赤い彷徨 part II

★★★★☆★☆★★☆
こんにちは、アジア王者です。↑お星さまが増えました。

【本】「空気のつくり方」(池田純・著)

2017-11-24 00:18:09 | エンタメ・書籍所感
今季ポストシーズンでの躍進も記憶に新しいNPBの横浜DeNAベイスターズですが、2011年から15年にかけ観客動員が110万人から181万人に、売上高が51億円から93億円まで大きく成長したことに象徴されるように、ここ数年で一躍人気球団として台頭してきた印象があります。本作はまさにその球団にとっての「高度成長」ともいえる時期に同球団の経営トップを務めた池田純さんの著作(16年7月上梓)です。表題の「空気のつくり方」について、本作では「企業を、商品を、自身の成し遂げた仕事を、世の中に『成功』と認識してもらうための秘訣」と定義づけていますが、ベイスターズを経営していた時の具体的なエピソードも交えながら、どのように「空気」をつくることにより、結果としてチームが低迷している中でも観衆を増やし、グッズの売り上げを伸ばし、やがてチームを強化し、そして困難と言われた本拠地ハマスタのTOB(本拠地のスタジアムを買収し、チームと、そしてハコとしてのスタジアムを一体的に経営を可能とした)を実現していったかについて、経営者としての「あるべき論」の持論やマーケティングの方策も含めて文字に落としてくれています。私はとあるPR専門家の方に勧められて読んだのですが、一職業人としては勿論のこと、私の場合は一浦和レッズファンとしてチームの運営について(勝手に(笑))考える上での一定の指針を得られたように思います。

そして筆者はいわゆるB to C(対消費者)商品のマーケティングについて、「万人共通の定義はない」とした上で本書では10のプロセスを提示しています。詳細はネタバレなので控えますが、必要なデータを各種ツールを活用して収集し、自社の組織/市場/顧客について分析を行い、戦略ターゲットを決める。そしてそのターゲットが「実は」求めていた商品を想像し、その商品と顧客がリンクする「ストーリー」を創造する。そのストーリーが伝わる広告及びPRを創造する。そして商品を通して自社まで魅力的に映るようなブランディング戦略を行うといったものです。この「ストーリー」づくりというのは不肖私ごときが仕事をする上でも常に心がけていることであったりすることからもわかるとおり、こうして文字に落とすとさほど目新しいことでもないのかもしれません。ただ、これら10のプロセスは筆者の中ではいずれも重要で優劣はなく、1つでも欠けると全体最適に至らないといいます。本書では、まずこの10のプロセスを提示した上で、ではベイスターズを押し上げるためにそれぞれのプロセスにおいて何をしたのか、より具体的な取組みも描かれており、そのあたりはなかなか興味深いものでした。

実のところ本書では、マーケティングにしても、商品開発にしても何にしても、終始「最後にモノを言うのはセンスだ」としています。正直なところ私は「その一言で片付けられたらたまらねーなー」と思いながら読み進めていたのですが、筆者は終盤でその私の疑問に対して一定程度の回答をくれています。曰く「センスは後天的に身につけられる」ものである。そしてそれを磨くにはどうしたらよいかと言うと、様々な仕事の「経験の中で得た気づきは無意識のうちに脳のどこかに蓄積されていく」。それによりセンスを培うことが可能であり、そしてそれらが瞬間瞬間に引き出しから出てくるといったイメージのようです。一見すると直観やひらめきのように見えるものであっても、それは過去の経験からしみ出すように直観的に表れてくるのだというようなことなのだと思います。更に、とにかく何でもかんでもいろいろな「かっこいい」「かわいい」と言われるものに興味を持って触れてみることで、その世界で「かっこいい」「かわいい」などと思われるものは果たして何か、そう思わせる要素なのか、そうしたことを感じ取る経験と訓練を積み上げることでもセンスを養うことが可能だ、というのが筆者の見解のようです。

経営のあり方、経営者かくあるべしという点についてもご自身の考えを述べておられますが、そのあたりは十人十色だと私には思われ、そもそも私がこの本を読んだ目的は「空気のつくり方」の部分で何か得るものがあるのではないか、というもの何か得るものがあるのではないかと思ったからなので、ここでは割愛させていただきます。なお、筆者の池田さんは商社や広告マンなどを経てDeNAに入社され、その関係でベイスターズの経営を任されたそうですが、その筆者が在任時に横浜の経済界の重鎮(それがどなたなのかも興味深いところです)から「人間の心の本質、性が描かれている」ということで、夏目漱石の「こころ」を読むよう勧められたとのこと。実は私の学生時代に一番印象に残った授業のひとつが、漱石作品を読んで分析する故・江藤淳先生のものだったこともあり、これを縁にまた「こころ」その他の漱石作品をを実家の本棚から引っ張り出して再読してみたいと思いを新たにしました。

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