「南極」といえば「オーロラ」だなんて、今どきもう、陳腐とさえ謗られかねない取り合わせだろう。けれどこの作品は、要所において定跡を外したり、こちらの「期待の地平」の斜め上をいったりしながらも、いっぽうでは「ベタ」と言いたくなるほどの律義さで、抑えるべきところは抑えてきた。きらめくべきところで夜空には星がきらめき、昇るべきところでちゃんと昧爽(まいそう)の陽が昇って、キマリたちを照らしたのである。
結月がくわわる3話のオチに使われてたんだし、オーロラは必ずやどこかで出すとは思っていた。しかもこのスタッフなのだから、「ああなるほど。まさにここしかないな」と唸らせられるような、圧倒されるような、泣かされるような、唯一無二のタイミングで出してくるんだろうと信じていた。その予想は、もちろん裏切られなかった。
ただ、それさえもまだ第一段にすぎず、最後の最後にもういちど、オーロラがらみで驚きが待っていたわけだけど。
挿入歌「ハルカトオク」が流れるなか、
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報瀬が3年にわたって送り続けたメールをひとしきり見ていた藤堂(中身は開けていない)
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パソコンを閉じようとして
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はっと気がつく
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いったんシーンチェンジして、船上の4人。
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「はじめて来たときは、遠いなって思ったのに」と報瀬。
「まあ、そんなもんだよな、旅って」と日向。
「まだ終わりじゃないですよ。また、60度50度40度」と結月。
「叫ぶーっ」とおどけるキマリ。
また船酔いしますね、という意味のことを結月が言い、
まあ、いいよ。また何回もトイレ行って、ああ気分わるーい、死にたーいってなって、というようなことをキマリが答える。
「まあいいじゃん、それも旅だ」と日向。
くすっと笑って、「なんか、私たちちょっぴり強くなりました?」と結月。
「もしくは、雑になったっていうか」と報瀬。
「大きいからね、ここは何もかも」と日向。
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もちろん、いちばん相応しい形容は「一回り成長した。」だ。視聴者にはよくわかっている。
またシーンチェンジで、夜。
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「この格好ですか?」
「最後だもん、やっぱりビシッとこれでしょう」
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甲板にて最後の南極リポート。去り際にあれほど堂々たるスピーチをした報瀬、またしてもポンコツに戻っておたおたしている。「えと、キャッチーで、ウイットで、セ、センセーショナルなリポートも……」
「むしろ原稿ないほうがいいんじゃないですか」と結月。
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「よーし、じゃ行くぞー」
なおも報瀬が「え、ちょと待って」とおたおたしつづけるなか……
ふと頭上を見上げたキマリ、
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夜空を指さし、「うわーっ」と絶叫。
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「オーロラだ……」
ここで初めに見つけるのは、やはり「表の主人公」の仕事である。
さらに、「だめだ……きれいに映らない」と慌てる日向に、
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「いいんじゃないかな、(さっさと仰向けに寝転がって)そういうのがひとつくらいあっても」
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これもよく引用される名カット
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瞳を潤ませて見上げる報瀬。
ふいにスマホの着信が鳴る。
半身を起こして確かめると……
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「お母さん……」
「うそ!」と覗き込むキマリたち。
4人で歌うエンディングテーマ「ここから、ここから」がはじまる。
添付された画像をひらくと、
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もう涙はない。にっこりと微笑んで、
「知ってる。」
知っているのは、本物の美しさというだけではない。友達といっしょにみるオーロラの美しさ、でもある。
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パソコンのなかに眠っていた、母からの最後のメッセージは、もっとも相応しいひとの手によって、娘に送り届けられた
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キマリ「あれだよ、あれが南極星。けってーい!」
報瀬「あんな明るくないと思うけど……」
ひとつだけ叶えられなかったのは、いずれ再訪するときのお楽しみだろうか。
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オーロラはゆっくりと薄らぎ、消え、新しい朝日が昇る。日常への帰還の時が近づいているのだ
これってよく考えたら三年間の日記を見せているようなものだよね。
母に読ませるのが前提ではあるがかなりプライベートな内容も含まれているであろうと考えると報瀬はそこまで藤堂に心を許したと見るべきか、そこまで考えていなかったか。
藤堂も親に近い立場で報瀬を観る覚悟が出来てないと見れないのじゃないかな。その覚悟まであるかは作中表現では微妙かな。
そしてエンディングテロップに主人公4人組の名はまだ
……
いや歌の欄は除外で
ここのところ、ほかの見解もありうるとは思うけど、ぼく個人は、「そこまで藤堂に心を許した」と見ています。
「南極」という地における偉大な先達であり、亡き母の親友であっただけでなく、子供の頃からの知り合いで、何といっても「魂」を注入してくれた相手でもあるし。
「藤堂も親に近い立場で報瀬を観る覚悟が出来てないと見れない」「その覚悟まであるかは作中表現では微妙かな」とあるのは、まったく同感です。
先のことはわかりませんが、この時点では、藤堂はディスプレイにずらっと並んだ1483通のメールタイトルを見ただけで、中身は開いてないですもんね……(コメントを頂いて、「たしかに誤解を招きそうな説明文をつけちゃったな」と思ったので、訂正しておきました)。
補足というか蛇足として、送信メールの件にもふれておきますと……。
藤堂が「送信トレイ」の中の未送信メールに気がついたのは夕刻ですよね。そちらの内容だけはすぐに確認したはずです。
そしてそれが、かつて「内陸基地」で自分と一緒にオーロラを見たとき、貴子がつくっていたメールだと知った(報瀬が雪上車のなかで幻視したのはその時の情景ですよね)。
それで夜になるのを待って、オーロラが出たとき、これ以上はないベストタイミングで、送信したんですね。
ほんとうに、憎らしいくらい、通信機器を鮮やかに使いこなしたアニメです(このあとラストに強烈なのがもう一発きますし)。
論60のこの記述になるほどなと思わされました。髪を切るのは「なになに失恋ー?」のようによくある描写ですし、13話のこれが先にあり、そこから逆算して12話の床屋のシーンが構成されていそうです。
「喪の仕事」の仕上げ関連では、この記事のメールを送るシーンの吟の黒いスーツから喪服を連想しても、すなわち吟にとっての仕上げを想定してもあながち的外れではないかもしれません。かなえ以下の同時刻にオーロラを見上げていた隊員達が南極チャレンジの服のままなのと対照的です。
小淵沢天文台は先の話ですが、吟もまたメールを届けることでひとまず貴子の願いを叶え、喪の仕事に一区切りつけました。ここで南極で一回り成長し髪を切った報瀬に貴子を見出したことが意味を持ちます。吟は日本に帰る報瀬を送り出しただけではないんです。
で、そうと決まれば、「理髪室なんだから」ということで、「藤堂が鏡の中から報瀬をみる」ビジュアルやなんかをぱっと思いついてやっちゃうあたりが、このスタッフのすごいところなんですが。
コメントをみて気づいたんですが、藤堂って、このメールを送るシーンにかぎらず、「南極チャレンジ」のユニフォームのとき以外は、ずっと黒いスーツで通してますよね。よく似合ってるんで、好みだとばかり思ってたけど、あれは、ずっと喪服を着ているのかもしれませんね。
こうやっていろいろとコメントを頂くことで、新しい発見を得て、作品への理解がふかまっていくのは誠にありがたいです。
貴子が最後につくったメッセージを(しかも藤堂はその場にいたわけで)、自らの手で報瀬に送ったことは、たしかに藤堂にとっても大きな行為だったと思います。
受け取った報瀬にとってのみならず、送信した藤堂にとっても、大きな「一区切り」であったことは間違いありません。
https://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/R1W09RSI47Z6B6?ref=pf_ov_at_pdctrvw_srp
今もって重箱の隅を突く様な楽しみ方をしています。
上記は何時ものamazonレビュー(よりもい設定資料集)。
12話のブリザードの夜、吟とかなえは雪上車に乗っていないと言う論です。
宜しければお読みください。
あ、アニメ「どろろ」、旧作も良いですが新作も凄いですね。
じつはほとんど説得されそうになったんですけども(笑)、ただ、ふと思い返したら、12話の当のシーンで、寝袋にくるまったまま運転席で並んで寝ている藤堂とかなえの姿がワンカット挿入されてるんですよ。
当ブログ内「論・50」のなかの上から12番目の画像で、ぼくは「隊長と副隊長は、万一に備えてこの態勢で眠る」とキャプションを添えたんですが。
これはやっぱり、ここで寝たんだと思うんですよね。もしこのカットがなかったら、おそらくご推察のとおりだったろうと思うのですが……。
でも、この2人のことはともかく、報瀬の寝ている位置など、たくさんの示唆に富む考察でした。色々な参考資料を読み込んで、本作の設定やリアリティーを掘り下げていく姿勢に敬服します。
新作の『どろろ』はほんとに凄いです。作品としてのクオリティーも高いし、たんに「物語論」にとどまらず、民俗学的なモティーフがたっぷりどっさり盛り込まれています。毎回これほどわくわくさせられるアニメは、「よりもい」以来かもしれません。
寝袋担いで居住用コンテナと行き来している筈が無いので、席には寝袋だけ残っている可能性が皆無ではないが(儚い論理的抗弁)、状況を考えると2人は雪上車に残ってるんだろうなぁ。
エコノミー症候群が怖いから普段はコンテナで寝てるとしても。
いや~、ミスりましたな。
レビューは部分的に訂正します。
でも、たしかにエコノミー症候群のことはぼくも気になってました。毎晩この姿勢で寝るのはきついだろうなと。ほかの夜は、ご指摘のとおりコンテナのほうに移っていたのでしょうね。
あと、報瀬だけが窓のみえる位置で寝ていた理由もわかったし、有意義な考察でした。