「喪の仕事」は、たんに死者を忘れ去ってしまうことではもちろんない。遺された自分たちの暮らしのなかに、しかるべき形でその霊を迎え入れることだ。霊という言い方がいかにも宗教的すぎて不穏当ならば、「記憶」と言い換えてもいい。その記憶が自らの生の一部となり、新たな関係が築かれる。それこそが、真に死者を弔うことなのだ。
それはたぶん、身近な人の死を悼まずにはいられないニンゲンという動物に不可欠の営みであって、だからこそ「物語」は、「出で来はじめの祖(おや)」の昔より、「喪の仕事」を主題にしてきたし、そもそも物語ること、モノをして語らしむることそのものが、一種の「喪の仕事」ではなかろうか、ともぼくは考えている。ひとりで勝手に考えてるだけですが。
亡き母・貴子との新しい関係性を築いた報瀬は、ここでひとつの決断をする。
CMが明けると理髪室。思えば「内陸基地」行きはここから始まったわけで、改めてここで、「喪の仕事」の仕上げをするわけである。今回は藤堂とかなえはいない。立ち会うのはこの3人だけ。
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日向「いまさらかよ。切るなら来たときに切っとけばいいのに」
報瀬「なんか、切りたくなった」
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「私、やるっ?」
「キマリさんは下がっててください」
「ええー?」
いつも自分で前髪を切っているキマリ、信用がない。というより、バリカンを持ち出している時点でアウトか
日向「どのくらい?」
報瀬、うなじの辺りでチョキをつくって、ジャキン、というしぐさ。
キマリ・結月「えっ」
日向「まじスか」
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「うん!」
シーン変わって、「夏隊」(ほぼキマリたち4人のこと)の帰還式典。「いつまでぐずってんだよ、本当にもういなくなるんだぞ」「うう……」という敏夫と氷見のやり取りあり(2話の「歌舞伎町鬼ごっこ」の時いらい、氷見はずっと結月のサインが欲しいのだが、どうしても言い出せないのである。少年のように純情なひとだ)。
4人の似顔をあしらった手づくりの旗が正面に飾られ、その前に藤堂とかなえが立っている。「お、主賓が来た来た。さ、こっち並んで」とかなえに迎え入れられた4人、「はーい」と、キマリ、結月、日向の順にその前を通って……。
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「あ」「ええっ」
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「どう、似合います?」
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「やっぱり母娘(おやこ)ね、笑ったところがそっくり」
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参考画像。高校時代の貴子。7話の回想シーンより。
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保奈美「なになに失恋ー?」
キマリ「違いますよ」
日向「いや、でも、ある意味そうかも」
保奈美「ある意味って?」
夢「想像力」
保奈美「わかんないー」
かなえの挨拶のあと、藤堂隊長のスピーチ。
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「皆さんお疲れ様です。今朝は天気も良く、旅立ちにふさわしい朝になりました。」
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「とくに今回は、日本ではじめて、女子高生の観測隊員が南極で過ごしました。それは大きな試みでした。きっと不安だったと思います。私たちもたいへんたいへん不安でした。(キマリたちが、てへへ、と笑い、明るい笑いが広がる。保奈美はもう泣いている)」
「でも、彼女たちは立派に観測隊員をやりきってくれました。あらゆる男性隊員の、帰らないで、という心の声がうるさいくらいに聞こえます。でも、彼女たちは帰ります。あきらめてください(氷見は必死に泣くのをこらえている。弓子が涙を溜めて少しうつむく)」
「最後に……今日までありがとう」
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「向こうに戻っても、たまにでいいので、遠い空の向こう、真っ暗闇の中、黙々と越冬している私たちのことを思い出してください。……ここでまた、会いましょう」
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かなえ「では、夏隊代表として、小淵沢報瀬さん」
報瀬、日向と繋いだ手をぎゅっと握って、
「はい」