ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

宇宙よりも遠い場所・論 56 行きて帰りし。そして、きっとまた…… 01

2019-01-23 | 宇宙よりも遠い場所
 『よりもい』は、陽と陰、軽と重、明と暗とのバランスが絶妙なアニメ。しかも、7:3くらいで陽性のほうに傾いている。爽やかでユーモラス。いっそコメディーといってもいい。だからこそかえって、芯に込められた重いテーマがずっしりと心に届くのだ。
 全編をしめくくる13話は、その向日性を余すところなく発揮した、見事な大団円である。


 12話のラストから、短からぬ日数が経過している。
 南極はもとより非日常の地。しかし、朝起きて業務をこなして食べて寝て……の毎日を送っていれば、それもまたひとつの日常になる。そんな「非日常の中の日常」に、すっかり馴染んだキマリたちの図だ。
 しかし、そうはいっても、ここでしか見られぬ風景、ここでしか聴けない音、ここでしかできない体験はまだ残っている。もっともっと、色んなところを巡りたい!
 というわけで、それぞれの課題をはたした4人は、大人組との交流をふかめつつ(というかもうほとんど溶けこんで)、今話では、さながら「リゾート地」ででもあるかのように、南極のもつ明るい面、楽しい面を目いっぱい享受する。
 もちろん、滞在期間が残り少なくなるにつれ、かなえたちがそう計らってくれているということでもある。
 この回では4人はもう泣かない。キマリが目尻をこすり、日向が涙を浮かべ、結月が瞳を潤ませるていど。報瀬は終始晴れやかで、悲しみの影とて滲ませない。泣くのはむしろ大人たちのほうだ。それは別れの寂しさだけでなく、この3ヶ月ほどのあいだに目にみえて成長した彼女たちにたいする嬉し泣きでもあるのだが。
 12話につづいて、この回もOPとEDはない。1秒たりとも無駄にせず、最後の最後まで、稀有な完成度を保ったまま、この物語を描き切る。



 冒頭。目覚まし時計で起き上がるキマリ。今日は当直なのだ。ちょっと遅刻。調理室に駆け込むと、日向はもう来ている。メニューの名前は「余り物スペシャル」……ではぶっちゃけすぎということで、弓子のいわゆる「いつものやつ」、すなわち「豚肉の南極風」に。



寝起キマリ



 食事のあとの報告会は、「作り置きのカルピスの濃さ」をめぐって「薄い」「むしろ濃い」と侃々諤々……というユルさで、チームの仲の良さがうかがえる。キマリが「はい当番」と日向にふって、「善処しまあす」と日向。




 そのあとは、厳寒の中をゴミ出し。さらにはトイレ掃除。さきほど「リゾート地のように」と述べたが、その裏ではちゃんと働いてるのだ。南極の地に上陸いらい、4人はずっと働いている。これがこのアニメの美点のひとつで、宮崎アニメを思わせる。宮崎駿さんの好んで描くヒロインも、基本的にはほとんどが労働している。例外は、幼いポニョや宗介、さつきとメイ、狩猟系野生児のもののけ姫サンくらいか。「戦闘」をも「労働」とみるならば、サンさんはむしろ超過勤務だが。
 そんななか、さりげなく挿入されるこのカット。別れの時は迫っている。



 もう少し時間が経って、おやつの時間ということか、貧血気味の保奈美に日向が大量のひじきを供する。「いいから食べてください」という日向に、「いぢわるー。あーあ、来たときは可愛かったのになあ、女子高生」と愚痴る保奈美。その横で夢さんが、淡々とサプリを飲みつつ、「してないから。女子高生」とひとこと。「お茶いります?」と尋ねるキマリに、「あんまり南極に染まると、社会復帰できなくなるよ、あんなふうに」と保奈美。


割烹ギマリ


 「あんなふう」とはこの人のことである。なお、これが13話における初登場シーン。


すでに雀豪の風格

七索(チーソー)ロンです。リー即純チャン三色ドラドラ。あ。すみません。裏々で三倍満です




 「あれはまた……別だと思いますけど……(^-^;」とキマリ。まあ、お金さえ賭けねば、麻雀は将棋・囲碁とならぶ知的ゲーム。4人で遊べるぶん社交性も高い。


 「なんかこの音きくと家いるみたいだねー」などといいつつ掃除機をかけているところに、結月が外から戻ってくる。
 日向「お。どこ行ってた?」
 結月「ちょっと誘われたので取材に」
 キマリ「あ。島内散歩?」
 結月「はい」
 島内散歩。
 Googleで「南極 島内散歩」と検索をかけてトップにくる「昭和基地NOW」から引用させていただくと……。


 今日は休日。基地の中でゆっくり過ごすのもいいですが、やはりせっかく南極に来ているので外に出たい!というメンバーが8人集まり、基地周辺の散歩に出かけました。とはいえもちろん行き当たりばったりで出かけるわけではなく、事前にコースやスケジュールなどの計画を立てて行われます。
 今回の散歩コースは、まず昭和基地のある東オングル島内の「胎内くぐり」と呼ばれる岩まで行き、そこから東オングル島のすぐ南東に位置する「ポルホルメン」という島、さらにその南西側にある西オングル島の「第1次南極観測隊上陸式」が行われた場所などを回りました。
 とてもいい天気だったのですが、気温が低く南からやや強く冷たい風が吹いていたため思いのほか苛酷な散歩となりました。しかし、普段なかなか行く機会のない場所に行くことができ、写真を撮ったりゆっくり風景を眺めたり、楽しい時間を過ごすことができました。


 おそらくキマリたち一行も、このルートを辿ったものと思われる。


イエーイ!

 キマリ「私と報瀬ちゃんも昨日連れてってもらったよ」
 日向「なんだよ、言ってくれよー」
 結月「だって今日は当直じゃないですか」
 キマリ「仲間はずれー」



 この「仲間はずれー」は印象ぶかい。本来それは日向にとってはいちばんこたえる言葉のはず。キマリは大らかではあっても無神経ではけしてない。少しでも距離感があったら、この言葉を口にはできないだろう。それくらい、もう、4人は心を許し合ってるのだ。
 しかしまあ、それはそれとして、こんなとき日向はこういうことをやる。8話で結月のおでこに落書きし、11話で報瀬にデコピンしていたが、日向にはちょっぴり荒い所があって、キマリは7話でもデコピンされていた(画面には映っていなかったが)。今回の「仲間はずれー」は気の毒だが、これでバランスが取れてるのかな……という気もする。小五郎のおっちゃんが毎回麻酔針で眠らされるかわりに、しょっちゅうコナンを小突いてるみたいなもんで。


うるさい!



 日向「ふん、島内散歩がなんだよ。私はこのあと、アイス・オペレーションに行っちゃうもんねー」
 キマリ「あ、そうか、急がなきゃ!」
 結月「もうすぐ集合時間ですよ」
 「あ。おい」と戸惑う日向に、向こうからすたすたと近づいてきた報瀬がひとこと、
「アイス・オペレーションは全員参加よ」
 日向「え? そうなの?」



 アップになった報瀬のヘルメットに、「胎内くぐり」のシールがきらり。





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