これは、確かに強烈だ。
映画「サウルの息子」73点★★★★
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1944年10月。
アウシュビッツ収容所。
ハンガリー系ユダヤ人のサウル(ルーリグ・ゲーザ)は
同胞のユダヤ人をガス室に送り込む
“ゾンダーコマンド”として働かされている。
つかの間の余命と引き替えに
黙々と作業をするサウルだったが
ある日、彼はガス室で
自分の息子の遺体を見つけてしまい――?!
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タル・ベーラ監督の助監督をしていた
ハンガリー出身、38歳のネメシュ・ラースロー監督の
長編デビュー作。
第68回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞した話題作です。
ナチス収容所の暗部を
若い感性で新しく、ある意味残酷な感覚で描いていて
これは、確かに強烈です。
けど若い感性といえども
監督自身がハンガリー系ユダヤ人で
祖父をホロコーストで失っている。
なるほど、単なる実験や野心ではなく
その必然が映画の血肉となっているんだなあと感じました。
監督はおそらく
「語り尽くされた感あるホロコーストをどう表現するか?」を
極限まで突き詰めたんだと思うのです。
だから映画的な手法が、まずおもしろい。
冒頭から
ピントが合わせてあるのは、主人公サウルのみ。
観客はサウルの視点で、彼の背後からついていく感じなので
周囲が微妙にぼやけていたりして、臨場感ありあり。
その視点はまさに
彼が置かれた状況の“狂気”を表す手段となっているんですね。
で、あるときサウルは
ガス室で、自分の息子を見つけてしまう。
そこからその視点は
彼自身の“狂気”を表現する手段となっていく。
サウルは息子の死そのものよりも
死体をユダヤ教の教義に乗っとって埋葬することに
異常なまでに執着するんです。
で、観客はサウルと一緒になって
周囲で銃撃が起こっても、死屍累々の状況のなかでも
息子の埋葬のために奔走することになる。
その狂信的な盲目さにあ然としつつも
やはり、ハッと思わずにはいられない。
え?何が狂気なのか?
周りの世界こそ狂っているのではないか?と。
しかも最後に明かされる真実とは――?!があるので
うまく作ってあるなあと思いました。
まだまだ、語るべき物語はある、と
この映画は教えているのだと思います。
★1/23(土)から新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で公開。
「サウルの息子」公式サイト