ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

幸福なラザロ

2019-04-16 23:08:47 | か行

すごい映画が出てきた!

早くも2019年のベスト確実っす。

 

「幸福なラザロ」89点★★★★

 

**********************************

 

イタリア山間部にある、小さな村。

村人たちは侯爵夫人(ニコレッタ・ブラスキ)の支配のもとで

食べるものにも事欠きながら

小作人としてタバコの葉を栽培している。

 

なかでも村一番の働き者である

青年ラザロ(アドリアーノ・タルディオーロ)は

お人好しすぎるあまり、仲間からも仕事を押しつけられ「搾取」されているが

本人は意に介さず、黙々と働いていた。

 

そんなある日、

バカンスにやってきた侯爵夫人の息子タンクレディ(ルカ・チコヴァーニ)は

ラザロと出会い、現状への疑問と母への反抗から

ある計画を思いつく。

 

それは自ら「誘拐された!」といい、親を脅す

狂言誘拐だった。

 

計画に巻き込まれたラザロだが、

その狂言が思わぬ事態を巻き起こし――?!

 

**********************************

 

「夏をゆく人々」(15年)のアリーチェ・ロルヴァケル監督作。

あれもよい映画だったけど、上をきましたね。

こういう筆致を持つ才能に出会うと、本当に唸ってしまいます。

 

予備知識ナシ、をお好みの方は

ぜひ、なにも読まずに観てください!

でも、この映画には

多少のインフォが必要かもしれない、とも思うので

以下に書いてみます。

 

 

 

侯爵夫人のもとで働かされ、

電球1コにも事欠くような、貧しく、素朴な暮らしを営む村の小作人たち。

 

てか、まず小作人? いつの話?と思うじゃないですか。

そうすると

ウォークマンや携帯が出てくるんですよ。

 

は?とびっくりしますけど、

どうやら近年、それも1980年後半から90年あたりの話らしい、とわかる。

 

で、たしかに舞台は近年のイタリアで

しかも実際にあった事件が基だそうなんです。

うーん、これをネタにするなんて、うますぎるでしょ、という。

 

で、主人公は働き者の青年ラザロ。

お人好しで、いい人である彼は、なにかと用事を押しつけられ

村の人々に体よく使われている。

そんなラザロが侯爵夫人の息子と親しくなったことで、ある事件が起こるんですね。

 

で、それが思わぬ結果を引き起こす。

 

 

「この時代に小作人を使っていた!」という事実が暴かれること自体も事件なんですが

いやいや、話はまだまだ終わらない。

 

話は30年ほど先へと飛び、

先の騒動の最中に、行方不明になったラザロが

いきなり、「いま」に再生、いや“復活”するんですね。

 

当時のまま、ボロい服を着て

誰もいなくなった村に驚き、さまよう。

そんなラザロが目にするのは、

イタリアに流れ着き、仕事を奪い合う、難民たちの列。

 

この30年で状況は変わったのか?

いや、世界はより混沌としてないですか?という提示でもある。

 

でも、そんな現実を説教ではなく

ひんやりと残酷に、かつ寓話のごとき「映画」に昇華させたアリーチェ監督、ただ者でないんですよ。

 

 

ラザロのようにいつも時代も

「善人が馬鹿をみる」状況はあった。

しかし今の時代、それがさらに加速している、と見て感じます。

ここに描かれるのは、

そんな人間のどうしようもない「愚行」。

それを突破できるキーを

観る人がラザロの献身と高潔から、感じられ、

何かよき方向に、つなげられればいいなと思うのです。

 

でね、ワシがいま圧倒的に注目しているのは

彼女含め次世代の女性監督3人なんですよ。

 

本作のアリーチェ・ロルヴァケル監督、そして

ミア・ハンセン=ラブ監督

サラ・ポーリー監督

 

3人とも共通するのは

1)若くして才能を発揮したこと。

2)「マスター」と呼ぶべき最高の師匠や指針があること。

(アリーチェは、映画にも出てる姉アルバ・ロルヴァケルの存在も大きいよね。

さらに、フェリーニ、ヴィスコンティの遺伝子を受け継いでる、とされてます)

 

3)そして、いずれも自身が女優もできるほどの美人!であること。

4)年齢にしてあり得ない「深淵」を覗いた感を持っていること――。

 

だよな~、と思う。

これ、研究課題にしたいとこなのですがw

 

 

まあとりあえず、この映画は

全ての人、観るべき!と思うのでした。

 

★4/19(金)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「幸福なラザロ」公式サイト

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