旧愚だくさんブログ

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「村の女は眠れない」

2013年02月05日 | 本と雑誌

昔、新聞第一面の下段(広告枠)に、こんな写真集の広告が頻繁に出ていたのをご記憶だろうか。

「村の女は眠れない」

ネットなど未普及、AVどころかビニ本が究極のエロだった時代の写真集だったと思う。
まー、子供ながらにも
「オトナのお楽しみ本」
だと想像がつき、そしてまた村の女とエロの結びつきに違和感を覚え、しかし
「この違和感がオトナには良いのだろう」
ってところまで想像していた。 ←マセガキ

・・・で、何故か今、そう、たった今、その「村の女は眠れない」が頭に浮かんだ。
「あの写真集、まだ出版されてるんかいな?」
とネットで検索したら、この詩がヒットした。


村の女は眠れない

草野比佐男

 

女は腰を夫に預けて眠る
女は乳房を夫に預けて眠る
女は腰を夫にだかせて眠る
女は夫がそばにいることで安心して眠る

夫に腰をとられないと女は眠れない
夫に乳房をゆだねないと女は眠れない
夫に腰をもまれないと女は眠れない
夫のぬくもりにつつまれないと女は眠れない

村の女は眠れない
どんなに腕をのばしても夫に届かない
どんなに乳房が熱くみのっても夫に示かせない
どんなに腰を悶えさせても夫は応じない
夫が遠い飯場にいる女は眠れない

村の女は眠れない
眠れない夜ごとの夫への思いはつきない
沼のほとりの乾草小屋への記憶が遡って眠れない
あぐらの中に抱いて髪につく草くずを拾ってくれたぶきようで優しい指はここにはない
村の女は眠れない ひとりの夜は寒い

村の女は眠れない
納戸を内側から錠をおろしても眠れない
だれの侵入を防ぐのでもない
熟れきったからだが戸を蹴破ってふぶきの外にとびだすのをおそれて眠れない
眠れない女を眠らす方法は一つしかない
ぴったりとからだを押しつけて腕を乳房を腰を愛して安心させてやるほかはない
そうしないかぎり女は眠れない
村の女は眠れない

村の夫たちよ 帰ってこい
それぞれの飯場を棄ててまっしぐらに眠れない女を眠らすために帰ってこい
横柄な現場のボスに洟ひっかけて出稼ぎはよしたと宣言してこい
男にとって大切なのは稼いで金を送ることではない

女の夫たちよ 帰ってこい
一人のこらず帰ってこい
女が眠れない理由のみなもとを考えるために帰ってこい
女が眠れない高度経済成長の構造を知るために帰ってこい

帰ってこい 自分も眠るために帰ってこい
税金の督促状や農機具の領収書で目貼りした納戸で腹をすかしながら眠るために帰ってこい
胃の腑に怒りを装填するために帰ってこい
装填した怒りに眠れない女の火を移して気にくわない一切を吹っとばすために帰ってこい
女といっしょに満腹して眠れる日をとりもどすために帰ってこい
たたかうために帰ってこい

帰ってこい 帰ってこい
村の女は眠れない
夫が遠い飯場にいる女は眠れない
女が眠れない時代は許せない
許せない時代を許す心情の頽廃はいっそう許せない



正直びっくりした。
こんなに良い詩だったなんて。
こんなに反社会的だったなんて。
自分が無知なのは重々承知であるが、こんなにヘヴィな詩だとは思わなかった。
いや、それ以前に詩人が書いた詩だとすら知らなかった。

それにしても良い詩だなぁ。
梶井基次郎「檸檬」、中原中也「月夜のボタン」以来の感動。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
最後の一行・・・グッサリ!きたナム。 (ナムナム)
2013-02-06 09:34:11
最後の一行・・・グッサリ!きたナム。
返信する
ナムナムさん (カメ)
2013-02-06 13:22:53
ナムナムさん

高度経済成長に農家は苛められたんだよなぁ・・・
と考えました。

慣れない工事現場の仕事で命を落とした出稼ぎ労働者は決して少なくなかったでしょう。

今でも農家苛めは続いていると思います。
先日、酪農を営む檀信徒の方が
「経費ばかり掛かるから借金しながら酪農やってる」
と仰っていました。

プリンターのインクにこんな馬鹿みたいなお金を払うなら、牛乳や卵をもっと高く買いたい。
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今の中国も、高度経済成長と言っていたそのころの... (ナムナム)
2013-02-07 09:00:08
今の中国も、高度経済成長と言っていたそのころの日本以上に劣悪なんでしょうなぁ・・・
返信する
ナムナムさん (カメ)
2013-02-07 09:52:34
ナムナムさん

あの国は巨大すぎて統率が取れない感じですね。

宗教弾圧、言論規制を平気で行う先進国?
ちゃんちゃらおかしいですわ。
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