ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

クーパー家の晩餐会

2016-02-18 23:36:41 | か行

もっとドタバタ家族ドラマかと思ったら
意外としんみり系でした。


「クーパー家の晩餐会」68点★★★☆


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クリスマスを前に
一族が集まる晩餐会の準備を進める
シャーロット(ダイアン・キートン)とサム(ジョン・グッドマン)夫妻。

しかし40年連れ添った夫婦は、
誰も知ることなく、離婚の危機を迎えていた。

そんなことは何も知らない
シャーロットの父(アラン・アーキン)は
ウェイトレスのルビー(アマンダ・セイフランド)のいるダイナーに日参し、

シャーロットの妹(マリサ・トメイ)は
なんと警察のお世話になることに?!

それぞれのストーリーが
晩餐会に向けて動き出し――?!

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「アイ・アム・サム」(01年)の監督が描いた
クリスマス家族劇。


祖父に、その息子夫妻、さらに彼らの子どもたちに、その孫・・・・・・と
4世代(!)が集まる晩餐会に向けて、

中心となるダイアン・キートン×ジョン・グッドマンの夫妻を中心に
それぞれのストーリーを
群像劇な感じで描いています。


街中がクリスマスムードに染まる
アメリカの風景を見るのはものすごく楽しくて
これは
クリスマスシーズンに公開してほしかった!

と身をよじりたくもなりますが
それは置いといて
外見のハッピーさに比べ、中身はかなりグレートーン。


一見、幸せそうな家族でも事情あり――な展開はお決まりだけど
想像以上に意外に深刻度が高く、
ラストまでハッピーで終わるか?わからない。

正直、
もうちょっと中身も振り切れハッピーでもよかったな、と
勝手なことを思うのでありました。


それに、この作品を微妙に混乱させているのが
俳優たちの年齢(受ける印象からが大きいんですが)。

アラン・アーキン(81歳)(以下、実年齢です)の子どもが
ダイアン・キートン(70歳)で
その夫がジョン・グッドマン(63歳)。

ダイアン・キートンの妹が
マリサ・トメイ(51歳)で
さらにダイアン・キートンの子どもたちが
エド・ヘルムズ(42歳)とオリヴィア・ワイルド(34歳)。

どこで
ボタンを掛け違ったかわからないんですが
(あきらかに、ダイアン・キートンのところだろう!・・・って
無粋な突っ込み、すみません!

ダイアン・キートンは
「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」
モーガン・フリーマン(78歳)との夫婦役がすっごくいい感じだったくらいだし
アラン・アーキンと夫婦でもよさそうなんですよねえ。


そのせいか
どうも「家族」の関係性に
しっくりこないという。
豪華キャストが、逆にちょっともったいなかったんですが

ただ
「クリスマスはみんなが
『ハッピーでいなくちゃ!』とパニックになっている」というセリフには
「なーんだ、やっぱりね」と共感しました(笑)
あと家族の飼い犬ワンコ、カワイイです!


★2/19(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開。

「クーパー家の晩餐会」公式サイト
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もしも建物が話せたら

2016-02-17 23:49:59 | ま行

165分とボリューミーだけど
すっごくおもしろかった。

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「もしも建物が話せたら」80点★★★★


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ヴィム・ヴェンダース氏、ロバート・レッドフォード氏ら
6人の映画監督が

自ら、「思い入れのある建築」を選び
「もし建物が話せたら、僕らになんと言うだろう」
というテーマでそれぞれ30分弱で映画にした作品。

6人分なので
165分!とボリューミーですが
これは、その価値あるでしょう!

まず
テーマをそれぞれの監督がどう受け止めたのか。
そのうえで、どの建築を選んだのか。
その違いと個性がそれぞれに楽しめて
しかも、どれも美しく、おもしろく
ハイクオリティなのがさすが。


例えば
ヴェンダース監督のベルリン・フィルハーモニーホールは
女性として擬人化される。

まさに客船内のようなホールを移動する
優美で優雅なカメラワークは“天使の視線”そのものという感じで
サイモン・ラトルの指揮、オケの演奏もあり
見どころ満載です。

続く
ロシアの図書館は
とにかく魔窟のようなカオスの迫力がすごい。

個人的には
「100.000年後の安全」
マイケル・マドセン監督の
ノルウェーの刑務所が一番好き。

建物とその中にいる人々のストーリーが
しっかりかみ合っていた。
でもこれ、女性が撮ったのかと思ってたんだよなー。


建物の擬人化がうまかったのが
ノルウェーのオスロのオペラハウスを撮った
マルグレート・オリン監督。
「私にできることは、あなたたちのことを憶えていること」に
ツンと切なくなりました。

ロバート・レッドフォード監督は
過去映像などを使って
一番王道ドキュメンタリーっぽい。

ブラジル生まれの監督が撮った
パリのポンピドゥー・センターは
本当に空港みたいなんだなあと驚きます。

「古いパリの街に乗り上げた
ジュール・ヴェルヌの潜水艦か蒸気船みたい」とか
うまいこと言うなあと。

行ったことのないその場所のその建築を
深く知るおもしろさ。
「世界ふれあい街歩き」の建物バージョンともいえるかも。

ただ映画のなかで
各監督の「その建物を選んだ理由」とかは語られないので
ぜひパンフレットで見るか、
トーク解説付きで鑑賞したいですねえ。


★2/20(土)から渋谷アップリンクほか全国順次公開。

「もしも建物が話せたら」公式サイト
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牡蠣工場

2016-02-16 23:45:09 | か行

想田和弘監督の最新作です。

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「牡蠣工場」68点★★★☆


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奥さまの母方の故郷、
岡山県・牛窓の牡蠣工場にカメラを向けた145分。

猫で始まり、
猫が合間の道案内役になるのが
想田監督らしいですねえ。


広島に次ぐ、牡蠣生産地である岡山。
しかしかつては20軒近くあった牡蠣工場は
いまは6軒になったそう。

そのなかで残る工場に密着しています。

その工場を引き継いだ渡邊さんは
震災で実家の牡蠣工場が打撃を受け
宮城県から移住してきた方。

そして渡邊さんは時代の波を受け、
牡蠣の殻を取り除く「むき子」の仕事のために
中国の若者を迎え入れることになる――という展開。

全体にいつもながらの
「観察目線」で、淡々と進む想田節で
普通の風景のなかに、問題を含ませ、にじませる。

ボーッと見ていても興味深いのですが
しかし中国人労働者たちがやってくるという
映画としては大きなトピックとなるくだりで
受け入れる側の工場関係者が
いっとき「(撮影)配慮してよ・・・・・・」みたいな雰囲気になる。

結局は中国の青年たちも撮影OK
全然、問題ないんですが

このときに
撮影される側、特に年配者たちの“素”と
撮影者側の躊躇が写ったような気がする。
実際、
その辺りからカメラが揺れ、ちょっと不安定になるんですね。


想田監督作品では珍しくかなり映像酔いしてしまった(苦笑)。
さらに
145分はちょっと長かったかな、と。

思い返すと、あの“素”の部分は
ドキュメンタリーとして、かなり貴重な撮れ高ではあると思いますけどね。


★2/20(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「牡蠣工場」公式サイト
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SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁

2016-02-15 23:42:47 | さ行

これは人気あるのも、わかるわ。


「SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁」69点★★★☆


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1895年のロンドン。

ベーカー街のシャーロック・ホームズ(ベネディクト・カンバーバッチ)のもとに
不可思議な事件が持ち込まれる。

ウェディングドレス姿のまま
謎の言葉を発しながら、絶命した花嫁。

そして数時間後、彼女の夫も殺された。

しかし、目撃された犯人は
死んだはずの花嫁だったのだ――!

犯行は幽霊の仕業なのか――?!
ホームズはワトソン(マーティン・フリーマン)と
事件の謎に迫るが……。


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ベネディクト・カンバーバッチをスターダムに押し上げた
BBC放送の人気ドラマ「SHERLOCK/シャーロック」の特別編が
期間限定で劇場公開。

メイキングなど特典映像もついています。


ミステリー好きとしても
このドラマ、見たい見たいと思っていたけれど
未見だったので

今回の映画でいろいろ腑に落ちた感じ。
メイキングも、おもしろかったし。


シリーズは現代が舞台だそうですが
本作は、シャーロックホームズの時代のロンドンが舞台。

王道ホームズっぽいけれど
起こる事件は
「忌まわしき花嫁」のタイトルどおり
ゴシックホラー的要素もある。

ただ舞台は昔になっても
やっぱり“いまっぽい”。

カンバーバッチのシャーロック・ホームズは
頭の回転は早いけど、かなりアブないキャラとして
完全に“構築”されており

映像の見せ方も、展開も
エフェクトを多用し、スピード感が現代的。

なるほどこれは人気もわかるなあ、という内容でした。


先日、3/18(金)公開のイアン・マッケラン主演
「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」の取材で
ホームズ本の翻訳家で、日本シャーロックホームズ・クラブ発起人でもある
東山あかねさんにお話を伺って知ったのですが

この「忌まわしき~」も「Mr.ホームズ」も
コナン・ドイルが書いたものではない
ホームズ主人公のこうした多くの物語を
パスティーシュ、と呼ぶそうですね。

古くは「パロディ」と呼ばれていたもので
でも笑いとかではないので「パスティーシュ」と呼ぶようになったそう。


あちこちに、本家へのオマージュというか、
本家作品の要素が散りばめられていたりして
それを見つけるのも、ファンにはたまらないんだとか。

メイキング見ると、
監督もかなりの“シャーロキアン”(笑)。

シリーズやっぱり見たくなりました。


★2/19(金)から全国で公開(期間限定特別公開)

「SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁」公式サイト
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火の山のマリア

2016-02-12 20:09:20 | は行

舞台はグアテマラ。
やはり「見たことのない、世界を見た!」感覚が大きいですね。


「火の山のマリア」73点★★★★


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17歳になるマヤ人のマリア(マリア・メルセデス・コロイ)は
火山のふもとで農業を営む両親と暮らしている。

マリアの両親は、
妻に先立たれた地主の男に
マリアを嫁がせようとしていた。

だがマリアは村の青年に想いを寄せ、
彼に従って身を任せてしまう。

しばらくしてマリアは
自分のお腹に宿った命に気づき――?!


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グアテマラ出身の監督が、
マヤ人の娘と母を描いた作品。

第65回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞しています。


彼らの生活は
実にプリミティブで、その新鮮さがまず第一。

例えば冒頭、
ブタを交配させようというシーンで
連れてきたオスのブタがその気にならない。

17歳のマリアが「やる気、ないよ」と言うと
母いわく「ラム酒でその気にさせるんだよ」。
そして本当にブタに、グビグビとラッパ飲みさせるんですよ!(笑)
このズバリさに笑いがこみ上げてしまいます。

そんなマリアには
親の決めた結婚相手がいるんですが
彼女は村の青年に想いを寄せていて、彼に処女を捧げてしまう。
でもね、この青年が「酒の勢いで……」なんですよ。
その符合に生々しい性と生を感じて、またにんまり。

万事この調子で、
その営みの“ナマ”な様子に圧倒されます。


結局、マリアは青年の子を妊娠してしまうんですが
彼女の母親も結局、状況を深い懐で受け止める。

ただ、それだけではないのがこの映画のおもしろさ。

マリアの出産と赤ん坊をめぐって、
事件が起こるんです。

そして
スペイン語を話せないマヤ人に対する差別や
実際に多発している警察などもグルになった
ひどい犯罪が浮き彫りになってくる。

単なる「知らない土地の、知られざる暮らし」だけではなく
もっと大きな問題を発信し、
社会的な意義があるのがこの映画の見どころですね。


熱い大地を踏みしめて生きるマリアは
グアテマラ出身で、現地でのオーディションに現れたそう。
母親役のマリア・テロンもやはりグアテマラの人で
やっぱり、そのリアリティの強さは大きい。

主人公マリアにはちょっとUAやCoccoを思わせる雰囲気があって
自然の神秘と生きる暮らしも
どこか沖縄の世界観に近い印象を受けました。


★2/13(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「火の山のマリア」公式サイト
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