原武史の前著『昭和天皇』の続編のようなもので、著者が強く主張するものはありません。『昭和天皇』で取り上げたことの、裏付けを実録からとるような筆致でした。主要論点として感じたことをまとめますと、以下のとおりです。
1 貞明皇后(大正天皇の皇后)と昭和天皇との確執と政治への関与
2 昭和天皇の退位問題
3 敗戦時における昭和天皇の退位問題
4 天皇家とキリスト教
これらは前著でも問題にされていたことです。新しく指摘されているのは、現天皇妃、美智子との結婚に際して昭和天皇の后が示した難色、公的編纂になる『実録』の記述の限界、とりわけ現天皇に関する事項についての未記入があることなどです。 昭和天皇の退位問題について、次のように述べます。
序論で触れたように、「実録」の最大の問題の一つは、占領期における天皇の退位の可能性についてまったく触れていないことです。「実録」だけを読んでいると、天皇は退位について考えたことなどないかのような印象を受けてしまいます。
正田美智子との結婚については、「つまり、(昭和)天皇と皇后の態度がまったく違うわけです。香淳皇后がこの結婚にどうも難色を示していることが入江の日記にはくわしく記されていますが、「実録」からはまったく見えてきません。」と述べます。
原武史は昭和天皇と実母の貞明皇后との不和にこだわりがあり、このことをどうしても強く主張したいようです。終戦が遅れたのも、昭和天皇が神祀りに取りつかれている母に気を使ったがゆえに、延ばし延ばしとなってしまったのだとしたら、どうしようもない話です。それこそ天皇制など廃止すべきです。