トラッシュボックス

日々の思いをたまに綴るブログ。

「おつかいもの」って、使います?

2007-04-24 00:01:57 | マスコミ
 4月21日付けの『朝日新聞』の「声」欄(投書欄)に、「すたれないで 美しい日本語」と題する京都市在住の60歳の主婦の投書が載っている。
 書店で店員に「おつかい物にしたいので、図書カードを二つお願いします」と言ったところ、意味がわからないと言われたので、「人さまに差し上げたいのですが」と言ったところ、「それならプレゼントですね」と言われ、「ええ、そうそう、プレゼント、ギフトです」と、ようやく意味が通じたとのこと。

《この女性はどんな環境で育ったのだろうか―と思ったが、「いや、いや、この国の閣僚の方々もやたらと横文字をお使いだ」と思い直した。》 

 私も、「おつかい物」という言葉は知らなかった。
 Googleで、「おつかい物」で検索してみると、1310件がヒットした。
 「おつかいもの」で検索してみると、38200件。
 「お遣い物」では、30900件。
 「お使い物」では、109000件。
 結構広く使われている言葉らしい。
 しかし、私はン十年生きてきたが、聞いたことがない。
 私は、「どんな環境で育ったのだろうか」と思わせるほど異常な環境で育った覚えはないのだが。

 妻に聞くと、「お持たせ物」のことをそう言うのではないかと思うが、あまり聞かない言葉だという。
 しかし、調べてみると、「お持たせ物」は持参する手土産のことを言うそうだから、ちょっとニュアンスが違うような気もする。

 あるサイトによると、「東京ではよく耳にする言葉」だそうだが、この情報もこのサイトでしか見つからなかったので、地域的にどうなのかよくわからない。
 『東京おつかいもの手帖』という本が2005年、『京阪神おつかいもの手帖』という本が2007年に出ている。Amazonで「おつかいもの」で検索すると、2004年に出た本が最新だ(「お遣い物」「お使い物」「おつかい物」ではヒットしない)。もしかすると、比較的最近になって、はやりだした言葉なのかもしれない。

 ところで、投稿者の文はこう続く。

《そういえば、最近は「全然大丈夫です」とか「すごいうれしいです」など、全然文法になっておらず、すごく気になる言葉が、電波を通じて流されている。》

 「全然」は、下に打ち消しの言葉を伴って「全然・・・ない」のように用いるのが正しい用法だと思っておられるようだ。
 たしかに、近年はそういう用法をよく見るが、元々は必ずしもそのように用いられていたわけではない。
 『大辞林』が提供している「goo辞書」によると、「ぜんぜん 【全然】」の項にはこうある。


《一(副)
(1)(打ち消し、または「だめ」のような否定的な語を下に伴って)一つ残らず。あらゆる点で。まるきり。全く。
「雪は―残っていない」「金は―ない」「―だめだ」
(2)あますところなく。ことごとく。全く。
「一体生徒が―悪るいです/坊っちゃん(漱石)」「母は―同意して/何処へ(白鳥)」
(3)〔話し言葉での俗な言い方〕非常に。とても。
「―いい」

二(ト/タル)[文]形動タリ
すべてにわたってそうであるさま。
「実に―たる改革を宣告せり/求安録(鑑三)」》


 大辞林は副詞としての意味を(1)~(3)に分けているが、これらは結局「全く」の意味で同じものだろう。敢えて分ける必要があるのだろうか。
 「全然大丈夫です」は文法的に「全然大丈夫」だ。

 「全然」が否定的な語を伴うものとして認知されていることへの違和感は、高島俊男が「お言葉ですが・・・」で取り上げていたように思う。私も昔の小説で、肯定的な用例をいくつか見た覚えがある。
 「おつかい物」を知らないだけで「どんな環境で育ったのだろうか」と疑いつつ、「全然」の用法は自らの感覚を信じて疑わない、そんな人間が、美しい日本語がすたれると嘆いている。そしてそれを掲載する朝日。朝日が掲載したことにより、「全然」を肯定的ニュアンスで用いるのは誤用であるとの認識がさらに広まることだろう。
 どちらが、日本語の破壊者だろうか。