ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

愛して飲んで歌って

2015-02-11 20:58:49 | あ行

粋な「みなさん、さようなら」って感じ。
憧れるなあ。


「愛して飲んで歌って」70点★★★★


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イギリス・ヨークシャー郊外に暮らす
3組の男女カップル。

その一組、
マジメな開業医(イポリット・ジラルド)は
社交的な妻(サビーヌ・アゼマ)に

共通の知人であるジョルジュが
病気であることを話してしまう。

噂はまたたくまに広まり
彼らはジョルジュのことを気にかけ始めるのだが――??

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2014年3月に91歳で亡くなった
巨匠アラン・レネ監督の遺作です。

余命半年と宣告されたジョルジュを巡り、
彼と知己だった3組の夫婦が繰り広げる
ドタバタというか、もろもろを描くもの。

もとは舞台劇だそうで

映画でものどかな田舎町の風景のみが実写、
ほかは演劇のような書き割りふうのセットで役者が演じ、
しかも中心人物であるジョルジュは姿を見せない……と、
けっこう実験的。

加えて
夫婦のセリフのおかしさや
気の利いたやりとりの会話劇に
おもわず笑ってしまうような。


ダンナが妻に
「“放送局”のお前なんかに秘密を話したら
あっという間に広まっちまう」と言い
事実もう広まってるわい!とか笑いまいた。


余命いくばくもない主人公ジョルジュは
姿はなくとも、常にみんなの口の端に上り
彼を巡って女たちがさや当てをする。

監督は
ジョルジュに自分を重ねたんだろうなあ、と思います。


「陽気な人ほど早死にし、無味乾燥な連中ほど生き残る」という
セリフにも胸を突かれたなあ。

洒脱で陽気な映画でみんなを楽しませておいて
「ハイ、さようなら」。
最期はこんなふうに、粋にゆきたいものです。


ラストの写真がちょっと「?」かもしれませんが
あれは天使の写真で


アラン・レネがパリ、ロンドン、ニューヨークの街で撮った写真に
レネの「戦争は終わった」(1966年)の脚本家ホルへ・センプルンが文章をつけた
写真集「REPERAGES」の写真集のなかの一枚だそうです。

やっぱり“死”の暗示なのかなと思います。


★2/14(土)から岩波ホールで公開。ほか全国順次公開。

「愛して飲んで歌って」公式サイト
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フォックスキャッチャー

2015-02-10 23:47:29 | は行

アカデミー賞でも大注目なんですけどね。


「フォックスキャッチャー」65点★★★☆


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1988年、アメリカ。

4年前にロサンゼルス五輪で金メダルを獲得した
レスリング選手、マーク・シュルツ(チャニング・テイタム)は
しかし、いまは苦しい生活をしていた。

そんな彼に夢のような誘いがくる。

大企業デュポン社の御曹司(スティーヴ・カレル)から
「レスリングチームを作るので来てほしい」と言われたのだ。

マークは
同じくレスリング金メダリストの兄(マーク・ラファロ)を誘い
チームに参加しようと誘うのだが――?!

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「カポーティ」「マネーボール」のベネット・ミラー監督が
実際に起こった事件を描いた作品。


いやあ、これはですね
超絶なほど、自由気ままに、静かな映画ですよ。

鏡のように静まりかえる湖面のよう。


役者陣の入魂というか憑依というのか
変化ぶりはすごくて
チャニング・テイタムの身体作りっぷりもすごいけど

なによりも、これがスティーヴ・カレルだって
全然わからなかった!マジで。

マーク・ラファロだって
「はじまりのうた」の彼ですよ?
「え?この人だったの?」とびっくりですわい。


ただ、話としては
結局は母親に抑圧された金持ち男の歪みと、
それにスポイルされてしまう若者の苦しみ……というところで
心動かされる「これ」というものがない。

ひんやりとした映像からは
終始、不穏がつきまとい
すべからく大人の表現だとは思うんですが

なんというんでしょう
誰の感情も“表面化”しないために
見ていて、息苦しい。


究極の静寂(映像)のなかでの役者のぶつかり合いは
見応えありますですハイ。


★2/14(土)から新宿ピカデリーほか全国で公開。

「フォックスキャッチャー」公式サイト
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悼む人

2015-02-09 18:56:45 | あ行

見るだけで
「神社にお参りしてスッキリ」みたいになる不思議。


「悼む人」69点★★★★


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線路脇や道路脇で
ひざまずき、一心に何かを祈る青年・静人(高良健吾)。

彼は不慮の死を遂げた人々を
自分なりの方法で「悼(いた)む」ために
日本全国を旅している。

その姿を見た雑誌記者(椎名桔平)は
彼に興味を持ち、取材を始める。

あるとき静人は、ある殺人事件が起こった現場で
倖世(石田ゆり子)と出会うが――。


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原作・天童荒太×監督・堤幸彦。

不思議な話であります。


自分とは無関係な死者について調べ、
その人が亡くなった場所へ出向き
「あなたを憶えておきます」と弔う青年の話。

別に死者と交信できるとか
スピリチュアル方面に行くわけでなく、

なぜそんなことをしているのか?
登場人物たちも、観客も誰もが疑問に思うわけですが
「これ」という理由がないのがミソというか。


彼の母親(大竹しのぶ)は末期がんだし
途中から同行する女性(石田ゆり子)にも死の影がある。

すべてに“死”がまとわりつく暗い話なのだけど
観たあとにどこか、心がすーっとするというか
お参りをして、清々しい気持ちになるのと同じような感覚になる。


映像が美しいこともあるけれど

誰かを思い、頭を下げるというその行為は
下げる側の勝手な自己満足であっても、
心を浄化させる行為であることは、確かなのかもしれない、と
ふうむ……と感じました。


主演の高良健吾氏が
いたわりの想いが通じる“声”で演じて
説得力を出しています。


ロケ地は福島が中心だそう。
堤幸彦監督は
きっと震災被害者への追悼にも、思いを重ねているのだと思います。


★2/14(土)から全国で公開。

「悼む人」公式サイト
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忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー The FILM #1入門編

2015-02-07 20:15:31 | あ行

年末から、訳あって
ずっと清志郎さん三昧(笑)


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「忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー the FILM #1入門編」69点★★★☆


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1970年にデビューし
2009年、58歳で惜しまれつつ亡くなった
忌野清志郎さん。

その足跡を
1981年(確か)から、復活祭をした2008年まで、
1曲=1ステージずつライブ映像で見せるドキュメンタリー。


本人の日常映像などはほとんどなく
(唯一、自転車にハマっている様子くらい)
ホントにほぼ100%、ライブ映像をつなげたもので

ドキュメンタリーというか、ライブフィルムですね。


「トランジスタ・ラジオ」「雨あがりの夜空に」など
聴くとやっぱり鉄板だな!と思うし
観ながら身体が自然に動いちゃう。

ステージの端々からも
とんがってるのに無邪気そうで、優しそうで、あったかそうな
人柄は伝わってくるけど

ワシ的には
その人となりをもっと知りたくなった。

まあ、ステージの彼とその歌詞が、
彼の全てを表しているのは間違いないんですけどね。

それに「#1 入門編」となってるので
きっと「#2」で描いてくれるのかなーと、期待もしています。
(映画宣伝マンによると
「#2」があるならば、「タイマーズ」とかの方向になるらしいですが


で。ちょっと映画の補完というか、余談というか宣伝(笑)

公開日と同日、2/10発売の『週刊朝日』で
「忌野清志郎さん」特集記事を担当しました。

「その人となりを、教えてもらいたい!」と
11人の方にインタビューを敢行。

ワシがお話を伺ったのは

坂崎幸之助さん
坂本冬美さん
手塚るみ子さん
中村獅童さん
矢野顕子さん
箭内道彦さん

の6人でございます。

もう、なんか、いっぱい
宝物コメントいただきましたので
よろしければ、映画と合わせてぜひご覧くださいませ~。


★2/10(火)から全国で公開。

「忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー the FILM #1入門編」公式サイト
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フェイス・オブ・ラブ

2015-02-05 19:34:45 | は行

自分に瓜二つの人間は
世界に3人いる……んだっけ?


「フェイス・オブ・ラブ」61点★★★


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夫(エド・ハリス)と妻ニッキー(アネット・ベニング)は
人もうらやむラブラブカップル。

が、しかし。
結婚記念日を祝うためにやってきたメキシコのビーチで
夫は溺れ、帰らぬ人となってしまう。

5年後。

いまだ喪失から立ち直れないニッキーは
ある日、街で夫と瓜二つな男性を見かけて――?!

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事故で亡くなった夫に、
瓜二つの男が現れたら、どうする……?というお話。


中年女性をリアルに演じられる
貴重な存在=アネット・ベニングはいいんですが

どうもね~
話がフツーで物足りない。

妻は瓜二つの相手に
「亡くなった夫にそっくりだ」ということを内緒にして
どうなってくの?――とハラハラさせるんですが

そもそも、似てることが
そんなにまずいことかしら?
最初から言っとけばよかったのに、とか
身も蓋もないことを思うワシ。


それにですね
住んでる家がステキ過ぎるとか
(元夫が建築家だからしょうがないけどさー)
元夫に瓜二つの相手の職業もまた、
大学で教えてる画家だとかさ……

なんか、かっこつけすぎ?(苦笑)


役者陣に品があるので、目には楽しいのですが、
中身は中年女性の暴走する妄想ラブロマンス……といったら
気の毒かしらん。


昨年、悲しくも亡くなってしまったロビン・ウィリアムズが
なんだか本人のイメージを投影したような
「いい人」役なのが、泣けました。


★2/7(土)から有楽町スバル座ほか全国順次公開。

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