赤い彷徨 part II

★★★★☆★☆★★☆
こんにちは、アジア王者です。↑お星さまが増えました。

【本】「人間通」(矢沢永一・著)

2018-01-14 21:50:21 | エンタメ・書籍所感
端的に言えば、文字どおり「人間(主に日本人)とは何か」をテーマにした辛口コラム集、といったところになりましょうか。表題の「人間通」はその最初のコラムですが、この「人間通」の定義については「他人の気持ちを的確に理解できる人」としています。筆者は故人で、wikiによれば関西大学で学長も経験した名誉教授を務めた方で、「文芸評論家」や「書誌学者」と位置づけられています。先日亡くなられた渡部昇一さんと交友が深く、共著も複数出されているようで、いわゆる当世流の「保守」論客ということになるのでしょう。筆者は「後記」において、この平成の世(本書は08年5月発行)に、我が国で、自分の素質を有効に活用し、悔いのない人生を送るためには、どういう風に意を用いたらよいか、それをいろいろと考えてみようというのが本書の試み」であるとし、「この本に書いた事項はすべて私の遅すぎた納得事項ばかり」で「それを早い目に読者へ伝えたい」と述べています。

本作では

・人間が絶対に矯正できない悪徳がケチと臆病である」、「『親友』とは絶えざる気働き心尽くしの結果である
・「可愛気」に代る長所は考えられない
・人間とは常に他の誰かよりも先んじようとし、そして死ぬまで自己及び自己の業績に対する承認欲求を求め続ける
・人間の織り成す歴史は要するに評判の積み重ねである
・羨望こそ人間が人間に関心を抱くためのもうけられている唯一の水路である
・人間性の究極の本質は嫉妬である
・多少とも世に顕れるほどの者は、嫉妬の矢が全身に突き刺さると覚悟しなければならない
・(組織内で)「聞いていない」と言い始める人が必ず出てくるので『根回し』が必要

などなど、割りと身も蓋もない(笑)ものも含めて数々の指摘が、「人と人」、「組織と人」、「言葉と人」、「本と人」、「国家と人」といったカテゴリーにおいて滔々と紡がれています。こうした著者の指摘自体は個人的には頷けるものも多く、一方で全ての日本人に当てはまるとまでは言えないだろう、と感じられるものも少なからず、いわば「まだら模様」なわけですが、従って、読者各人が納得できる指摘をピックアップして自分の戒めにしていく、というのがあるべき読み方のように思えます。

ちなみに筆者は本書において「これからは政治家も経営者も藝能人も、およそ世に顕れる程の人は、性的奔放に対する集中砲火を避け得ないであろう」と指摘していますが、昨今の一連の「ゲス不倫」騒動にかんがみれば、誠にお見事な予言であると思えます(とはいえ、08年時点ならあながち予期できないことでもなかったかな)。ただ個人的には、SNSの台頭により誰もが手軽に公の場で全世界に向けて発言したり情報を発信できるようになった今日にから見てみれば、08年の時点で「(自己)承認欲求」という言葉で人間のひとつのあり様を表現しておられた点は誠にお見事という他ない、と感じます。

なお、巻末の「人間通になるための百冊」にもなかなか面白そうな本がいくつかありましたが、絶版になってるっぽいものもありどうしたものかなと。

最新の画像もっと見る

post a comment