陸に上がったカッパの海無し県生活

潜りから漁師へ。身体を壊し船を下りた。
海の話、釣りの話。脳脊髄液減少症。

限りなく透明に近いブルー 2

2006-08-09 00:17:39 | 海の話
仕事自体は、さほど難しい仕事ではありませんでした。
水深50mまで潜るという事を除けば。
ま、鮫のことは考えないようにして(ホントはチビルほど怖かったけど)と。
観光スポットなどの餌付けされた鮫では無いし、
凶暴な鮫の仲間であることは、間違いありませんでした。
しかし、数週間の航海の果て、鮫が怖くて潜れないとも言えません。
僕が潜らなければ、帰る事も出来ないのです。

意を決してブイの上から飛び込みましたが、
そこには恐ろしいほどの潮の流れと、ウネリが待っていました。
潮上に顔を向けるとマスクは飛びそうになるし、
レギュレターのパージボタンが潮で押されてエアが勝手にブローしてしまうほどでした。
手に握ったロープを一瞬でも離そうものなら太平洋の遥か彼方に流されていった
事でしょう。

一回目の潜水は写真撮影だけです。
何とか、ブイの下の機械を幾つか撮影し、いよいよ50mの深さまで潜っていきました。
ブイの少し下まで潜ると、
その周りには大型のマグロ、カツオ、サワラ、ヒラアジ、カンパチ、
その他、様々な回遊魚がロープの周りをグルグル回遊しています。
鮫は水面に近い場所を回遊していました。
一瞬で通り過ぎるものではなく、いつまでもロープの周りを回遊しているので、
それはそれは圧巻でした。
何も無い太平洋の、ど真ん中、たった一本のロープが入っているだけで、
そこは自然の漁礁になります。

下を向いた時、僕は、それまでに経験した事の無い青さを感じました。
地球上で、こんな色が、こんな青さがあったのかと思いました。
見えるものは遥か海底に続く一本のロープだけです。
水は、一点の濁りも、ほんの少しの浮遊物もありません。
ここは海でもない、宇宙でもない、空でもない、丸で、異次元の空間を浮遊しているようでした。
地球の奥深くまで吸い込まれていくような錯覚さえおきました。
この時の透明度(船の上から直径30cmの白い円板を下ろし目視出来る水深)は
恐らく地球上の全ての海の中でも最高レベルの透明度ではと思っています。

実はこの時、前日良く眠れなかった事もあり、40m付近で窒素酔いになりました。
通常のボンベには圧縮空気が詰め込まれています。
空気中の窒素が血液に溶け込み、深場に潜っていくと、
酒に酔ったようになることがあります。
早い人ならば30mくらい潜ると窒素酔いの症状が現れることもあります。
(ある程度の慣れもありますが)
時には、これが、命取りにも繋がる事故になる事も有ります。
思考能力が落ち、簡単な作業が出来なくなったり、判断ミスを呼んだり。

50mまで到達、素早く写真を撮り浮上していきます。
無減圧で滞在出来る時間は5分だけです。
50mという水深は通常の圧縮空気で潜れる限界点と言ってもいい深さでしょう。
その深さから水面を見上げても、ブイや船、
そして魚の姿を一匹ずつ捉える事が出来ました。
そして水面の上の空の青さを感じませんでした。
明るい白に感じました。

この時の海の青さは、空の青さを忘れてしまうほどの、強烈な青でした。
一回目の潜水を無事に終え、ブイの上に上がり、
作業船の準備が整うのを待ちます。

 
続く・・・