ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ナポリの隣人

2019-02-09 23:27:49 | な行

 

「家の鍵」のジャンニ・アメリオ監督。

容赦ない。

 

「ナポリの隣人」72点★★★★

 

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南イタリア、ナポリ。

老人ロレンツォ(レナート・カルペンティエーリ)は

街中のアパートに独りで暮らしている。

 

妻はすでに亡くなり、

娘(ジョヴァンナ・メッゾジュルノ)や息子との関係も冷え切っていた。

 

そんなある日、ロレンツォは

若い女性ミケーラ(ミカエラ・ラマッツォッティ)が

アパートの階段に座っているところに出くわす。

 

最近、幼い二人の子と夫と向かいに越してきたというミケーラは

鍵を忘れて、家に入れずにいた。

 

ロレンツォは彼女を家に招き入れ、

向かいとつながっているバルコニーを開けて、彼女を家に入れてやる。

 

そんな縁で、ロレンツォは彼女の家族と

つかの間の交流を始めるのだが――?!

 

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「家の鍵」(04年)や

カミュの「最初の人間」(11年)など

人間を描いてきたイタリアの名匠ジャンニ・アメリオ監督の新作です。

 

偏屈じいさんの向かいに越してきた若い家族。

まあ普通なら

お隣との交流を通じて、じいさんにちょっとした変化が――?とかにいきそうなものですが

いや、ここには、安易な心の通じ合いなどないのです(キッパリ)。

 

 

じいさんも、若い家族も、じいさんの本当の家族も

誰もが心を真に明かすことはなく

触れ合いそうで、触れ合えない。

 

そんななか、「えっ?!」という事件が起きる。

 

 

クールなまでに容赦ない描き方なんですが

まあ、それが実際だよな、と思わずにいられない。

 

実際、ニュースでまさにいま

「いいお父さん」に見えていた人が子どもを殺しているのが現実ですから。

 

人と人とは、安易に通じ合えない。

人の心は簡単にはわからない。人と人は簡単には通じ合えない。

 

そのもどかしさ、コミュニケーション不全は、

まさに現実を生きる人間の息遣いそのもので

そのリアルが、

心にしみじみと深い波紋を残すんです。

 

そして、こんな世でも最後に、ごくごく薄く残るものが

「希望」だと信じたい。

と、思うのもまた、人間なんだろうな、と。

監督はすべてをわかっているようです。

 

★2/9(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「ナポリの隣人」公式サイト

コメント
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