ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ザ・ウォーク

2016-01-17 13:56:35 | さ行

マジで手が汗でぐしょぐしょ。
しかも、両手(笑)


「ザ・ウォーク」71点★★★★


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1970年代。

フィリップ・プティ(ジェセフ・ゴードン=レヴィット)は
幼い頃にサーカスで綱渡りを見て魅了され
パリで大道芸人として、綱渡りをしていた。

ある日、彼はNYで
ツイン・タワービルが建設中だと知る。

このビルの屋上と屋上に
ワイヤーを張って、歩きたい――!

その思いに取り憑かれたプティは
仲間を集め
前代未聞のチャレンジに向けて動き出すが――?!


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超高層ビルの空中に張られたワイヤーの上を
命綱ナシで綱渡りする。

ドキュメンタリー映画「マン・オン・ワイヤー」でも知られる
実在人物の伝説のチャレンジを
ロバート・ゼメキス監督が3Dで描いた作品。

このネタを3Dでこう描かれちゃあ
手も足も出ないよなあ、というほどオイシイ組み合わせです。


全体は主人公プティが狂言回しになって、
この出来事を語っていく構成。

語りも優しく
「ポーラー・エクスプレス」な監督の王道、
お子様にもOKでしょう。


ハイライトはもちろん、ビルの上での綱渡りなんですが
そこまでの準備がとても念入りに描かれる。

建設中のビルに潜り込み
ふたつのビルにどうやってワイヤーを張るんだ?とか
ハラハラで汗が出る。


主人公を助ける仲間に
高所恐怖症の青年がいるんだけど、いや彼は絶対無理でしょ(笑)
屋上のへりに立つだけで
手に汗ドバッ、血の気サーッ(苦笑)

しかも「実話だ」ということが
このうえない強みになっている。

高所恐怖症の方にはおすすめできないけど
でも、のぞいてみたくなりますよねえ
この究極のスリル(笑)

ということで映画体験として
かなりおもしろいですが
ドラマチックは完全にワイヤーの上に集結されていて
人物の掘り下げや人間ドラマ部分は特にない。

なので
なぜプティという人物が仲間をここまで動かせるのか?
は不思議なままだったな。

あと、実話だとわかっていても
風の影響がここまでないのかなあ、というのは
ちょっと疑問に感じました。ビル風って、すごそうだけどなあ。

あ、思い返すだけで、緊張が胃にこみ上げてきたので
もうやめます(笑)


★1/23(土)から全国で公開

「ザ・ウォーク」公式サイト
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フランス組曲

2016-01-08 21:06:13 | は行

この話を書いた人と、その状況を思うと
複雑な意味が見えてくる、という。


「フランス組曲」69点★★★★


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1940年。

フランス中部の小さな町に暮らすリシェル(ミシェル・ウィリアムズ)は
義母(クリスティン・スコット・トーマス)と
戦地に行った夫を待っていた。

こんな時代にも
小作人たちから容赦なく取り立てをする義母に
リシェルは戸惑いを隠せない。

そしてついにフランスはドイツの支配下に置かれ
リシェルたちは屋敷をドイツ軍の将校に
宿として提供することになる。

やってきた中尉(マティアス・スーナールツ)は
礼儀正しい青年だったが――。


*************************


第二次大戦中、ドイツに占領されたフランスで
主人公の家にドイツ軍の中尉が滞在することになる。

これって2010年にリバイバル上映された
ジャン=ピエール・メルヴィル監督の
「海の沈黙」(47年)を思わせるシチュエーション。
そういえばあの原作も戦時中に書かれたのだった。


で、本作では屋敷に暮らす
若き人妻(ミシェル・ウィリアムズ)と
音楽を愛するドイツ軍の中尉(マティアス・スーナールツ)とが
密かに心を通わせる――というお話。


メロドラマだったら
それはそれで「なーんだ」と思いそうなんですが
そう簡単ではなく

いや実際、
いっそメロメロドラマにしてくれたほうがよかったのに~というくらい
後半のスリルはつらい(涙)


そもそも
敵としてやってきた男と、占領された側として出会った女が
心を通じ合わせたり、愛せるものなのか?と
一瞬立ち止まってしまいそうになるんですが

しかし、この話を書いたのは
ユダヤ人女性作家のイレーヌ・ネミロフスキー。

1942年にアウシュヴィッツに送られ、
39歳の若さで亡くなってしまった彼女の
形見のトランクから娘が見つけた作品なのだそうです。

エンドロールにその遺稿が映るのですが
小さな紙に小さな文字で
びっしりと書かれていて

本当にギリギリのなかで
書かれたものなのだということがわかる。

そんな状況を考えると
相当に複雑な気持ちがこみ上げ、
映画にそれが転移するんですねえ。

作家は
決しておとぎ話ではなく
人間にある“心”や”愛”を信じていたのだろうかと。
物語がさらに沁みてくる体験でした。


★1/8(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「フランス組曲」公式サイト
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イット・フォローズ

2016-01-07 23:43:26 | あ行

ホラー分野って
こういう“新芽”が、出てくるから
見逃せないんですよねえ(怖いけど)。


「イット・フォローズ」69点★★★★


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19歳のジェイ(マイカ・モンロー)は
妹にもうらやましがられる美人。

ある夜、ジェイは
彼氏と初めて一夜をともにする。

が、その後ジェイは
彼氏にあることを告げられる。

「本当に申し訳ないが、君に“それ”をうつした
“それ”はどこまでもついてくる。
“それ”に殺される前に、誰かにうつせ

一体、なんのこと?!

そしてジェイの目の前に
ゆっくりと、向こうから歩いてくる“それ”が見えた――。


******************************


ただ向こうからゆっくりと歩いてくるだけの人が怖くなる、
確かにちょっと新しいホラー。

冒頭、郊外の住宅街を
何かから逃げるように走っていく
少女のプロローグがうまい。これは惹きつけられます。

“それ”をうつされた人は
殺されるまで“それ”に追われてしまう。

逃れるには誰かに“それ”をうつすしかなく、
しかし、うつした相手が殺されてしまうと
“それ”はまた自分に戻ってくる――という

この恐怖ルールには
わけわかんないんだけど、妙に心惹かれるものがある。


で、彼氏から“それ”をうつされた少女ジェイも
次々にやられて行くのかとおもいきや

意外と彼女とその友人たちが
“それ”から逃れようと粘るのだ。


正直、粗くはあるんだけど
そんなに血みどろとかではなく、恐怖の質もちょっと変化球。
このオリジナリティはおもしろいですわ。

ホラー分野というのは
こうした「おっ!」が出てくるので
怖くてヤなんだけど、見逃せないんですよ。

近年だと
シャマラン監督の「シックス・センス」(99年)
アレハンドロ・アメナーバル監督の「アザーズ」(01年)

さらに
手持ちカメラの
「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(99年)

死亡フラグ、という概念を形にした
「ファイナル・ディスティネーション」(00年)

うそっこモキュメンタリーの頂点、
「パラノーマル・アクティビティ」(07年)
などなど。

どれも
その後のホラーだけでなく
さまざまなジャンルにおいて影響を与えてますからね。


観客はオリジナリティある映画を
常に求めているものなので

この作品も、オリジナリティに拍手でした。


★1/8(金)からTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国で公開。

「イット・フォローズ」公式サイト
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世紀の光

2016-01-06 15:13:28 | さ行

今年はアピチャッポン・イヤーですよ。


「世紀の光」70点★★★★


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タイの豊かな森のなかにある病院。

女医のターイ(ナンタラット・サワッディクン)が
青年医師ノーン(ジャールチャイ・イアムアラーム)の面談をしている。

その後、
ターイはある青年に求婚され、
自分のかつての恋愛話を彼に話す。

ターイはある青年に思いを寄せていたが
彼は足の悪いジェン(ジェンジラー・ボンパット)のことを想っていた――。


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「ブンミおじさんの森」(10年)
アピチャッポン・ウィーラセクタン監督が
06年に撮った未公開作品です。

ワシ「ブンミおじさん」は
よくわかんなかった人の筆頭で(笑)
でも魅力はわかる、という感じ。

で、本作はブンミ~より好きでした。

単にワシの波長が
作品に合ってきたのかもしれんのですが

初期作品ということもあり、
彼の作家性の萌芽はありつつも、ストレートで瑞々しい。

わからないところあっても
いやではないのです(笑)

優しく、穏やかで、ユーモアもある。
でも何かヘンだし、やっぱり不思議だ。

前半はタイの森のなかにある
ちょっと古い病院が舞台。

これは両親が医者だったという
アピチャッポン監督の原体験を映してもいるらしい。

そして後半の舞台は
都会の無機質な近代的病院になる。


そしてどちらの空間にも
「別の見えない何か」がやはりいる。

登場人物によって
生まれ変わりのエピソードや、昔の伝説が語られるんですが
その場でサラッと流れていく空気のなかに
何かがいるんだよなあ(笑)。

全然怖くはないんですけどね。
それが、自然というか。
それを感じるのが楽しい映画でした。


前半と後半で
同じ会話が繰り返されたりするシーンを見ながら
ああ、なんかゴダール?とか
そういう感覚なのかなと思ったりもして。

わかんなくても、感じればいいのだなあと。
それにしても、あのラストは何なのだ?(笑)


今年は本作に続いて3月に新作「光りの墓」が公開され、
さらに
福岡や青森、横浜でアートエキジビションがあったり
「さいたまトリエンナーレ」に参加したり
その後は「東京都写真美術館」で個展もあるそうで

まさに
アピチャッポン・イヤー!ということです。


★1/9(土)からシアターイメージフォーラムほか全国順次公開。

「世紀の光」公式サイト
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ブリッジ・オブ・スパイ

2016-01-04 23:51:00 | は行

2016年、あけましておめでとうございます!
今年もぽつお番長をよろしくお願いいたします。

で、新年一発目はこちら。


「ブリッジ・オブ・スパイ」71点★★★★


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アメリカとソ連が冷戦状態にあった1957年。

ニューヨークに住む
アベル(マーク・ライランス)は
ソ連のスパイとしてFBIに捉えられる。

アメリカ全土が「対ソ意識」から
アベルを憎悪するなか


アベルの弁護士として
政治とは無関係のドノヴァン(トム・ハンクス)が選ばれる。

最初は躊躇したものの
「どんな人間にも等しく公平な裁判を受ける権利がある!」という正義心から
アベルの弁護を引き受けたドノヴァンだったが――?!


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スティーヴン・スピルバーグ監督×コーエン兄弟(&マット・チャーマン)脚本による
実話の映画化です。

このポルタ―からは100%の人が
「トム・ハンクスがスパイなんだ」と思うよね?
しかし、トム・ハンクスは弁護士なのだった(笑)


さらに実話と聞いていたので
マジメで大事な話でも、面白みには欠けるのかなあと思っていたら
さすが、スピルバーグ監督!
この題材をエンターテインメントに仕上げてくるんですねえ。

さらにコーエン兄弟の脚本による
登場人物のキャラの立たせ方や、黒くとも「プッ」と笑ってしまう会話などが
うまくかみ合っていて

娯楽性を保ちつつ
人権やヒューマニズムを考えさせる。

と、まあいろいろ
予想外でおもしろかったっす。


まず前半は「ガッシリした裁判もの」。

ソ連のスパイとして逮捕されたアベルを
正義感溢れる弁護士ドノヴァンがどう弁護するか、が見もので

さらに後半は舞台を東ベルリンに移し、
いままさに「ベルリンの壁が作られている現場」という
映像では見たことのない状況を描き

とたんに
スリリングなタッチに変化する。

この緩急の妙がいいんです。


なによりスパイものに付きものである
「奥歯に物が挟まった」会話や
各国のビミョーな駆け引きなど

複雑な話をサクサクさばいたのも
すごいなと思いました。


しかしトム・ハンクスのイメージって
どんだけ「正義!」になっていくんかなあと。
そのイメージを逆手にとった役にも期待したいなあと。

次の作品はC.イーストウッド監督が
あのハドソン川の奇跡を描く「サリー(Sully)」(原題)らしく
楽しみですねえ。


★1/8(金)から全国で公開。

「ブリッジ・オブ・スパイ」公式サイト
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