ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ともしび

2019-02-01 23:13:57 | た行

シャーロット・ランプリング主演。

そりゃ、観るしかない!と行くと衝撃かも。

 

「ともしび」72点★★★★

 

**********************************

 

ベルギーの小さな街に暮らす

初老の女性アンナ(シャーロット・ランプリング)。

 

いつものように夫と静かな夕食を囲んだ翌朝、

二人はある場所へ向かう。

そして、そのまま夫は帰ってこなかった。

 

ひとり家に帰ったアンナは

飼い犬に餌をやり、演技クラスに通い、プールで泳ぎ、

淡々と普段の生活を続ける。

 

が、その日常に生じた、かすかなひびわれは

じわじわと、彼女を侵食してゆく――。

 

**********************************

 

シャーロット・ランプリング主演。

老境にさしかかった女性の心象を描く点で

「まぼろし」(00年)、「さざなみ」(15年)の系譜につらなる、というのは

確かにそうなんだけど

そりゃ観るしかない!と、いさんで行くとけっこう衝撃かもしれない。

 

1982年生まれのアンドレア・パラオロ監督のアプローチは

かなり実験的というか、野心的なんです。

ギョッとさせる冒頭からして、挑戦的だしね。

 

老夫婦の夫が、ある朝どこぞに行き、そのままいなくなる。

その後は彼女一人の暮らしが淡々と続く。

 

なぜそうなったのか、なにがあったのか

なにひとつ説明されない。

 

セリフもほぼなく、究極にそぎ落とされ

そのなかで、身ひとつをさらしているのが

シャーロット・ランプリングなんです。

 

まあ、なにがあったか、おおよその見当はついてきます。

夫はどうやら何かの罪で収監されたらしい。

そのことで彼女は息子家族たちにも拒絶され、孤立していく。

さらに彼女のまわりからは

プールの会員権が消え、犬が消え、あらゆるものが失われてゆく。

 

枯れる花、プールの更衣室、浜に打ち上げられたクジラ――など

老いと若さの比較や、死のイメージも繰り返される。

 

意地悪いほどに突きつけられる「現実」のなかを

語らず、硬質な表情のまま、感情を見せず、ひとり歩く彼女の全身に

人生や老いなど、誰もに共振するテーマが映り込む。

それがひんやりと、静かに響くんです。

 

実際に肉体をさらすシーンも、ハッとさせて忘れがたく

なんだか全体的に

彼女の身体パフォーマンスアートを観たような感覚にもなりました。

 

シャーロット・ランプリングとイザベル・ユペールは

ワシにとって、もはや生きるための勇気であり、希望であり指針なんで、マジで(笑)

 

★2/2(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「ともしび」公式サイト

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする