ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

宇宙よりも遠い場所・論 58 行きて帰りし。そして、きっとまた…… 03 本気で答えてる。

2019-01-25 | 宇宙よりも遠い場所
 アニメとかドラマとか映画で羨ましいなと思うのは、A地点にて誰かがしゃべり、いったん切って、そのセリフの続きをつないだときに、場面がB地点に移っていても違和感なく見てられるってことである。この手法は、2人の人物が移動しながら話している時などにも使われる。専門用語でどういうんだろうと調べてみたが、wikipediaには「カット割りによる時間経過」とだけ記してあった。「ジャンプカット」とはまた別で、あまりにありふれた手法ゆえ特別な呼称はないらしい。
 ビジュアルは情報量が多い。背景をみれば場所が変わってるのは文字どおり一目瞭然なのだ。だからしぜんに話がつながるのだが、これをコトバでやろうと思ったら厄介で、小説でやってみたこともあるが、難しい。段落ごとバサッと切って、2行ほど空けて次の段落に移るってのがいちばん手っ取り早いけど、それだと滑らかな持続感が出ない。


 「たとえばだけどさ、たとえばだけど……」とキマリがちょっと遠い目をして呟くように言ったとき、4人は採氷の現場におり、まだ日は高かった。それに続けて、「日本に帰らないで、もっと南極にいようよー」というようなことをキマリは述べたらしいのだが、それは表立っては描かれない。
 次のシーンは、日向の「はあ?」という呆れ声からはじまる。
 4人はべつの場所にいて、日はもう翳りを帯びている。これはそのような光のもとでこそ綴られるべきシーン。地味ながら印象ぶかい名場面のひとつだ。



「だから、部屋も空いてるわけだし、ここからならずっと動画も送れるわけでしょ。いまぜったい帰らなきゃいけないってこと、ないでしょ!」


「ん。」

 キマリ、いったんは顔を近づけようとして、


「い、痛くするつもりでしょ。」

 「しない、しない。」


 「う……」真に受けて顔を近づける。なんとも正直な人である。そんでもって、


ぺしっ
手袋をしてる分だけましであろうか

 「う、うそつきー。うぎゃー。」

 「当たり前だ。いま帰らなかったら来年まで帰れないんだぞ。」
 やっぱり日向はちょっぴり荒い。


「わかってるよ、大丈夫。私、空が暗かったらずっと寝てられる自信あるから。」


 「学校はどうするの。戻った時にはみんな卒業よ。」と報瀬。
 「家族はどうするんです?」と結月。
 「ゆづのドラマは?」と日向。


「それは……」

 この顔を見た結月。ふっと微笑んで、

 「まあ、私も帰りたくないって気持ちはありますけど。」

 「じゃあ、また来てくれる?」



「え? ああ、いいですよ?」


 結月のこの、「何を当たり前のことを訊くんだろうこの人は?」みたいな感じの答え方が好きだ。

 「越冬だよ! この4人でだよ!」


「わかってる」

日向の「わかってる」にも安定感が漂う。

 「絶対だからね! 断るのなしだからね!」
 
 かんじんの報瀬が、「はいはい。」と、あしらうような言い方をするので……



「本気で訊いてる。」

むにゅ

「本気で答えてる。」



「ならよし! うひひ。」


全員で寝転がって……





 
 「それより、どうするんですか。隊長に言われたじゃないですか。最後にやりたいことがあったら言えって。」

 「最後か……」 


 キマリのこの「最後か……」のところから、挿入歌「ONE STEP」がはじまる。8話で甲板に出て波をかぶったとき以来だ。この最終話では、これまでクライマックスシーンを彩ってきた挿入歌がぜんぶ使われ、フィナーレを飾る。




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