経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

周辺・拡張・新規

2008-01-25 | 知財業界
 ある本を読んでいて気になったことを一点。というか、前から引っ掛かっているのですが、弁理士業界では出願代理などの専権業務に対して、それ以外の業務のことを「周辺業務」とか「拡張業務」とか呼んでいることがあります。どうもこの「周辺」「拡張」という表現が引っ掛かるのです。
 「周辺」「拡張」というのはあくまで提供者側の視点から分類したものであって、サービスを受けるクライアントに「周辺」「拡張」であるかどうかは関係ないことです。で、クライアントの視点からみた場合に、提供者が「周辺」とか「拡張」とか位置付けているということが明らかだとすると、果たしてそこからどのような印象を受けるでしょうか。何か片手間でオマケっぽいというか、それが質の高いサービスで、ぜひとも提供を受けてみたい、というイメージには結び付きにくいように思います。あくまでも提供者側の整理のための分類とはいっても、その言葉が提供者の意識に影響を及ぼしてしまうおそれもあるのではないでしょうか。
 そういう意味では「新規業務」のほうがポジティブでよさそうですが、これも「新規」かどうかは提供者側の基準で判断されたものです。自分達には「新規」であっても周囲からみて「新規」でないものだと、言葉のもつインパクトが逆に作用してしまうおそれがあるのではないかと思います。
 要するに、「周辺」だ「拡張」だ「新規」だのといった基準で考えなくても、単にそれぞれの業務の内容をシンプルに表現すればよいのではないか、と思うのですが。これが他の業界であれば、きっと顧客が惹かれるような言葉(これからは「IT」でなく「ICT」だ、とか)を使って押してくるのでしょう。知財業界のオピニオンリーダーの某氏がポロッとおっしゃった「ニュー知財」が、個人的には結構受けたのですが(これも逆作用のおそれありか・・・)。

‘知財ビジネス’とは何か?

2007-12-12 | 知財業界
 知財コンサル、価値評価、知財ファイナンスなどなど…何やら中味のはっきりしない‘知財ビジネス’がいろいろ言われています。その定義云々はさておき、事業構造(特に収益構造)の点から整理して考えてみたいと思います。
 世にあるビジネスには、大きく分けて、
① 人間が働くビジネス
② お金が働くビジネス
③ 仕組が働くビジネス
の3種類があると思います。①がいわゆる労働集約型産業で、②は金融業(これも一種の仕組ですが)、その他の殆どを③として考えます。①は程度の差こそあれいくら働いてナンボのモデルであり(実績連動報酬という例外もありますが)、基本的にはレバレッジが効きません。②③は初期投資の負担が重くなりやすいですが、回りだすと大きな果実が期待できるモデルです。‘ビジネス’というものを狭義に捉えるならば、①はあくまで‘労働’であって‘ビジネス’にはあたらないのかもしれません。

 特許事務所のやっている代理人業務は、規模の大小に関わらず全体としてみると当然ながら①に属します。

 さて、期待の‘知財コンサルティング’ですが、ブライナベンチャー・ラボIPTJiPBなどが頑張っている分野です。事業構造としては、人間の働き方が違ってはくるものの、基本的に①であることに違いはありません。代理人業務との大きな違いとしては、「どちらが提案するか」という部分が全く逆になります。代理人業務はクライアント側(発明者)が「提案」したものをまとめることになりますが、コンサルの場合はコンサル側がクライアントに企画書(≒仮説)を提案します。そのため、前者はクライアントからの提案なので基本的には空振りがありませんが(出願取り止め云々は例外として)、後者は提案を受けてもらえず空振りということが多々あります。よって、提案にかかるコストを考えると前者より単価が高くないとペイしないのは当然です。要するに、両者は事業構造の基本は同質であるものの、前者はローリスク・ローリターン型、後者はハイリスク・ハイリターン型のモデルといえるでしょう。経営コンサルタントの人達の単価の高さという部分だけに目を奪われては、事実を見誤ってしまう可能性があると思います。また、単価が高いかどうかは、代理人業務かコンサルかという業務の種類によって決まるのではなく「需要と供給」によって決まる、つまり代理人業務であってもニーズの高い領域で質の高い仕事をすれば単価は高くなるでしょうし、コンサルであっても需給が悪ければ単価は下がるということだと思います。

 次に②ですが、知財ファンドの管理や運用は、残高の○%の管理報酬や値上がり分の×%の成功報酬という利益が得られというビジネスモデルになります。JDC信託iPBなんかが追求しているのがこのモデルと思われます。このモデルの成否は、第1段階では運用資産の残高がどれだけ積み上がるか、第2段階ではどれだけのリターンを実現できるるかにかかってきますが、第2段階が成功すれば第1段階の運用資産の募集も楽になるという好循環が期待できます。要するに、‘知財’に投資したい投資家をどれだけ掘り起こせるか、さらにどれだけパフォーマンスをあげられるかがこのモデルの成功の鍵です。

 続いて③ですが、商品やサービスを売る仕組みを作るということで、知財関連のツール販売や、人材や知的財産権のマッチングサービス、教育ビジネスなどが考えられます。ツールではコスモテックみたいにビジネスモデルを既に作り上げていると思われる企業もあります。マッチングビジネスでは、人材関連だとマーケット(知財人口)がそれほど大きくないので、ポテンシャルという意味では権利を対象にするほうが大きそうで、IPTJが代表プレイヤーといったところでしょうか。教育ビジネスでは今はLECが代表プレイヤーなのでしょうか(代々木塾はビジネスとしてやっているという感じではありませんし)。この領域での成否は、まさにビジネスセンス次第ですね。

 最後にもう一つ話題の‘価値評価’ですが、②のイメージが強いかもしれませんが、事業モデルとしては①(評価業務への報酬)か③(評価ツールの販売)になることが多いと思います。本当に資金を投じてリスクをとるに足る評価であれば、評価に基づいて実際に投資するという②のモデルにしてしまうことも可能でしょうが。

 以上、あくまで主観に基づく分類ですので、例示した企業の方が「うちは違う」ということがありましたら、たいへん申し訳ありません。非公式の個人的な見方ということでお許しいただければと思います。

情報発信

2007-12-06 | 知財業界
 先日の弁理士会の知財コンサルティングに関する会員研修に、コンサルティングファームから参加いただいたパネリストの方が、コンサルティングビジネスの顧客獲得には「情報発信」が重要である、と指摘されていました。
 情報発信というと、我々の業界では、やれ法改正がどうした判例がどうしたといった専門知識に関するものがほとんどです。同業者間での情報収集としては有難いものですが、こういった情報発信で果たして顧客に訴求することができるのでしょうか。田坂広志氏の「これから何が起こるのか」では、顧客が専門家に真に求めているものは「知識」ではなく「智恵」である、と説明されていますが、顧客に訴求する情報提供とは、顧客の悩みに役立つ「智恵」に関するものだと思います。例えば、
■単に独占権云々の原則論ではなく、特許の経営への実質的な効果をどのように考えればいいのか?
■特許出願への協力を仰ぐために忙しい発明者をどうやって動機付ければいいのか?
■研究・事業・知財の三位一体は「べき」論としてはわかるけど、実際どういう仕組みにすれば一体になっていくのか?
といった顧客の悩みに対して、説得力のある仮説を提示することができないか。それも、どこかからもってきたもっともらしい言葉を躍らせたものではなく、自ら考え抜いたことを自分の言葉で綴ったものとして。なかなか見かけることがないですが、これをやっていかないと知財コンサルティングを実践する場はなかなかめぐってこないと思います。

これから何が起こるのか

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知財コンサルタントと情報系コンサルタント

2007-12-01 | 知財業界
 昨日は弁理士会の知財コンサルティングに関する会員研修に、パネリストとして参加させていただきました。
 知財コンサルティングという業務に明確な定義があるわけではないので、様々なコンサルティングがあってよいのだと思いますが、私の中でのイメージはかなり固まっています。以前に「知財インテグレーター」で書きましたが、10~20年前に情報システムのコンサルタントが登場した背景によく似ていると思います。
 コンピュータはただ導入すればよいというものではないのと同様に、知的財産権もただ権利を得ればよいというものではありません。企業活動にできるだけよい環境を整えるために、「コンピュータ」、「知的財産権」という道具をどのように用いるのが最も効率的か。経営者や事業の担当者の意図をしっかりと汲みとって、最適の設計を行って実務家に引き渡すというのが、コンサルタントの果たすべき役割ではないかと思います。コンピュータが経営に不可欠のツールとなったのには、この役割を果たした情報系コンサルタントの役割が非常に大きいと思います。知財業界も同様で、今は大企業であれば知財部がその役割を担ってますが、大企業に対してはそのアドバイザーとして、中小・ベンチャー企業に対しては知財部に代わる役割を果たすべく、コンサルタントの活躍する余地があるのではないかと思います。

知財コンサルと現状認識

2007-11-08 | 知財業界
 本日は、11月30日に予定されている弁理士会の知財コンサルティング研修の講師打合せ、その後は弁理士会の知財コンサルティング委員会、とコンサルティングについての議論漬けの一日でした。議論している時間があったら体動かせ、というご意見が聞こえてきそうですが・・・至極ごもっともです。

 個人的に思うのは、コンサルティングの方法論やスキルなどをあれこれ議論する前に、「現状認識」をしっかりさせておくことが重要なのではないか、ということです。知財実務をベースにした日頃の取り組みから、どういった問題点を感じているのか。それに対して「こうやってみたら解決できるのではないか?」という方法が考えられないか。「コンサルティング」という言葉に踊らされるのではなく、自分自身が感じている現状認識を出発点にしないと、何をやるべきかということは見えてこないし、机上の空論に終わってしまうのではないかと思います。

‘三位一体’は脱・パック旅行から

2007-11-02 | 知財業界
 知財業界でいろんな仕事を経験していると、その中で会う人の数も年々増えていくわけですが、人脈や経験という観点からみると、年数を重ねるに従ってタテ方向への深まりはあるものの、ヨコ方向への広がりが起こりにくい、ということを感じます。

 海外旅行に行って得られる経験や感じとれるものは、一緒に行く人数の分だけ割り算した量になる、という話を聞いたことがあります。1人であれば100感じとれるものが、2人なら50、5人なら20になってしまうということです。勿論、パック旅行であっても、美しい景色を見たりその場所についての知識が広がったりはするので、エンターテイメントとしてはそれで十分に楽しめるのだと思いますが、異文化から何かを得ようと思うならば、ある種の経験や感覚というものは1人でないと得られない部分があると思います。

 知財業界の仕事、殊に事務所側の仕事を続けていると、外に出るよう努めていてもどうしてもパック旅行化が起こりやすく、センサーの進化を妨げてしまいやすいのではないかと思います。‘三位一体’(事業戦略・研究開発戦略・知財戦略の三位一体)を実践するには、まずは他部門の意図をセンサーでしっかり感じ取るところから。というわけで、バックパッカー魂を思い出さなければいけないな、と思う次第です。

流行はやっぱり不動産?

2007-09-27 | 知財業界
 昨日の日経金融新聞の記事ですが、知財人にはあまり馴染みのない「不動産鑑定士」が大人気らしいです。公示地価の鑑定などの従来業務以外に、不動産ファンド関連の業務が急増する一方、2004年の制度改正後も最終合格率は2%程度の狭き門で、需給がどんどんタイトになっているとのことで、○○士とは随分状況は異なっているようです(これからは「不動産」より「知財」の時代、とかよく言われてたような気がするのですが・・・)。
 需要が増えている要因は、REITなどの不動産ファンドの増加によって、物件取得時の鑑定評価、ファンドの決算期毎の保有不動産の評価が増加しているとのことです。特に後者はストック型で需要が増えていくので、安定収益として効いてくるそうです。となると、○○士も、これからは証券化・価値評価に期待、ということになるのでしょうか。
 福田新首相の答弁風にいうと、
「特許や商標は不動産のように流動性が高まっていますか?高まっていませんね。」
「評価の開示が必要な投資家が増えていますか?増えていませんね。」
 実は、不動産鑑定の業界でも、ファンド関連の売上は全体の1割にも満たないそうです。J-REITだけでも5兆円規模の市場がある業界でこれですから、流動性が極めて低く、投資適格性にも多くの難がある知財について、同じような期待は残念ながら考えにくそうですね。

固有の現状認識

2007-09-20 | 知財業界
 また政治ネタからですが、このコラムがなかなか興味深いです。知財業界に置き換えながら考えてみると、読めば読むほど奥の深い文章です。特に目を惹いたのが、

言葉がいくら軽くても、その言葉の後ろに透徹した現状認識があれば、その言葉は強いものになる。逆に言えば、その人固有の現状認識なくして、人に届く言葉が発せられるわけがない
現実を見ること。これがいかに難しいかを、つくづく思う。
人は「私はこうしたい」という思い、「事態がこうあってほしい」という願いで目を曇らせてしまう

という部分です。
 去年くらいから知財ブームも随分しぼんできた感じがしますが、知財業界から発せられるメッセージには、この「固有の現状認識」の部分が欠けていることが多いのではないかと思います。セミナーでも雑誌の記事でも、「知的財産が重視される時代となった」「これからの企業には知的財産が重要である」とお題目のように繰返されるものの、そこにはなぜそう考えるのかという部分について、その人固有の強いメッセージが読み取れることが少ないように感じられます。現状認識が明確でないから、そこからは話し手側のやりたいことに従って論理が展開されてしまい、「私はこれができる、これがしたい」というメッセージが主になって「こういう現状に、こう向き合うべき」という主張が弱くなってしまう。だから「人に届く言葉」にならず、多くのビジネスマンから「知財のセミナーや本は何かつまらない」という評価を受けてしまうのではないでしょうか。

 もうちょっと見ていくと、

政治における「民意」と、ビジネスにおける「消費者の意向」とは、政治家や企業を同じ「ドツボ」にはまらせる。勝手に慮った相手の意向に自ら振りまわされるドツボだ。

というのも、昨今の「ニュー知財」的な流れの一部に見られるような気がします。「産学連携」「価値評価」「証券化」なんかは、このパターンの典型例ということはないでしょうか・・・

 ブームが収まった今は、本質的な問いと向き合い、固有の現状認識を確かにする丁度よい機会なのではないかと思います。

地域知財戦略支援人材育成事業

2007-09-11 | 知財業界
 まだあまり知られていないかもしれませんが、今年度から「地域知財戦略支援人材育成事業」というプロジェクトが全国各地で始まっています。私も少しばかりお手伝いをさせていただく部分があるのですが、ちょっと面白い取り組みだと思います。
 政府の支援事業というと、ドカンと予算だけつけたり、きれいな絵を描いて器を作って終わり、といったものが多い中で、このプロジェクトは「実行過程を経験することで人材を育てる」というちょっと切り口の違ったものです。期間などの制約もあって、本当に潜り込む世界にまでは簡単には到達できないでしょうが、ハード(制度)ではなくソフト(人材)に手を入れようとしている部分が、今までとはちょっと違う感じです。
 第3次ベンチャーブームの頃には、国だけでなく各自治体が競ってベンチャー支援の機関や制度を作っていましたが、今はどうなってしまったのやらよくわからないものがほとんどです。ベンチャーの世界の活性化は、機関や制度ではなく、汗をかくベンチャーキャピタリストの層や資質にかかっている部分が大です。知財業界の活性化も同じで、機関や制度より「(理屈を言うだけでなく)汗をかく人」の層と資質がキーになってくるのだと思います。
 とかなんとかエラそうなこと言ってるよりも、まずは自分がちゃんと汗をかかなければ。

熱いコラム

2007-09-03 | 知財業界
 ベンチャーや大学支援で著名な的場弁理士のコラム熱いです。本質的な問題に正面から向き合い、行動する弁理士の想いがヒシヒシと伝わってきます。

 「自治体などが企画する知財関連の『無料セミナー』には、断固反対している」とは少々大胆ですが、私もこの意見には賛成です。知的財産権は事業を進める上でのオプションの一つであり、権利を取得するオプションを選択した場合には、その果実は権利者のものになります。お金の有無に関わらず守られなければならない基本的人権や、国民の義務である納税なんかとは明らかに性質の違う「経済的なオプション」であり、法律相談や税務相談などが無料で提供されているからといって、知財も同じということにはならないように思います。そのあたりを誤解してしまうおそれもあり、事業者にとってもむしろ負の側面すらあるのではないでしょうか。ついでに言うと、「知財重視」ということで子供や学生に知的財産権を教えよう、といった動きも活発化していますが、これも知的財産権が「経済的なオプション」であることを考えると、本質や基本的なルールをちゃんと学ぶ前にオプションを教えるというのは果たしていかがなものだろうか、という気がします。社会を知り、このオプションを使ってみたいと思ってからでも全く遅くない(というか、動機付けが明確になってしっかり吸収できる)ように思いますが。

 まぁこういうことをあまり書くと、巡業をサボった横綱のように批判されてしまいかねませんので、このあたりで止めておきます。