだろうと思います。
 「情報やノウハウの価値が理解されない(=カネを払ってくれない)」なんて嘆きを耳にすることがありますが、それはこの大事な原則がわかっていないことの証であり、価値を理解しない文化や社会が悪いのではなく、その質的に優れたはずの情報やノウハウの価値を具現化するビジネスモデルを持たない自らの問題である、と認識したほうがいい。「知的財産の重要性が理解されない」なんて嘆きについても、これまた価値が理解されていないのではなく、その質的に優れたはずの知的財産の価値を具現化するビジネスモデルを持たないから価値が顕在化していない(顕在化していないゆえに理解されるはずもない)のである。ビジネスモデルを構想することそのものは知財人のミッションを超えているということが多いでしょうが、少なくとも問題の所在をそのように認識しておくことで、様々な判断が違ってくるはずであると思います。
 その2。
 そのビジネスモデルについて、構想する力以上に重要なのが、ビジネスモデルの実行力、さらにはそれを支える精神力である。
 アイデアをあれこれ考えるだけであれば、意識さえしっかり持っていればさほど難しい話ではなく、ところがそれがなかなか結果に結びつかないのは、リアルワールドで行動する力、トラブルが生じても、結果が出なくてもメゲずにやり続ける精神力、そこが一番の原因であるように思います。身を張って起業しようと決意するような人であれば、何らかの構想、ビジネスモデルをもってスタートするのは当たりまえの話ですが、実際にスタートしてみると、現実に生じる諸問題をクリアしていくことが必要であり、実行力や精神力が構想力以上に結果を大きく左右しているように思います。
 これもまた、「指一本の執念が勝負を決める」などで言われている話ではありますが、こうした各所で語られているビジネスの成否を決めるポイントを、頭でわかったような気になることと、身をもって理解することは全然違う。ここが重要なところで、だからこそ‘経験’が意味を持つのであり、その経験を積むためにも、やはり実行力(+精神力)が問われるということです。ウォーレンバフェットの言によると「ほとんどの場合、人は行動が遅い」とのことで、さらに「バフェット・コード」の解説では、素早く行動するためには日頃からの(心も含めた)準備が大切である、と。
 その1、その2ともに、今さらそんなレベルの話かよ、って感もありますが、これを「身をもって理解した(つもりの)こと」として記しておきたいと思います。とりあえずはそんなところで。


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2 コメント

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差別化と回収 (かたやま)
2010-01-08 12:17:48
それって結局、収益=差別化×回収エンジンって話ですね。技術が差別化されていても、回収エンジンをしっかり構築しないとビジネスにならないってことです。当社は差別化されたサービス無料、商品販売で回収のモデルですね。これだと顧客を説得する(価値を分かって貰ってお金を払ってもらう)手間が省けます。
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Unknown (土生)
2010-01-08 22:06:21
そうなんです。この前、貴殿がそういう話をされていた後にいろいろな例を考えてみたんですが、差別化をちゃんとビジネスの形に結びつける会社(人)は、顧客にとって「いずれにしても必要な、それ自体は差別化されていない」商品やサービスを回収エンジンとして持っていて、折角だからおたくから購入してお付合いできれば、ってなっていることが多いですね。それがあれば「差別化されているものだから価値を認めて」といったかったるい「差別化の罠」に陥らなくて済むわけです。自分がVCのときにやっていたことも、考えてみればそういうモデルでした。いいヒントをいただき、感謝しています(といっても、私は貴社の商品の買い手にはなれませんが・・・)。
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